第11話 不遇職の寄せ集め
セドリックのパーティ「白銀の翼」は、四人組だ。
リーダーのセドリックは【剣士】。
その隣に、赤い髪を長く伸ばした【魔術師】の少女、ロザリンド。
白い法衣を着た、穏やかそうな顔の【治癒師】の青年、エミール。
そして長弓を背負った、無口な【弓士】のヴァン。
剣士、魔術師、治癒師、弓士。
冒険者の職業の中でも、とびきり人気のあるものばかりだ。
貴族の三男であるセドリックが、家の伝手で集めたらしい。
冒険者になった時期は、俺たちとほとんど同じ。
なのに、全員がもう銅札を首から下げている。
「……行くぞ」
ガルドが小さく言って、受付のほうへ歩き出した。
関わらないのが一番だ。俺も、そう思った。
だが、すれ違いざまに、セドリックの声が落ちてきた。
「そういえば、聞いたぞ」
足が止まった。
「上層で、宝箱の罠に串刺しにされた罠師がいたそうだな」
セドリックは、俺のほうを見ていなかった。
仲間に話しかけるような顔で、でも、ギルドじゅうに聞こえる声で言った。
「罠師が、罠にかかったんだと。傑作だろう?」
ロザリンドが、くすくすと笑った。
周りの冒険者たちの何人かも、こっちを見て、にやにやしている。
(ああ、噂になってたのか)
不思議と、腹は立たなかった。
だって、本当のことだ。
罠師が罠で死んだ。しかも二回目だ。
前世を入れたら、俺のほうがよっぽど笑える話を知っている。
でも、隣にいたミーナは違った。
「――取り消して」
ミーナが、セドリックの前に立っていた。
小柄なミーナが、背の高いセドリックを、まっすぐ見上げている。
腰の小瓶が、かちゃりと鳴った。
「ユーリは、仲間の前で死にかけたの。それを笑うのは、取り消して」
「ミーナ、いいって」
「よくない」
ミーナの声が、震えていた。
怒りで。
セドリックは、少し驚いたようにミーナを見下ろした。
それから、ふっと唇の端を上げた。
「事実を言っただけだ。盾士、斥候、薬草師、罠師。不遇職の寄せ集めで、いつまでも鉄札で上層をうろうろしている。命を落としかける者が出ても、何も不思議はない」
「てめえ……!」
今度はニックが前に出ようとした。
その肩を、ガルドの大きな手がつかんだ。
「やめろ」
「でもよ、ガルド!」
「ここで殴ったら、俺たちの負けだ」
ガルドの声は、低くて静かだった。
でも、その手に、どれだけ力が入っているかは、ニックの顔を見れば分かった。
セドリックは、ニックにもガルドにも興味をなくしたように、背を向けた。
「せいぜい、二度目の串刺しにならないよう気をつけるんだな」
そして白銀の翼は、ギルドの奥の、銅札以上の冒険者が使う部屋へと消えていった。
帰り道。
ミーナは、ひと言もしゃべらなかった。
夕暮れのリーデンの通りを、俺たちは四人で歩いた。
石畳の上に、四つの影が長く伸びている。
「……ミーナ」
宿の前で、俺は声をかけた。
「ありがとな。怒ってくれて」
ミーナは、足を止めた。
振り返ったその目が、少し赤かった。
「だって、悔しいでしょ」
ミーナは言った。
「わたしたち、今日、牙鼠を六匹倒したんだよ。誰も怪我しないで。あの人たちに、それができる?」
「できるだろうな。白銀の翼なら」
「そういうことじゃなくて!」
ミーナは、ぎゅっと唇をかんだ。
「……わたしたちのこと、何も知らないくせに。不遇職だから弱いって、決めつけて」
不遇職の寄せ集め。
確かに、そのとおりだ。
俺たち四人の職業は、どれも冒険者の間では人気がない。
今日まで、俺たち自身でさえ、自分たちは並だと思っていた。
でも、今日、分かった。
(使い方を知らなかっただけだ)
罠師の罠は、近くで待てば経験値になる。
盾士の【不動】は、敵を罠の上に釘付けにできる。
斥候の目は、俺の罠を見分けられる。
薬草師の薬は、罠と組み合わせれば、もっと強くなるはずだ。
この組み合わせを知っているのは、今のところ、世界で俺たち四人だけだ。
「ミーナ」
俺は言った。
「見返すなら、口じゃなくて、結果でやろう」
ミーナは、しばらく俺の顔を見ていた。
それから、小さく、でもはっきりとうなずいた。
「……うん」
「おう、その意気だ!」
ニックが、俺とミーナの肩に、両腕を回してきた。
「よし決めた。次の歌は『不遇職の寄せ集めが、白銀の翼をぶっちぎる歌』だ!」
「題名が長い」
「長いほうが覚えてもらえんだよ!」
ガルドが、宿の扉を開けた。
その口元が、ほんの少しだけ緩んでいた。
その夜。
三人が寝静まった後、俺は今日の戦利品を床に並べて、一つずつ数えていた。
牙鼠の毛皮が、六枚。
牙鼠の魔石が、六つ。
明日、いつものゴードンさんの店に売りに行く予定だ。
毛皮を、ろうそくの明かりにかざす。
罠の槍が貫いた穴は、小指の先ほどの大きさしかない。
滑る床で転んだ牙鼠には、そもそも傷がない。
ニックの短剣も、首筋を一突きしただけだ。
剣で何度も斬りつけたり、魔法で焼いたりした毛皮とは、まるで違う。
(……これ、本当に、いつもと同じ値段でいいのか?)
前世の俺は、会社で数字を扱う仕事をしていた。
仕入れの値段と、売る値段。
その差が、どこに消えていくのか。
なんとなく、嫌な予感がした。
二日前、スライムの核を売った時。
傷ひとつない核を見て、ゴードンさんの目が、一瞬だけ光ったのを、俺は覚えている。
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