↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不遇職【罠師】の二周目 ~前世で見た罠が全部使えるので、底辺パーティでダンジョン踏破を目指します~  作者: ずぼん
第一部 迷宮都市リーデン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/31

第4話 罠は地面に置くもの、だと誰が決めた

隠し部屋の入口から、緑色の顔がのぞいた。


ゴブリンだ。

上層ではよく見る、子どもくらいの背丈の魔物。

一匹なら、今の俺でもなんとかなる。


その後ろから、二匹目。三匹目。


(三匹は、無理だ)


HPは3。

まともに一発もらえば、それで終わる。


この部屋は行き止まりだ。逃げ道は、ゴブリンたちが立っている入口しかない。


ゴブリンたちは、鼻をひくつかせながら、部屋の中をうかがっている。

血の匂いの正体を探しているんだろう。


(落ち着け)


前世の俺なら、こういう時どうした?


ゲームで、勝てない数の敵に囲まれた時。

正面から殴り合ったりはしない。

敵が通る場所に、先に仕掛けを置く。


俺は罠師だ。

仕掛けるのは、本職のはずだ。


入口から俺のいる場所までは、まっすぐ一本道。

ゴブリンが走ってくるなら、必ずここを通る。


俺は、入口と俺の間の床に、手のひらを向けた。


まずは、昔から使える基本の罠。

【滑る床】。


床の一角が、うっすらと濡れたように光る。

MPは2減った。


そのすぐ奥に、もう一つ。

さっき覚えたばかりの【地穿ちの槍】を、一本。


MP:18/30


ほぼ同時に、先頭のゴブリンが俺に気づいた。


「ギッ!」


甲高い声を上げて、一直線に走ってくる。


一歩。二歩。

三歩目で、その足が【滑る床】を踏んだ。


ゴブリンの体が、ぐるんと宙に浮いた。

背中から床に叩きつけられて、そのまま滑っていく。

滑った先は――。


床から突き出した槍が、ゴブリンの体を貫いた。


「よしっ……!」


一匹目が、動かなくなる。


だが、二匹目は止まらなかった。


仲間がやられたのを見て、ゴブリンは床の光っている場所を避けた。

壁を蹴って、跳んだ。


滑る床も、槍も、飛び越えて。

錆びた短剣を振りかぶって、俺の頭の上から落ちてくる。


(速い――!)


罠を置き直す時間はない。

地面に置いても、相手は空中だ。


避けられない。


一瞬、時間が止まったように感じた。


頭の中で、前世の自分が叫んでいた。


(罠は地面に置くもの、って誰が決めた?)


ゲームの中では、空中に浮かぶ罠なんて、いくらでもあった。

この世界の罠師は、みんな地面か壁に罠を置く。

俺も、そう教わった。

それ以外の場所に置こうなんて、考えたこともなかった。


でも、それはただ、誰も試さなかっただけかもしれない。


俺は、ゴブリンが落ちてくる、その目の前の「何もない空中」に手を突き出した。


「――【地穿ちの槍】っ!」


体から、MPが抜ける。


何もない空中から、一本の槍が、横向きに突き出した。


ゴブリンは、自分から槍に飛び込む形になった。

短い悲鳴を上げて、そのまま床に落ちる。

二度と、動かなかった。


「……出た」


俺は、自分の手のひらを見つめた。


「空中でも、出るのかよ……」


膝から力が抜けそうになる。

でも、まだ一匹残っている。


三匹目のゴブリンは、入口で足を止めていた。

仲間が二匹、あっという間にやられたのを見て、警戒している。


じり、じりと、間合いを測るように近づいてくる。


(空中に置ける、なら)


罠を置けるのは、地面と壁だけじゃない。

相手の通り道なら、どこでもいい。


俺はゴブリンの動きを、じっと見た。

右に一歩。左に一歩。

そして、飛びかかる前に、必ず一度、体を沈める。


(今だ)


ゴブリンが体を沈めた瞬間、俺はその「跳んだ先」になるはずの空中に、槍を置いた。


ゴブリンが跳ぶ。

その胸に、空中の槍が突き刺さった。


部屋の中が、静かになった。


MP:8/30


「……はは」


笑いが、勝手にこぼれた。


ついさっき、宝箱の罠で死んだ。

その俺が、宝箱の罠で、ゴブリンを三匹倒した。


(罠は、地面に置くものじゃない)


この世界の誰も知らないことを、俺は今、一つ知った。




気がつくと、手が震えていた。


勝った喜びじゃない。

もし三匹目が、ほんの少し違う動きをしていたら。

もし空中に槍が出なかったら。

俺は今ごろ、二度目の死体になっていた。


そして、二度目は、もう起き上がれない。


(……慎重にいこう。前世みたいに、足元を見ずに歩くのは、もうなしだ)


深く息を吸って、吐く。

震えが収まるのを待ってから、ゴブリンの死体から短剣を一本だけ拾って、俺は隠し部屋を出た。


通路は、行きにみんなで通った道だ。

記憶をたどって、上の階への階段を目指す。


四層から、三層へ。

三層から、二層へ。


途中で何度か魔物の気配を感じたが、そのたびに【隠蔽】で気配を消して、岩陰でやり過ごした。

MPは、少しも無駄にできない。


(HP3で、MP8。完全に縛りプレイだな、これ)


心の中でぼやきながら、それでも足は止めなかった。


二層の、長い通路に出た時だった。


通路の先に、ゆらゆらと揺れる明かりが見えた。


松明だ。

それも、ひとつじゃない。


人の声がする。

足音は速い。ほとんど駆け足だ。


「四層の行き止まりだったな。治癒師、遅れるなよ」

「急いでくれ! ユー坊は串刺しのまま、ずっと一人なんだ! 早くしねえと……!」


聞き間違えるはずがない。

ニックの声だ。


あいつら、本当に戻ってきてくれたんだ。

俺を、助けるために。


「ニック……!」


思わず、走り出しかけた。


その瞬間。


俺と、松明の明かりのちょうど間の暗がりで、何かが身を起こした。


赤く光る、二つの目。

長い牙。


牙鼠だった。


それも、こっちを向いている。


お読みいただき、ありがとうございます。

「続きが気になる」「面白い」と思っていただけたら、

ブックマークや、下の☆☆☆☆☆での評価をいただけると、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。