↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不遇職【罠師】の二周目 ~前世で見た罠が全部使えるので、底辺パーティでダンジョン踏破を目指します~  作者: ずぼん
第一部 迷宮都市リーデン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/37

第36話 鉄札の罠師の言葉は、誰にも信じてもらえない

その日の夕方。

俺は、ギルドの二階の、支部長室に立っていた。


ガルドと、ニックと、ミーナも一緒だった。

それから、左腕を布で吊ったオズワルドさんと、帳簿を抱えたエルザさん。


部屋の奥の机の向こうで、ダグラス支部長が、黒い眼帯の顔をこちらに向けていた。


「……罠、だと?」


支部長の声は、低かった。


「はい」


俺は、うなずいた。


「十層で、ひっくり返った鎧に触れて、罠術で調べました。名前は【巡る鎧】。動くものに反応して、斬る。罠の構造と、同じでした」

「罠が、歩くというのか」

「歩くように作られた罠だと思います。それと、もう一つ。罠の連動の先に、『二十層の主』と出ました」


支部長の、残った右目が、わずかに細くなった。


「二十層の主が、鎧を動かしている、と」

「その可能性が高いと思います。罠の仕組みは、一つの場所にまとまっていました。そこを断ち切ったら、鎧は崩れました」


机の上に、エルザさんが、一枚の紙を置いた。


「十層で、その場にいた鉄札のパーティ三組から、聞き取りをしました。全員が、ユーリくんが触れた鎧が崩れるのを見ています」


支部長は、紙に目を落とした。

長いこと、黙っていた。


それから、紙を机の上に戻した。


「……なるほど。面白い話だ」


その声に、熱はなかった。


「だが、罠師。仮に、鎧が罠だとしよう。お前が触れれば、崩れるとしよう」


支部長は、組んだ両手の上に、顎を乗せた。


「十五層の広場には、今、鎧が何体いると思う」

「……」

「五十体を超えている。下からは、まだ次が上がってくる。お前は、その一体一体に、ひっくり返して、触れて回るつもりか。その間、何人の冒険者が死ぬ」


言葉に、詰まった。


支部長の言うことは、正しかった。


一体を崩すのに、滑る床と落とし穴を置いて、ひっくり返して、触れて、罠術を流し込む。

十層の時は、周りの全員が動かずに耐えてくれたから、できた。

五十体の鎧が隊列を組んで押し寄せてくる中で、同じことはできない。


「では、元を断てばいい」


オズワルドさんが、口を開いた。


「鎧を動かしているのが二十層の主なら、二十層の主を倒せばいい。そうすれば、鎧は止まる」

「誰が行く」


支部長は、オズワルドさんを見た。


「お前の赤錆の鎚は、十八層で、隊列を組んだ鎧の群れに押し返された。二十層は、さらにその先だ。その奥にいる主のところまで、鎧の群れを抜けて、誰がたどり着ける」

「……」

「ギルドの銀札は、全員、十五層の防衛線に張りついている。そこから一人でも抜ければ、防衛線が崩れる」


オズワルドさんは、唇をかんだ。


「それに」


支部長の視線が、俺に戻ってきた。


「罠術で、連動の先が『二十層の主』と出た、と言ったな。それを確かめられる者は、お前以外にいるか」

「……いません」

「鉄札の罠師が、一人で見た文字だ。それに、ギルドの全戦力を賭けることはできん」


部屋の中が、静まり返った。


鉄札の罠師の言葉。


それが、この部屋での、俺の言葉の重さだった。


「話は分かった。記録には残しておく」


支部長は、机の上の別の書類に手を伸ばした。

話は終わった、という合図だった。


「お前たちは、十層での後方支援を続けろ。今日、鎧を一体止めたことは、見事だった。……それは、本心から言っている」




支部長室を出た廊下で、俺たちは、しばらく誰も口をきかなかった。


「……悔しい」


最初に言ったのは、ミーナだった。


「ユーリが、ちゃんと確かめたのに。鎧が崩れるの、みんな見てたのに」

「支部長の言うことも、間違ってない」


ガルドが、静かに言った。


「五十体を、一体ずつは無理だ。二十層まで行ける戦力もない。……支部長は、間違ってない」

「じゃあ、どうすんだよ」


ニックが、壁を拳で軽く叩いた。


「このまま、十層で、運ばれてくる怪我人を地上に送り続けんのか。防衛線が持つうちは、いいけどよ」


誰も、答えられなかった。


「ユーリ」


廊下の端で、オズワルドさんが、俺を呼んだ。


「俺は、お前の言うことを信じる」


吊った左腕を、右手でそっと押さえながら、オズワルドさんは言った。


「十八層で見た鎧の動きは、冒険者の動きそのものだった。あれが、ダンジョンが冒険者を真似て作った罠だと言われれば、俺は納得する」

「わたしも」


エルザさんが、帳簿を胸に抱えたまま言った。


「ギルドの記録に、百年分、一度も出てこなかった魔物。それが、急に、こんなに出てくる。魔物が生まれたというより、何かが作られ始めた、と考えたほうが、筋が通るわ」


二人の言葉は、うれしかった。


でも、支部長を動かすことは、できなかった。


(……一体ずつじゃ、間に合わない)


窓の外は、もう暗くなり始めていた。


十層で崩した鎧の感触を、手のひらが覚えていた。

細い糸の、一本一本の張りめぐらされ方。

歩いて、巡って、斬る仕組み。


構造は、もう、分かっている。


構造が分かった罠は、作れる。


(……作れる?)


その考えが、頭の中で、かちりと音を立てた時だった。


階段を、誰かが駆け上がってくる足音がした。


ギルドの職員だった。

顔が、真っ青だった。


「支部長! 支部長!」


職員は、支部長室の扉を、叩くように開けた。


「十五層の、防衛線が……!」


息が、切れていた。


「防衛線が、崩れました! 鎧の大群が、上へ――十層に向かっています!」


お読みいただき、ありがとうございます。

「続きが気になる」「面白い」と思っていただけたら、

ブックマークや、下の☆☆☆☆☆での評価をいただけると、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。