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不遇職【罠師】の二周目 ~前世で見た罠が全部使えるので、底辺パーティでダンジョン踏破を目指します~  作者: ずぼん
第一部 迷宮都市リーデン編

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第35話 動く鎧は、魔物じゃなかった

十層の、主の部屋。


かつて岩角猪がいた広い洞窟は、今は、冒険者たちの仮の拠点になっていた。


石碑の周りには、薬や食料や矢の束が積み上げられている。

鉄札のパーティが、いくつも、それを十五層へ運ぶ準備をしていた。

洞窟の隅には、毛布が敷かれて、運ばれてきた負傷者が横たわっていた。


「次、二人! 十五層から!」


階段の下から、伝令の声が響く。


俺たちは、もう何度目か分からない負傷者を受け取って、石碑で地上へ送り出した。


防衛線が張られて、三日目。


十五層の広場では、銀札のパーティが、昼も夜も動く鎧と戦い続けているらしい。

運ばれてくる負傷者の数は、日に日に増えていた。


「……鎧、どんどん増えてるって」


ミーナが、運んできた冒険者から聞いた話を、小声で伝えた。


「斬っても斬っても、下から次が来るんだって。へこませても、回復役の鎧がいると、元に戻っちゃうって」


ガルドが、黙って、次の負傷者の担架を持ち上げた。




その日の昼過ぎだった。


「――っ!」


ニックが、突然、顔を上げた。


「下から……がしゃん、がしゃんって音がする。三つ。伝令の足音じゃねえ」


全員が、十一層への階段を振り返った。


「防衛線は、十五層だろ!? なんで十一層に――」


がしゃん。がしゃん。がしゃん。


規則正しい足音が、階段を上ってくる。


洞窟の中が、悲鳴と怒号に包まれた。


鉄札の冒険者たちが、慌てて武器を構える。

毛布の上の負傷者たちが、身をよじる。


「防衛線の脇の、細い通路を抜けてきたんだ……!」


誰かが叫んだ。


階段の暗がりから、三体の鎧が現れた。


前に、盾を構えた鎧が一体。

その後ろに、剣を持った鎧が二体。


隊列を、組んでいる。


「ガルド!」

「分かってる!」


ガルドが、負傷者たちの前に立ちはだかった。

【引きつけ】は効かない。それは分かっている。

それでも、盾を構えて、壁になる。


(倒すんじゃない)


俺は、鎧の足元を見た。


(転ばせればいい。壊さずに)


ずっと、考えていた。

壊れていない鎧に触れられれば、構造が読めるかもしれない。


「みんな、動くな! 鎧は、動くものに反応する!」


俺の叫び声に、洞窟の中の冒険者たちが、一斉に動きを止めた。


鎧の剣が、空中で止まった。


その瞬間に、俺は動いた。


先頭の盾の鎧の、足元に。

【滑る床】と、その先に、浅い【落とし穴】。


動いた俺に反応して、盾の鎧が、ぎしりと向きを変えた。

規則正しい一歩を、踏み出す。


その一歩が、滑る床を踏んだ。


重い鎧が、ぐらりと傾いた。

二歩目が、浅い落とし穴に落ちた。


がしゃああん、と。


盾の鎧は、仰向けにひっくり返った。

手足が、空中で、規則正しく、斬りかかる動きを繰り返している。

でも、穴にはまって、起き上がれない。


「ニック! ユーリを守れ!」


ガルドの声に、ニックが俺の隣に滑り込んできた。


残りの二体は、ガルドとニックが、動かずに耐えて引きつけていた。

ほかの鉄札のパーティも、少しずつ、動かずに鎧を取り囲み始めている。


俺は、ひっくり返った鎧に飛びついた。


胸当てに、両手を当てる。


MPは、まだ十分に残っている。


ありったけの【罠術】を、流し込んだ。




冷たい鉄の奥に、何かが張りめぐらされている。


十三層の時と、同じ感触。

でも、今度は、壊れていない。


細い糸のような仕組みが、鎧の中を、隅々まで走っている。

手足を動かす糸。

剣を振る糸。

そして、それら全部が、一つの場所に、まとまっている。


文字が、浮かんだ。


――【巡る鎧】

起動:動くもの

効果:斬る

連動:二十層の主


息が、止まった。


罠術で、名前が読めた。

起動も、効果も、連動も。


それは、つまり。


(こいつは……罠だ)


魔物じゃない。

死霊でもない。


決まった道を巡って、動くものを斬る。

ダンジョンの床に仕掛けられた槍や矢と、同じ。


これは、歩く罠だ。


そして、連動の先は。


二十層の主。


(中層の主が、こいつらを動かしてる……?)


それだけじゃなかった。


鎧の中の、糸の張りめぐらされ方。

盾の鎧には盾の、剣の鎧には剣の、決まった動き方が組み込まれている。

前に出る。回り込む。後ろから支える。


それは、冒険者がパーティで戦う時の動き方と、そっくりだった。


十二層で、俺が書き換えた飛び矢の罠。

一晩で、同じ手を二度と使わせない形に、作り直されていた。


ダンジョンは、罠を作り直す。

冒険者のやり方を見て。


だったら、この鎧は。


(俺たち冒険者の戦い方を見て、ダンジョンが作った罠なんじゃないのか)


確かめたわけじゃない。

でも、罠術で読めた構造と、オズワルドさんの話と、十二層の飛び矢の罠。

全部が、一本の線でつながっていた。


――罠【巡る鎧】の構造を理解しました。


頭の奥に、あの響きが落ちてきた。


構造が、分かった。


なら。


(罠なら、解除できる)


俺は、鎧の胸の奥、全部の糸が一つにまとまっている場所に、意識を集中した。

二十層の主へとつながる、連動の糸。


それを、断ち切る。


ぶつり、と。


手のひらの下で、何かが切れた。


ひっくり返った鎧の手足が、ぴたりと止まった。


それから。

ばらばらに、崩れた。


胸当てが外れ、兜が転がり、籠手が床に落ちた。

ただの、古びた鉄の板の山になった。


洞窟の中が、しんと静まり返った。


「……今の、何だ」


誰かが、呟いた。


残りの二体の鎧は、ガルドたちが動かずに耐えている間に、十五層から戻ってきた銀札のパーティが、ようやく取り押さえて、叩き潰した。


でも、洞窟の中の視線は、全部、俺のほうを向いていた。


床に崩れた、鉄の板の山の前で。

俺は、自分の手のひらを見つめていた。


罠師は、罠を作る。

罠を読む。

そして、罠を、解く。


(……これなら、勝てるかもしれない)


お読みいただき、ありがとうございます。

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