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不遇職【罠師】の二周目 ~前世で見た罠が全部使えるので、底辺パーティでダンジョン踏破を目指します~  作者: ずぼん
第一部 迷宮都市リーデン編

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第31話 空っぽの鎧

岩盤の下から、俺たちは、鎧を一体だけ引きずり出した。


ガルドとセドリックが、二人がかりで岩をどかした。

ついさっきまで、互いに口もきかなかった二人が、黙って同じ岩を持ち上げている。


「……重いな」

「……ああ」


それが、二人の間で交わされた、初めての会話だったかもしれない。


引きずり出した鎧は、ひどく潰れていた。

兜は、半分ひしゃげている。

胸当ては、岩の重みで、内側にへこんでいた。


「中の人間は……」


エミールが、おそるおそる、潰れた兜をのぞき込んだ。


そして、息をのんだ。


「……いない」


兜の中は、空っぽだった。


胸当ての隙間からのぞいても、中には何もない。

骨も、肉も、血の一滴さえも。

ただ、鎧の内側の、暗い空洞があるだけだった。


「鎧だけが、歩いてたってこと……?」


ロザリンドが、自分の肩を抱くようにして、後ずさった。


「そんな魔物、聞いたこともない」


ヴァンが、珍しく口を開いた。

低く、かすれた声だった。


「死霊の類いなら、エミールの治癒の光で焼けるはずだ」

「試したよ。最初に」


エミールが、首を振った。


「何も、起きなかった。死霊じゃない」


生き物でもない。

死霊でもない。


だったら、これは、何だ。




俺は、潰れた鎧の前に、膝をついた。


MPは、ほとんど残っていない。

それでも、確かめずにはいられなかった。


鎧の胸当てに、手を当てる。


冷たい。

それから――妙な手応えがあった。


ただの鉄の塊を触っている感じとは、違う。

罠を調べる時の、あの感覚に、どこか似ている。


鉄の奥に、何かの「仕組み」が、張りめぐらされているような。


(……罠?)


まさか、と思った。


残りわずかなMPを、【罠術】として流し込む。


文字が、浮かんだ。


――【   】

起動:

効果:

連動:


名前の欄が、空白だった。

起動も、効果も、連動も、何も読み取れない。


――構造を、読み取れません。


こんな表示は、初めてだった。


罠術で調べて、名前すら分からなかったものは、今まで一つもない。

宝箱の幻も、吊り天井も、魔物の雷でさえ、構造が読めた。


(壊れてるから、読めないのか)


岩盤に潰されて、中の仕組みがばらばらになっている。

だから、読み取れない。


そうかもしれない。


でも、胸当てに触れた時の、あの手応えは。

魔物の体に触れた時より、ずっと、罠に触れた時の感覚に近かった。


「……ユーリ、何か分かった?」


ミーナが、後ろから声をかけた。


「いや」


俺は、首を振った。


「分からない。ただ……生き物を触った感じじゃない」


それ以上は、言えなかった。

確かめられていないことを、口に出したくはなかった。


鎧から手を離そうとした時、ひしゃげた胸当ての、内側が見えた。


暗い空洞の、奥の面。


そこに、細い線が刻まれていた。


岩に潰されて、半分以上がひしゃげて、よく見えない。

でも、残った部分の線の形に、俺は、見覚えがあった。


複雑に絡み合った、模様。


四層の、消えた隠し部屋の床。

十層の、主の部屋の壁。


その二つと、同じ模様の、一部のように見えた。


(……また、これか)




帰り道は、八人で歩いた。


白銀の翼は、ヴァンが怪我をしていて、エミールのMPも尽きていた。

二つのパーティで固まって歩いたほうが、安全だった。


ニックとロザリンドが、なぜか、ずっと口げんかをしていた。


「だから、あんたが走った時の顔、すっごい情けなかったって言ってんの」

「命がけで囮やったんだぞ!? 顔くらい情けなくなるだろ!」

「でも、ちゃんと走ってたのは、えらかったと思う」

「……お、おう」


ニックが、急に黙った。

ミーナが、横で、口元を押さえて笑いをこらえていた。


俺の隣を、セドリックが歩いていた。


しばらく、何も言わなかった。


やがて、セドリックが、前を向いたまま、ぽつりと言った。


「……俺は、ヴァレンティ家の三男だ」

「知ってる」

「上の兄二人は、王都の騎士団にいる。父は、俺に何も期待していない。三男は、家を継がない。どこかで勝手に生きろ、とな」


意外な話だった。

貴族の家の伝手で、人気職ばかりのパーティを集めた。

そう聞いていた。


「仲間を集めたのは、俺自身だ。家の名前を使ったのは、確かだがな」


セドリックは、自嘲するように、少しだけ笑った。


「人気の職ばかり集めれば、早く強くなれる。早く強くなれば、家に認められる。そう思っていた。……だから、お前たちを見ていると、腹が立った」

「不遇職の寄せ集めだから?」

「不遇職の寄せ集めなのに、楽しそうだったからだ」


俺は、思わずセドリックの横顔を見た。


セドリックは、それ以上、何も言わなかった。




ギルドに戻った時には、夜もだいぶ更けていた。


報告を聞いたエルザさんは、潰れた鎧の兜を、長いこと黙って見つめていた。


それから、帳簿を開いて、ペンを走らせた。


「……あなたたちが戻る少し前に、別のパーティからも、報告があったわ」


エルザさんの声は、いつもより、わずかに硬かった。


「十二層で、動く鎧を見た、と」


ペンが、止まる。


「それから、もう一つ。十四層からも、一体」


今日だけで、俺たちが見た三体と合わせて、五体。


百年分の記録に、一度も出てこなかった魔物が。

たった一日で、五体も。


お読みいただき、ありがとうございます。

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