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不遇職【罠師】の二周目 ~前世で見た罠が全部使えるので、底辺パーティでダンジョン踏破を目指します~  作者: ずぼん
第一部 迷宮都市リーデン編

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第30話 盾士の引きつけが、まったく効かない敵

「戻る」


ギルドを出たところで、ガルドが言った。


迷いのない声だった。


「白銀の翼に、知らせる。あの鎧がいる場所を」

「……兄さん、いいの?」


ミーナが、兄の顔を見上げた。


「あの人たち、わたしたちのこと、ずっと馬鹿にしてたのに」

「関係ない」


ガルドは、短く言った。


「知っていて黙っていたら、ユーリが八層であいつらを見捨てるのと同じだ」


ニックが、帽子をしまった背負い袋を、きつく背負い直した。


「……しょうがねえな。知らせるだけだぞ。戦うわけじゃねえからな」

「ああ。知らせるだけだ」


俺は、うなずいた。


でも、本当は分かっていた。

あの鎧に出会ってしまったら、知らせるだけでは済まないかもしれない、ということを。




十三層に下りた時には、地上はもう夕方になっているはずだった。


ステータスを確かめる。


MP:43/43(最大MP:58のうち、15を罠に預けています)


十一層の【継続罠】は、まだ動いている。

今からあそこに寄って解除している時間はない。

【継続罠】は、罠のある場所に行かなければ、止められない。


(使えるMPは、43だけか)


放置で稼ぐか、目の前の戦いに備えるか。

その選択を、こんな形で迫られるとは思わなかった。


「――っ!」


先頭のニックが、突然、足を止めた。


「悲鳴だ。女の声……ロザリンドだ!」


ニックが、駆け出した。


「この先の、行き止まりの方! 鎧の音が、二つ!」


二つ。




行き止まりの、狭い空間。


そこに、白銀の翼の四人が追い詰められていた。


そして、その前に、二体の鎧が立っていた。


さっき見たのと、同じような、古びた全身鎧。

錆びた長剣を振り上げて、一定の間隔で、規則正しく斬りかかっている。


「この……っ!」


セドリックが、剣で受け止める。

火花が散る。

セドリックの剣は、鎧の胴を何度も斬りつけていた。

でも、鎧は、へこむだけで、少しも怯まない。


「燃えなさい!」


ロザリンドの杖から、炎が噴き出した。

炎は、もう一体の鎧を包み込む。


鎧は、赤く焼けながら、それでも、まったく同じ速さで歩き続けた。


「なんで……なんで効かないの……!」


ロザリンドの声が、悲鳴に変わっていた。


奥の壁際で、エミールが、ヴァンの腕に治癒の光をかけていた。

ヴァンの腕から、血が流れている。

エミールの光は、弱々しく、途切れ途切れだった。

もう、MPがほとんど残っていないのだ。


「白銀の翼!」


ガルドが、声を張り上げた。


セドリックが、振り向いた。

その顔に、驚きと、それから、一瞬だけ、安堵が浮かんだ。


「お前たち……!?」

「下がれ! 俺が引きつける!」


ガルドが、盾を打ち鳴らした。


【引きつけ】。


魔物の注意を、自分に集めるスキル。

今まで、どんな魔物にも効いてきた。


二体の鎧は――。


こっちを、見なかった。


まるで、ガルドの盾の音など、聞こえていないかのように。

規則正しく、白銀の翼に向かって、剣を振り続けている。


「……効かない」


ガルドの声が、かすれた。


「【引きつけ】が、効かない……!」


背中が、凍りついた。


【引きつけ】は、生き物の注意を引くスキルだ。

それが、効かない。


(こいつら、生き物じゃないのか……?)


考えるのは、後だ。


俺は、二体の鎧の動きを、じっと見た。


一体目は、セドリックが動くと、セドリックに剣を振る。

二体目は、ロザリンドが杖を振ると、ロザリンドに向きを変える。


(動いたものに、反応してる)


さっきの鎧は、決まった道を歩き続けていた。

そして、俺たちが息をひそめている間は、こっちに気づいたように見えても、何もしてこなかった。


決まった道の上で、動くものがあれば、斬りかかる。

動かなければ、何もしない。


それは、まるで――。


(罠の、起動条件だ)


「白銀の翼! 動くな! 全員、その場で止まれ!」


俺は、叫んだ。


「は!? 何を言って――」

「いいから、止まれ! 剣も杖も、動かすな!」


セドリックは、一瞬だけ俺を睨んだ。

それから、歯を食いしばって、剣を構えたまま、ぴたりと動きを止めた。


ロザリンドも、エミールも、ヴァンも、息を殺して固まった。


二体の鎧の剣が、空中で、止まった。


動くものが、なくなったからだ。


「……止まった」


ロザリンドが、震える声で呟いた。


その瞬間、俺は、自分が動かなければいけないことに気づいた。


二体の鎧の、ちょうど真上。

行き止まりの空間の天井は、低い。


「ニック!」

「なんだ!」

「俺が合図したら、あいつらの前を、走って横切ってくれ! こっちの通路に向かって!」

「オレが囮かよ!」

「お前が一番速い!」


ニックは、一瞬だけ天を仰いで、それから、ばっと駆け出した。


鎧の、目の前を。


二体の鎧が、同時に、ぎしりと向きを変えた。

動いたニックを追って、規則正しい歩幅で、通路に向かって歩き出す。


がしゃん。がしゃん。


二体が、並んで、通路の入口の、天井の低い場所に差しかかる。


俺は、天井に向かって、両手をかざした。


十一層で覚えた、あの罠。


【吊り天井】。


体の中から、MPが、根こそぎ引き抜かれていく。

視界が、白く揺れた。


ごうん、と。


洞窟が揺れるほどの音を立てて、天井の岩盤が、落ちた。


二体の鎧が、岩の下に消えた。


土煙が、もうもうと立ち込める。


MP:1/43


膝が、がくんと折れた。

ガルドが、横から俺の体を支えてくれた。




土煙が、ゆっくりと晴れていく。


落ちた岩盤の下から、鎧の腕が一本、突き出していた。


その腕が、しばらく、ぎしぎしと動いていた。

規則正しく。

剣を振るように。


やがて、その動きも、止まった。


白銀の翼の四人は、行き止まりの奥で、呆然と立ち尽くしていた。


ヴァンの腕の傷は、エミールがかろうじて血を止めていた。

ロザリンドは、杖を握りしめたまま、その場にへたり込んでいた。


セドリックが、ゆっくりと、こっちに歩いてきた。


銀の鎧は、あちこちがへこんで、傷だらけだった。

金色の髪は、汗と土で汚れていた。


セドリックは、俺の前で、足を止めた。


そして。


深く、頭を下げた。


「……助かった」


ギルドで、俺を笑っていた声とは、まるで違う、低くて、静かな声だった。


「借りが、二つになったな」


お読みいただき、ありがとうございます。

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