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不遇職【罠師】の二周目 ~前世で見た罠が全部使えるので、底辺パーティでダンジョン踏破を目指します~  作者: ずぼん
第一部 迷宮都市リーデン編

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第28話 一晩置いた罠を見に行ったら、上物の毛皮が山になっていた

翌朝。

朝食の席で、ミーナが首をかしげていた。


「なんかね、夜中に、ぽかぽかした夢を見たの」

「オレも見た。肉の煮込みの夢」

「それは、ニックがお腹空いてただけでしょ」


俺は、パンをかじりながら、二人の会話を黙って聞いていた。


ガルドが、じっと俺を見ていた。


「……ユーリ。何か知ってるな」

「知ってる」


俺は、パンを置いた。


「夜中に、経験値が入ってきた。たぶん、十一層に置いてきた罠からだ」


三人の手が、止まった。


「……は?」

「罠が魔物を倒すと、離れてても、俺に経験値が入るみたいだ。みんなにも、少しだけ」

「ぽかぽかしたの、それ!?」


ミーナが、両手で頬を押さえた。


ニックが、ゆっくりと立ち上がった。


「待て待て待て。つまり、オレらは、寝てるだけで強くなれるってことか?」

「寝てるだけで、少しずつ、な」

「最高じゃねえか!」


ニックが、テーブルを叩いて立ち上がった。

食堂の客が、何人かこっちを振り返った。


「声が大きい」


ガルドが、ニックの肩を押さえて座らせた。


「……ほかの冒険者には、言うな」

「なんでだよ」

「罠師の扱いが、変わる。いい方にも、悪い方にもな」


ガルドの言葉に、ニックは少し考えて、しぶしぶうなずいた。




その日、俺たちは十一層に、罠の回収に向かった。


【継続罠】で倒した魔物の素材は、その場に残る。

罠は、魔物を倒すことはできても、素材を拾って持ち帰ってはくれない。


放っておけば、ほかの魔物に食い荒らされるか、ほかの冒険者に拾われてしまう。


「回収も含めて、放置狩りだな」

「ホウチガリ?」

「……なんでもない」


通路の手前まで来た時、ニックが小さく口笛を吹いた。


「……おいおい」


罠を置いた通路に、狼の死体が、いくつも転がっていた。


一つ、二つ、三つ……。


「七匹……?」


ミーナが、指を折って数えた。


一晩で、七匹。

しかも、どれも、槍が一突きしただけの、きれいな死体だった。


「上物だ」


俺は、思わず呟いていた。


「全部、上物だ。狼の毛皮が七枚、魔石が七つ」


頭の中で、勝手に計算が始まる。


灰色狼の毛皮は、上物なら一枚銅貨六十枚。

魔石は一つ銅貨十五枚。

七匹分で、銀貨五枚と銅貨二十五枚。


それが、寝ている間に。

しかも、俺たちは、一度も剣を振っていない。


(一週間置いておけば、単純計算で……)


「ユー坊」

「……」

「ユー坊ってば」

「……ああ、うん。聞いてる」

「聞いてねえだろ。顔が完全に商人になってたぞ」


ニックに肩を揺さぶられて、ようやく我に返った。


ミーナが、呆れた顔で俺を見ていた。


「ユーリ、今、何枚の銀貨が見えてたの?」

「……三十枚くらい」

「見すぎ」


ガルドは、黙って狼の毛皮を剥ぎ始めていた。

でも、その口元が、ほんのわずかに緩んでいた。


罠は、まだ動いていた。

床の下で、魔物を待ち続けている。


「このまま、置いておくのか」


ガルドが、毛皮を剥ぐ手を止めずに聞いた。


「ああ。ただ、置いてる間は、最大MPが減ったままになる。それに、止める時は、ここまで来ないといけない」

「……戦う時に、MPが足りなくなるかもしれない、ということか」

「そういうこと」


寝ている間に稼ぐか、目の前の戦いに備えるか。

便利な力には、ちゃんと代わりの重さがある。


(まあ、無理のない範囲でな)


定時で帰るのと同じだ。

欲張りすぎると、どこかで必ず、しわ寄せが来る。




毛皮を剥いで、魔石を取り出して。

背負い袋が、ずっしりと重くなった頃。


「……ユー坊」


ニックの声の調子が、変わった。


通路の奥。

罠を置いた場所から、さらに先の、柔らかい土の地面。


ニックが、そこにしゃがみ込んでいた。


「これ、見てくれ」


地面に、足跡が残っていた。


人間の足跡に、似ている。

大きさも、ちょうど大人の男くらいだ。


でも、何かが違った。


「……靴の跡じゃない」


俺は、ニックの隣にしゃがんだ。


足跡の縁が、角ばっている。

革の靴なら、もっと丸い形になるはずだ。

これは、まるで、金属の板を地面に押しつけたような跡だった。


「鉄の靴、ってことか?」

「全身鎧を着た冒険者なら、鉄の靴も履くだろうけど」


ガルドが、足跡を見下ろして言った。


「……おかしい」


ニックが、足跡の並びを、指でたどった。


「歩幅が、全部同じなんだ。一歩も、ずれてねえ」


言われて、俺も気づいた。


人間が歩けば、歩幅は少しずつばらつく。

疲れていれば短くなるし、急いでいれば長くなる。

地面が柔らかければ、足跡の深さも変わる。


でも、この足跡は。


全部、同じ長さで。

全部、同じ深さで。

まっすぐ、通路の奥の暗がりへと続いていた。


「それに、これ」


ニックが、足跡の脇を指さした。


「ここ、オレの罠の……いや、ユー坊の罠のすぐ横だろ。こいつ、罠の真横を通ってるのに、罠が発動してねえ」


背中を、ひやりとしたものが走った。


俺の【継続罠】は、魔物にだけ反応する。

人には、反応しない。


罠が発動しなかったということは。


(……人間、なのか?)


人間の冒険者が、全身鎧を着て、一人で、中層を、まっすぐ奥へ。


それにしては、歩幅が揃いすぎている。


「……ニック。【早耳】で、何か聞こえるか」


ニックが、目を閉じて、耳をすませた。


長い沈黙。


「……何も。足音も、息の音も、何も聞こえねえ」


ニックは、目を開けて、通路の奥の暗がりを見つめた。


「でも、なんでだろうな」


その声が、かすかに震えていた。


「なんか、ずっと、見られてる気がする」


お読みいただき、ありがとうございます。

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