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不遇職【罠師】の二周目 ~前世で見た罠が全部使えるので、底辺パーティでダンジョン踏破を目指します~  作者: ずぼん
第一部 迷宮都市リーデン編

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第27話 寝ている間に、強くなる

罠が、ダンジョンに作り直された。


あの日から、俺はずっと、そのことを考えていた。


ダンジョンの罠は、誰も手入れをしないのに、何年も同じ場所に残り続ける。

矢を放っても、次の日にはまた矢が装填されている。

そして、俺が書き換えた罠は、一晩で、前より手強い形に変わっていた。


(ダンジョンの罠は、消えない)


俺の罠は、違う。

置いてから、長くても半日もすれば、ふっと消えてしまう。

【罠の持続】を覚えてからは、それが丸一日くらいまで延びた。


それでも、ダンジョンの罠には遠く及ばない。


「……何が違うんだろうな」


宿の部屋で、俺は床に寝転がって、天井を見上げていた。


「ユー坊、また考え事か」


ニックが、毛布にくるまったまま顔を出した。


「ダンジョンの罠って、なんで消えないんだと思う?」

「知らねえよ。ダンジョンが勝手に直してんじゃねえの」

「勝手に、直す……」


ダンジョンは、自分の罠を、自分の力で保っている。

だったら、俺の罠も、俺の力で保ち続ければいい。


置いて終わり、じゃなくて。

置いた後も、ずっと、MPを流し続ける。




次の日から、俺は試し始めた。


十一層の、狼がよく通る狭い通路。

そこに、【地穿ちの槍】を一つ置く。


置いた後、手を離さずに、【罠の持続】の感覚に意識を集中する。

罠と、俺の体の間に、細い糸がつながっているような感覚。

その糸を通して、MPを、少しずつ、少しずつ、罠に流し込み続ける。


(……重い)


ずっと、何かを持ち上げているような感覚だった。

罠に流れていくMPは、ほんのわずかなのに、体の奥がじわじわと疲れていく。


三日目。

試しているうちに、ふっと、頭の奥に、あの響きが落ちてきた。


――【罠の持続】の熟練度が、一定に達しました。

――派生:【継続罠】


「……出た」


ステータスを開く。


スキル:【罠術】【棒術】【隠蔽】【魔力回復】【罠の持続】

派生:【継続罠】


派生。

スキルを使い込むと、隠れた力が枝分かれして現れることがある。

冒険者の間でも、噂話くらいにしか知られていない仕組みだ。

まさか、自分の身に起きるとは思っていなかった。


【継続罠】の説明は、こうだった。


――置いた罠を、長く保ち続ける。

――保っている間、最大MPの一部を、罠に預ける。

――効果が大きいほど、保つ時間が長いほど、預けるMPは多くなる。

――罠が発動する相手を、選ぶことができる。


「……相手を、選べる?」




「待て」


その日の夜。

宿の部屋で【継続罠】のことを話すと、ガルドが真っ先に口を開いた。


「ダンジョンに罠を置きっぱなしにする、ということか」

「ああ。何日か、保てるらしい」

「ほかの冒険者が、踏んだらどうする」


ガルドの言うことは、もっともだった。


俺たちがいない間に、ほかのパーティが通るかもしれない。

新人のパーティが、何も知らずに踏んだら。


一か月前の、俺みたいに。


「それが、相手を選べる、ってところなんだと思う」


俺は言った。


「試してみる。人には発動しないように。魔物だけに」


翌日。

十一層の通路で、俺は【継続罠】を使った。


【地穿ちの槍】を一つ。

置く時に、強く思い浮かべる。


――魔物だけ。人には、発動するな。


体の奥から、何かがごっそりと抜けていく感覚があった。


ステータスを開く。


MP:37/37(最大MP:52のうち、15を罠に預けています)


「最大MPが……減った」


普段なら、槍を一本置くのに使うMPは5。

使った分は、時間が経てば戻ってくる。


でも、【継続罠】は違った。

槍一本を一週間保つために、最大MPのうち15を、置いている間ずっと預けっぱなしにする。

預けた分は、罠を解くまで戻ってこない。


普段の槍の、ちょうど三本分。

それが、罠を置いている間、ずっと使えなくなる。


「本当に、人には効かないのか?」

「確かめる」


俺は、罠の真上に、そっと片足を乗せた。


「ユーリ!?」


ミーナが悲鳴を上げた。


何も、起きなかった。


床の下で、槍が眠ったまま、ぴくりとも動かない。


それから、ガルドが乗った。

ニックが、おそるおそる乗った。

最後に、ミーナが乗った。


槍は、一度も出てこなかった。


「……ほんとに、出ねえ」


ニックが、罠の上でぴょんぴょん跳ねた。


「跳ねるな。万が一があるだろ」

「お前が先に乗ったんだろうが!」




罠を置いたまま、俺たちは地上に戻った。


普通なら、罠のそばにいなければ、魔物を倒しても経験値は入らない。

それは、一層で、岩陰に隠れながら自分で確かめたことだ。


だから、この罠は、ただの「通せんぼ」のつもりだった。

狼が減れば、次に潜る時に楽になる。それくらいの。


その夜。


宿のベッドで眠っていた俺は、ふいに、目を覚ました。


体の奥が、温かい。


寝ぼけた頭で、それが何なのか、すぐには分からなかった。

魔物を倒した時の、あの感覚。

経験値が、流れ込んでくる感覚。


でも、俺は、ベッドの上にいる。

ダンジョンから、ずっと離れた、リーデンの宿に。


(……まさか)


もう一度、温かいものが流れ込んできた。


さっきより、小さい。

でも、確かに。


隣のベッドで、ミーナが寝返りを打った。

「……ん……あったかい……」と、寝言のように呟いている。


床の毛布では、ニックが、むにゃむにゃと何か言っていた。


(俺だけじゃない。みんなにも、少しだけ入ってる)


俺は、暗い天井を見上げた。


十一層の、あの通路。

魔物だけに反応する、俺の槍。


【継続罠】の罠は、俺とつながっている。

罠に預けたMPの糸を通って、経験値が、ここまで届いている。


前世の言葉が、頭に浮かんだ。


(放置狩り、だ)


寝ている間に、勝手に経験値がたまっていく。

前世のゲームで、俺が一番好きだった遊び方だ。


まさか、異世界で、本当にできるようになるとは思わなかった。


三度目の、温かい流れが、体の奥に届いた。


俺は、思わず、毛布の中でにやけてしまった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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