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不遇職【罠師】の二周目 ~前世で見た罠が全部使えるので、底辺パーティでダンジョン踏破を目指します~  作者: ずぼん
第一部 迷宮都市リーデン編

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第24話 棍が当たる瞬間に、雷の罠を置けないか

翌朝。

宿の裏手の、小さな空き地。


俺は、樫の棒を構えて、地面に転がした古い木箱と向き合っていた。


「……で、何すんだ?」


ニックが、あくびをしながら聞いた。

ミーナとガルドも、眠そうな顔で井戸の縁に座っている。


「棒で叩いた瞬間に、棒の先に【雷の罠】を置く」

「は?」

「当たった瞬間に、雷が弾ける。叩かれた相手は、痺れる」


三人が、顔を見合わせた。


「……罠って、そういうもんだっけ?」

「空中に置けたんだから、棒の先にも置けるはずだ」


理屈は、単純だ。


罠は、置いた場所で、条件がそろうと発動する。

空中にも置ける。

だったら、棒の先の、ほんの少し前の空中に置けばいい。


問題は、その「ほんの少し前」が、ものすごく難しいことだった。


棒を振っている間、棒の先は動き続けている。

早すぎれば、罠は空中に置き去りになる。

遅すぎれば、棒が当たった後に罠が出て、意味がない。


当たる、その瞬間に、ぴったり。


「いくぞ」


俺は、棒を振りかぶった。


木箱に向かって振り下ろす。

当たる直前――今だ、と思ったところで、【雷の罠】を置く。


ぱちん。


小さな光が、空中で弾けた。

木箱の、こぶし一つ分、上で。


棒は、何事もなかったように、ごつんと木箱に当たった。


「……早すぎた」

「何も起きてねえぞ」

「分かってる」




二回目。

今度は、少し遅らせる。


ごつん。

ぱちん。


棒が当たった後に、木箱の横で光が弾けた。


「遅すぎた」




三回目。四回目。十回目。


早い。遅い。早い。早い。遅い。


ぱちん、ぱちん、と、空き地のあちこちで小さな光が弾ける。

そのたびに、MPが少しずつ減っていく。


(タイミングゲーかよ……)


前世で、似たようなゲームをやったことがある。

画面に流れてくる印に合わせて、ぴったりのタイミングでボタンを押すやつだ。

得意じゃなかった。


二十回目で、俺は地面に座り込んだ。


MPが、半分を切っていた。


「ユー坊、休めよ。顔、真っ白だぞ」

「……あと一回」

「その『あと一回』、五回目だからな」




二十三回目。


棒を振り下ろす。

当たる瞬間。

ここだ、と思った。


ばちっ。


光が弾けたのは、木箱じゃなかった。


棒の先に置くつもりが、ほんの少し手前すぎた。

弾けた雷は、棒を伝って――。


「ぎゃっ!?」


俺の手に、来た。


全身が、びりびりと痺れた。

指が、勝手に開く。

棒が、からんと地面に落ちる。


「ユーリ!」

「ユー坊!?」


俺は、地面に転がったまま、動けなかった。


「……ひ……ひびれる……」


ミーナが駆け寄ってきて、慌てて【小治癒】をかけてくれた。


視界の端で、ニックが腹を抱えて笑いをこらえていた。


「わ、笑うな……」

「笑ってねえよ……ぶふっ……」

「笑ってるだろ……」


ガルドが、無言で俺の棒を拾い上げた。

それから、俺の顔をのぞき込んで、ぽつりと言った。


「……雷の痛さが、分かったか」


昨日、雷角鹿に打たれた本人に言われると、何も言い返せなかった。




昼過ぎ。

痺れが抜けるのを待ってから、俺は練習を再開した。


ただし、やり方を変えた。


「ミーナ。手を叩いてくれないか」

「手?」

「俺が棒を振るから、木箱に当たる瞬間に、手を叩いてほしい」


自分の感覚だけで合わせようとするから、ずれる。

だったら、外から合図をもらえばいい。


前世で、リズムに合わせるゲームが苦手だった俺が、唯一うまくいった方法。

音に合わせるんじゃなくて、手拍子を聞いて体で覚える。


「いくよ。せーの」


ミーナが、俺の振りに合わせて、手を叩く。


ぱん。


その音を聞きながら、振る。何度も。

罠は置かずに、棒だけを振る。


ぱん。ぱん。ぱん。


当たる瞬間と、手拍子の音が、だんだん重なっていく。


「ニックも、やってくれ。ミーナとは、ちょっとずれるように」

「なんでだよ」

「本番は、誰も手を叩いてくれない。ずれた音の中でも、合わせられるようにしたい」

「注文が多いな!」


文句を言いながら、ニックも手を叩き始めた。


ぱん。ぱん、ぱん。ぱぱん。


ガルドは、黙って木箱を新しいものに替え続けてくれた。

叩きすぎて、木箱がもう三つ壊れていた。




夕方。


空き地は、西日でオレンジ色に染まっていた。


もう、手拍子はない。

三人は、井戸の縁に並んで座って、黙って俺を見ている。


木箱の前で、棒を構える。


息を吸う。


振りかぶる。


振り下ろす。


当たる――。


今。


ばちんっ。


棒の先が木箱に触れた、まさにその瞬間に。

青白い光が、木箱の表面いっぱいに弾けた。


木箱の板が、焦げたように黒く変わった。

棒は、俺の手の中で、しびれもせずに止まっていた。


一瞬の、静寂。


「……今の」


ミーナが、立ち上がった。


「今の、当たった瞬間だったよね!?」

「……ああ」


俺の声は、かすれていた。


「当たった」


ニックが、井戸の縁から飛び降りた。


「マジかよ! ユー坊、やったじゃねえか!」


ガルドが、黙って大きくうなずいた。


成功したのは、その一回だけだった。

その後の五回は、また早すぎたり遅すぎたりした。


でも、一回できた。

一回できたなら、あとは、体に覚えさせるだけだ。


(あとは、本番で、動く相手に当てられるか)


木箱は、逃げない。

魔物は、逃げるし、避けるし、反撃してくる。


明日、中層で、試すしかない。


そう思いながら、焦げた木箱を見下ろした時。

宿の窓から、聞き覚えのある声が降ってきた。


「――お前ら、裏で何を燃やしてる!」


宿の主人だった。

三つ壊れた木箱は、宿の薪置き場から勝手に借りたものだった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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