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不遇職【罠師】の二周目 ~前世で見た罠が全部使えるので、底辺パーティでダンジョン踏破を目指します~  作者: ずぼん
第一部 迷宮都市リーデン編

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第23話 雷は、高いところに落ちる

「兄さん、今行く!」

「来るな!」


駆け出そうとしたミーナを、ガルドの声が止めた。


「……次が、来る」


雷角鹿の角に、青白い光が溜まっていく。

ぱちぱち、という音が、だんだん速く、高くなっていく。


(考えろ)


さっきの雷は、まっすぐガルドに落ちた。

一番前にいたからか。

それとも――。


俺は、ガルドの盾を見た。


修理で打ち付けたばかりの、鉄の板。

その真ん中が、焦げたように黒ずんでいる。


雷は、ガルドの体じゃなく、盾の鉄の板に落ちていた。


(……金属だ)


前世の記憶が、頭の中で弾けた。


小学校の理科の時間。

雷は、高いところに落ちる。

そして、金属に引き寄せられる。

だから、高い建物のてっぺんには、避雷針という金属の棒を立てる。


この世界の雷が、前世の雷と同じ性質かどうかは分からない。

でも、試す価値はある。


「ガルド! 盾を、床に置いて、離れろ!」

「……盾を?」

「いいから!」


ガルドは、震える腕で、盾を床に落とした。

そして、よろめきながら、横の岩陰に転がり込む。


雷角鹿の角が、まばゆく光った。


二本目の雷が、空気を裂く。


雷は、岩陰のガルドではなく。

床に置き去りにされた、鉄の板の盾に落ちた。


「……やっぱり」


雷は、人を狙っているんじゃない。

近くにある金属に、引き寄せられているんだ。


「みんな、金属を体から離せ! ニックは短剣を鞘ごと置け!」

「は!? 武器なしでどうすんだよ!」

「俺が、別の場所に雷を集める!」


俺は、雷角鹿と俺たちのちょうど間の床に、手をかざした。


【地穿ちの槍】。


ただし、敵を刺すためじゃない。

床から、できるだけ高く、まっすぐ上に向けて。

一本。二本。三本。


槍の穂先は、鉄だ。

罠術で作った槍でも、それは変わらない。


三本の槍が、雷角鹿の前に、柵のように並んで立った。


(避雷針だ)


雷角鹿の角に、三度目の光が溜まる。


放たれた雷は、俺たちには届かなかった。

一番手前に立つ、一番高い槍の穂先に吸い込まれて、ばちん、と弾けた。


槍は、雷を床に逃がして、そのまま立っている。


「……当たらねえ」


ニックが、呆然と呟いた。


「雷が、全部、槍に……」


雷角鹿は、苛立ったように首を振った。

四度目。五度目。

放つたびに、雷は槍に吸い込まれていく。


そして、六度目。


角の光が、さっきまでより、明らかに弱かった。

ぱちぱちという音も、途切れ途切れになっている。


(溜めた雷を、使い切りかけてる)


前世のゲームの言葉で言えば、MP切れだ。


「ミーナ、今だ! 霧を、あいつの足元に!」

「うん!」


ミーナの投げた瓶が、雷角鹿の足元で割れた。

紫鈴草の霧が、細い脚にまとわりつく。


雷角鹿の動きが、がくんと鈍った。


「ニック、短剣を拾え! 雷はもう、ほとんど残ってない!」

「信じるからな!」


ニックが、床に置いた短剣をひっつかんで、駆けた。


雷角鹿が、最後の力を振り絞るように、角を向けた。

ぱち、と小さな光が弾ける。

でも、それはニックに届く前に、手前の槍に吸い込まれて消えた。


ニックの短剣が、雷角鹿の首筋に沈んだ。




「……兄さん、手、見せて」


戦いが終わると、ミーナはすぐにガルドのところへ駆け寄った。


ガルドの右手は、まだ小刻みに震えていた。

指先が、うまく握れないらしい。


ミーナが【小治癒】をかけると、震えは少しずつ収まっていった。


「……もう、平気だ」

「平気じゃないでしょ。しばらく、盾は左手で持って」

「……」

「返事は?」

「……分かった」


妹に叱られて、ガルドは素直にうなずいた。

その様子に、ニックが小さく吹き出していた。


「にしても、ユー坊」


ニックが、床に立ったままの三本の槍を見上げた。


「なんで、雷が金属に落ちるって分かったんだよ。そんなの、誰も知らねえぞ」

「盾に、焦げた跡があった。ガルドじゃなくて、鉄の板に落ちてたんだ」


それは、本当のことだ。

でも、それだけで「避雷針」まで思いつけたのは、前世の記憶のおかげだった。


(理科の授業が、異世界で役に立つとはな……)


前世の先生が聞いたら、泣いて喜ぶかもしれない。




俺は、倒れた雷角鹿の角に、手を当てた。


まだ、ほんのりと温かい。

角の付け根に、何か、硬い塊のようなものがある。


【罠術】を、流し込んでみる。


これは、罠じゃない。

魔物の体の一部だ。

でも、さっきの戦いを見ていて、思ったことがあった。


雷を溜める。

近くの金属に向けて、放つ。


それは、仕掛けて、条件がそろったら発動する、罠とよく似ていた。


――【雷の罠】

起動:触れる

効果:痺れ

連動:雷を溜める器官


文字が、浮かんだ。


「……出た」


――罠【雷の罠】の構造を理解しました。

――この罠は、生成できます。


魔物の攻撃の仕組みも、構造さえ分かれば、罠として使える。


心臓が、どくんと鳴った。


試しに、床の小石に手をかざして、【雷の罠】を置いてみる。

小石の表面に、青白い光が、ぱちりと小さく灯った。

触れれば、痺れる罠だ。


(地面に置いた罠に、雷を仕込める)


そこまで考えて、俺は、ふと、自分の手の中の樫の棒を見た。


罠は、地面に置くもの。

そう思い込んでいた頃、俺は、空中に罠を置けることを知った。


空中に置けるなら。


(この棒の先に、置けないか?)


殴りつけた、その瞬間に。

棒の先から、雷が弾ける罠。


「……ユー坊?」


ニックが、俺の顔をのぞき込んだ。


「お前、今すげえ悪い顔してるぞ」


お読みいただき、ありがとうございます。

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