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不遇職【罠師】の二周目 ~前世で見た罠が全部使えるので、底辺パーティでダンジョン踏破を目指します~  作者: ずぼん
第一部 迷宮都市リーデン編

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第14話 無傷で倒せば、毛皮は倍の値段になる

「全部上物作戦」は、思ったよりも大変だった。


まず、宿代を三日分、先に払っておく必要がある。

一泊銅貨三十枚。三日で九十枚。

ゴードンさんの店で受け取った銅貨九十枚が、そっくりそのまま消えた。


「……つまり、三日間、オレらは無一文ってことか」

「パンは買える。ミーナの財布に、銅貨が少し残ってる」

「パンだけかよ……」


ニックが、天井を仰いだ。


それから三日間、俺たちは、朝から晩まで二層に潜った。


やり方は、こうだ。


ガルドが、牙鼠を【引きつけ】で罠の場所まで連れてくる。

俺の【滑る床】で転ばせる。

転んだところに、ミーナの痺れ薬。

動けなくなったところを、ニックが首筋の急所を一突き。


槍は、できるだけ使わない。

槍は毛皮に穴を開けてしまうからだ。


「ユー坊、槍出さねえの?」

「出すと、上物じゃなくなるかもしれない」

「……戦い方まで金で決めてんのかよ」

「決めてる」


ニックは呆れていたが、文句は言わなかった。

首筋の一突きは、斥候のニックにとって一番得意な仕留め方だったからだ。


困ったのは、ミーナの痺れ薬だった。


「材料が、足りない……」


三日目の朝、ミーナは空っぽになった小瓶を並べて、ため息をついた。


痺れ薬の材料になる薬草は、二層の湿った壁際にしか生えていない。

摘めば摘むほど、薬は作れる。

でも、摘んでいる間は、誰かが周りを見張っていないといけない。


「わたしが摘んでる間、みんなの手が止まっちゃう」

「いいって。ミーナの薬がなきゃ、そもそも上物にならねえんだから」


ニックが言った。

ガルドも、黙って盾を構えて、ミーナの背中を守った。


三日目の夕方。

俺たちの背負い袋は、素材でぱんぱんに膨らんでいた。




翌日の昼。

ギルドの買取窓口で、査定の結果が出た。


窓口の奥から現れたのは、エルザさんだった。

手には、査定の明細を持っている。


「牙鼠の毛皮、十六枚。うち上物、十四枚。並品、二枚」


エルザさんは、明細を読み上げた。


並品の二枚は、初日に槍で仕留めてしまったものだ。

やっぱり、槍の穴は「大きな傷」と判断されたらしい。


「牙鼠の魔石、十六個。スライムの核、二十個。すべて上物」


ミーナが、ぎゅっと俺の袖をつかんだ。


「合計で、銅貨五百八十枚。銀貨にして、五枚と銅貨八十枚になるわ」


銀貨、五枚。


一瞬、誰も何も言えなかった。


ゴードンさんの店で同じ素材を売っていたら、たぶん、その半分にもならなかった。


「……ご、五枚?」

「五枚と、銅貨八十枚」


エルザさんは、銀貨と銅貨をカウンターに並べた。

それから、ほんの少しだけ。

本当に、ほんの少しだけ、口の端を上げた。


「上物率、九割近く。新人で、ここまでそろえてきたパーティは初めて見たわ」


笑った、のだと思う。

たぶん。




その夜。

俺たちは、宿の向かいの食堂で、少しだけいい夕食をとった。


いつもの硬いパンと薄いスープじゃない。

牛肉の煮込みに、焼きたての白いパン、果物まで付いている。

一人銅貨十五枚。いつもの三倍の値段だ。


「うめえ……」


ニックが、煮込みを口に運んで、涙ぐんでいた。


「三日間パンだけだったからな……肉ってこんなにうまかったっけ……」


ミーナも、目を細めて白いパンをかじっている。

ガルドは無言で、ものすごい速さで二皿目を平らげていた。


俺は、食べながら、頭の中で計算していた。


銀貨五枚と、銅貨八十枚。

宿代が一日銅貨三十枚。食費が、普段なら四人で一日銅貨三十枚くらい。

三日間潜って、これだけ稼げるなら、一日あたり――。


「ユー坊、また金勘定してるだろ」

「してない」

「指が動いてんだよ、指が」


見ると、俺の指は、テーブルの上で勝手に数を数えていた。


「……少しだけ」

「少しじゃねえだろ。顔が商人だった」


ニックは、残りのパンをくわえたまま、身を乗り出した。


「で、オレの取り分はいくらだ? 実はな、欲しいもんがあるんだよ。広場の露店に、でっかい羽根のついた帽子が売っててさ。あれかぶったら、吟遊詩人っぽくねえ?」

「いくらだ、それ」

「銀貨一枚」

「宿代三日分だぞ」

「夢への投資だろ!」

「却下」


俺とミーナの声が、きれいに重なった。


「お金はね、まず四人の共有にするの」


ミーナが、指を立てた。


「スキルの書を買ったり、武器を直したり、何かあった時のために貯めておくの。残った分を、四人で分ける」

「ミーナまでユー坊みたいなこと言うなよ……」


ガルドが、二皿目を食べ終えて、ぽつりと言った。


「……一割、村に送りたい」


全員が、ガルドを見た。


「親父の足が、まだ治りきってない。冬が来る前に、薪代くらいは送ってやりたい」


ガルドとミーナの父親は、コルネ村の猟師だ。

去年、森で魔物に襲われて、足を悪くした。

ガルドが冒険者を続けているのは、それもあるのだと、俺たちは知っていた。


「送ろう」


俺は言った。


「一割じゃなくて、いい。今回は、二割送ろう。おじさんには、俺も子どもの頃から世話になってるし」


おじさんは、村で俺に初めて罠の作り方を教えてくれた人だ。

罠師という職業を授かった俺に、「罠は獲物の気持ちになって置くんだ」と、くり返し言っていた。


ガルドは、何も言わずに、小さく頭を下げた。

その耳が、赤くなっていた。


ニックが、ため息をついた。


「……分かったよ。帽子は、次の次の次くらいでいい」




宿に戻ったのは、夜も遅くなってからだった。


腹いっぱいで、少し浮かれていた。

だから、最初は、誰も気づかなかった。


先に階段を上がったミーナが、部屋の前で足を止めた。


「……ねえ」


ミーナの声が、硬かった。


部屋の扉に、一枚の紙が、短剣で深々と突き立てられていた。


紙には、乱暴な字で、こう書かれていた。


――調子に乗るな、ガキども。


お読みいただき、ありがとうございます。

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