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異世界転移をした俺は文通相手の家にお世話になることになりました  作者: 陽花紫


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10/12

私はここにいる

 ハルが、私の腕の中で意識を失った。


 すぐさま医師を呼び寄せ、応急の処置を施させた。

 診察はあまりにも早く終わり、その身はひどい栄養失調の状態であると告げられた。


「長期間、まともな食事を取っていなかったのでしょう。この状態では気を失うのも無理はありません」


 私は、何も言うことができずにいた。

 なぜ早く、見つけることができなかったのか。

 なぜこのような状態になるまで、ハルは一人で過ごしていたのか。

 誰も彼のことを助けるような人間は、いなかったのか。

 その全てを悔やんでも、もう遅い。


 静かに息を吐けば、医師はなおもこう告げた。

「しばらくは、安静と療養が必要です」

 私は静かに頷き、ハルの身を抱き上げた。


***


 私室へと向かい、寝台へとその身を静かに横たわらせた。

 この場所であれば、書類に向き合いながらも常にハルの様子を見ることができる。


 それに何より、私の目の届く場所に置いておきたかった。


 未だ意識は回復しないものの、胸元はかすかに上下していた。

 確かに、生きている。


 それだけで、この胸が熱くなるようでもあった。

 私の部屋に、ハルがいる。

 その事実に思わず胸が強く脈を打つ。

 折れてしまいそうなほどに細い腕、羽のように軽やかなその身。柔らかな黒髪を撫でたその瞬間に、私は自らのこの想いを悟った。


 ハルのことを、好きになってしまっていたのだと。

 それは友人として、などという生易しいものなどではない。

 ただ一人の人として、彼のことを敬い、慈しみ、愛しているのだ。

 そして同じように、私のことも愛してほしい。


 目を覚ましたら、何度でもこの想いを伝えよう。

 今度は、ゆっくりと。

 ハルが驚いてしまわぬように。


「どうか、戻ってきてはくれないか」

 祈りを込めて、その手を両手で包み込む。


 しばらくそうしてから、私は机へと向かっていた。

 しかし書類に目を落としても、文字が頭に入らない。

 意識は常に、寝台のほうへと向いていた。


 どれほどの時が過ぎたのだろうか。

 かすかな布擦れの音に、息を呑む。


「……ハル!」


 思わず私は、寝台へと駆け寄っていた。

 夜の闇を閉じ込めたかのような黒い瞳が、わずかに開いていた。

 しかしその焦点は、まだ定まってはいない。


「……セラ……、」


 その声は弱々しくもあったが、それでも確かに私の名を呼んでいた。


 ハルは震える手を伸ばして、こう呟いた

「……どこにも、いかないで……」

 その言葉に、私の胸はいとも容易く射抜かれてしまう。

「どこにもいかない。私はここにいる、ハル」

 静かに手を取り,その甲へと唇を寄せた。

 そして、強く握りしめていた。


 ハルは穏やかな笑みを浮かべて、再び眠りについてしまう。

 私のこの手を、決して離さぬままに。


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