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オレたちエクソシスト  作者: 地野千塩


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はじまりの夏休み編(9)

 幼少期の頃、神社に行って具合が悪くなった事がある。


 確か七五三か、お宮参りの時だったと思うが、吐いてしまった。


 今思うと、あれも悪霊の攻撃だったのだろう。お宮参りも七五三も神社にいる偶像崇拝の悪霊に子供を捧げる意味があるらしい。


 霊というと実態がないので、肉体の影響はないイメージもあるが、悪霊はかなり肉的な攻撃も仕掛けてくる。


 いわゆる霊障というものだ。原因不明のめまい、頭痛、吐き気、眠気なども悪霊の影響といえるだろう。東京の地下鉄でもよく具合が悪くなっている人もいるが、あれも霊障が多いだろう。東京の地下鉄には死の悪霊が動いていて、影響を受けやすい。実際、飛び降り事故も起きやすい場所だ。


「悠一さーん。これは霊障? それとも救急車よんだ方がいい系?」


 白目をむいて倒れた美湖を抱えて、篝火は別荘に駆け込んだ。


 とりあえず篝火の部屋で寝かせ、桜や松田、直恵に面倒を見させていた。


「大方霊障だろう。救急車は呼ばなくていい」


 それを聞いて篝火は、ほっとして良いか迷ったものだが、命には別状は無いらしい。


 とりあえず美湖の面倒は、桜達にまかせ、篝火と悠一は別荘のリビングにいた。


 悪霊入りの人形も海辺から持ってきた。こんな悪霊入りの人形を丁寧に扱いたくはないが、とりあえずテーブルの上に置く。


「ったく面倒だが、悪霊祓いするか」


 悠一はジャージ姿で、髪の毛も寝癖でボサボサだった。心底面倒くさそうだったが、悪霊入りの人形に向き合った。篝火も悠一のそばに行き、人間を睨みつける。


『やめろ! これから深海のフリをして美湖を騙すんだから!』

「いい加減にしろよ。この糞悪霊! イエス様の御名前で追い出すぞ、出て行け」


 悪霊追い出し中も悠一は、少々口は悪いが、あいつらは少しスキを見せると、調子に乗るからこんなものだろう。


「オレオレ詐欺やってる自覚ある?」


 篝火も悪霊入りに人形を睨みつける。大の大人二人が、可愛い人形を前にして会話している姿は、シュールだが、今は他人の目などはどうでも良いだろう。


 なかなか執念い悪霊だった。


『嫌だ! ここを出て行ったら親分のルシファーに怒られる!』

「お前の上司はルシファーか?」


 悠一は鋭い視線を投げながら言う。


『いや、バアルか? レビヤタンか?』

「どっちだよ!」


 篝火が悪霊にツッコミを入れるが、この悪霊にも上司がいるようだった。その上司を恐れているというか、支配されているように感じた。


『嫌だ、嫌だ! オレオレ詐欺して美湖を騙すんだ!』

「お前、そんな能天気な事を言っていいのか? お前の上司よりもイエス様のが怖い事は、よくわかっているよね?」


 悠一が脅しのような事を言った時、悪霊は明らかにプルプルと騒ぎ始めた。


『そんな事知ってる! イエスは怖いぃー!』

「だったら今すぐ出てけよ!」


 篝火がツッコミを入れるように叫んだ。悪霊ではあるが、誰が一番怖いかわかっている所は、人間よりマシに見えてしまった。悪霊どもは、イエス様が一番強く権威もあり、人間の救い主である事も知っている。その点に限っては、神様を知らない人間よりはマシに見えてしまう。


 だから、知識だけで神様を知っている事は無意味なのだろう。悪魔や悪霊だってイエス様を知っている。


『嫌だね! お前らが追い出しても、また美湖についてやる! 一生ストーカーしてやるんだ! 美湖自から、オレらを拒否しない限り、ずーっと付け回してやる!』


 悪霊はなかなか痛いところをついてこた。その点が篝火や悠一の弱点だと気づいているようだった。


 もう諦めるべきか。そんな事を思った時、美湖がこのリビングにやってきた。松田や桜、直恵に付き添われてだったが。


 直恵も桜もげっそりとしていた。夜中に起こされたというこ事もあろうが、美湖の説得に失敗したのだろう。松田も心配そうにウロウロしているばかりだったが、美湖はおもむろに人形の方に近づいていった。


「あなた、深海じゃないの?」


 その美湖の声は、少し冷ややかで、篝火も悠一も息を呑んだ。他のものも何もえ言えず、沈黙が流れていた。


『そうだよ。私は深海だよ!』


 さっきまでオッサンのような野太い声をあげていた悪霊だったが、突然可愛らしい声をあげた。全てを知っている悠一は、舌打ちしていた。篝火もそんな悠一の気持ちはよくわかる。


『私が好きだったサーティワンアイスのポッピングシャワー味一緒に食べよ』

「深海の好物と同じね」


 美湖が、悪霊のオレオレ詐欺にひっかっていた。篝火は止めに入りたかったが、なぜかそばにいる悠一に止められた。


 美湖は、悪霊入りの人形を一瞥すると、オロオロとそている松田に視線を向けた。


「私みたいな同性愛者は、あなたたちから見て気持ち悪いでしょう。ちなみにあの人形もこの家から、私が盗んだの。深海とちょっと似てたからね。こんな悪い私は許せないでしょう」


 あの人形は、この家にあったミーちゃんだったのか。そんなどうでも良い事を考えていた篝火だが、女性陣は意外な強さを見せていた。


「そんな事ありませんよ。美湖ちゃん。ミーちゃんの人形が欲しければ、言ってくれればあげたわよ」


 松田はそう言って美湖を抱きしめた。母親か祖母のような松田の優しい視線に、篝火はポカンと口を開けて、成り行きを見守った。


「 そうよ、美湖さん。クリスチャンは同性愛者を嫌ったり過剰に人権をアピールする人も多いけど、それは悪霊に仕業だって気づいてないから。悪霊を追い出せばいい問題よ」


 直恵も疲れて声がガラガラになろながらも、強い口調で訴えていた。


「そうだよー、美湖ちゃん。私は美湖ちゃんの事は嫌いじゃないよ。神様だって美湖ちゃんの事大好きだよ。嫌いだったら、今すぐ死なせるから。神様はそれぐらいの事するから」


 なぜか桜は大号泣しながら、美湖に訴えていた。桜の涙につられたのか、美湖も子供のように泣いていた。


「なぜかわからないけれど、私、なんか神様的な何かに悪い事をしていた気がする」


 美湖は泣きながら、そんな言葉を口にしていた。


 突然篝火の視界の火が見えた。現実の火ではない。幻のようだが、松田、美湖、桜、直恵を守るように火の城壁ができていた。


「聖霊だ!」


 思わず篝火を叫んだ瞬間、悠一は冷静に美湖に福音を伝えていた。


 聖霊の火に守られていた美湖は、あっさりと福音を受け入れていた。


「ごめんなさい、神様。どうかお願いです。もうこんな悪い霊と生きていたくない。どうか助けてください」


 篝火と悠一は顔を見合わせて頷く。


 二人は、美湖についた悪霊を追い出していた。人形についていた悪霊は、聖霊の炎に焼き尽くされ、人形自体も壊れてしまった。


 美湖についている悪霊は、軍隊を組んでいて、追い出すのに時間がかかった。どうも美湖は身体に出るタイプのようで、一匹追い払うごとに激しく嘔吐していた。


 松田は辛抱強く吐瀉物を片づけ、桜は祈り、直恵も悪霊追い出しに参戦した。


「同性愛の悪霊よ、出てきなさい! イエス様の御名前で命令する!」


 直恵の声はガラガラだったが、ラスボスの同性愛の悪霊が姿を見せた。


『ふん! 美湖の身体は心地いいんだよぉ〜。出ていきたくないね!』


 同性愛の悪霊は、おっさんの姿形をしていた。美湖は何度も吐き、身体はキツそうでほとんど意識が無い状態だった。


『しかし、おまえらも面白いよな。リベラルの教会や牧師が、オレら悪霊に忖度して同性愛を認めているなんてさぁ。まるで福音の力を信じてないみたい。超ウケるんですけど』


 ラスボスだけあって同性愛の悪霊はなかなか執念い。


『リベラルの教会ウケる。お前ら本当にクリスチャンかい?』

「うっさい! オレの教会は聖書にならって、同性愛はソドムとゴモラって言ってるぞ。あぁ? オレとリベラル教会と一緒にすんなし」

「ちょ、悠一さん。今、それどころじゃないっしょ。さっさとコイツ追い払おうぜ!」


 挑発に乗りかけた悠一をなだめ、篝火は血潮の祈りをし、直恵が御言葉を言った。ここで同性愛の悪霊はほぼほぼ弱っていたが、最後にみんなで声を合わせてイエス様の御名前を口に出したら、怖がって一目散に逃げていった。


 美湖はしばらく吐いていたが、どうにか正気を取り戻したようだった。


「あれ? 私?」


 その表情は、憑き物がとれたようだった。


 吐いたもので部屋の中は臭いし、片づけている松田は大変そうだったが、一同晴れやかな気持ちになっていた。


 思わず、みんなでハイタッチをして喜んでいた。


 気づくと窓の外は、朝になっていた。眩しい朝の光が、部屋を明るく照らしていた。


 もう夜は終わった。篝火は朝日の眩しさに目を細めた。


 長い夜だったが、明けない夜は無いのだろう。


「おはよう、美湖ちゃん」


 松田は目を細めて言った。

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