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オレたちエクソシスト  作者: 地野千塩


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はじまりの夏休み編(6)

 悪霊に吹き込まれた事を美湖は、一目散に神社に向けて走っていた。


 神社は墓場の近くにあったが、木々に囲まれて薄暗い。墓場と同様、人影はなかったが、蝉の鳴き声が悲鳴のようの響いていた。


 美湖は鳥居をくぐると手を洗うための手水舎に向かった。ここでようやく篝火は、美湖に追いついた。


 息を整えながら、手を洗う美湖に話しかける。


「美湖さん、何してるんだよ」

「わからない。ただ、ここに行けば深海を生き返らせる方法がわかるかも知れない」


 美湖は手をハンカチを拭っていた。その表情はかなり慌てていて、背後にある悪霊は大笑いしていた。


『よく、神社きたね。美湖、さあ、深海を生き返らせる方法を教えてあげるよ』


 美湖には、悪霊の声だとは認識していないだろう。多くのノンクリスチャンは、悪霊なのか、自分の思考の声なのかわからない。クリスチャンといっても悪霊の見えない人が多い。悪霊に吹きこまれた声も聖霊の導きだと勘違いするものも多いと悠一から聞いた事がある。


「前にも神社に来たのよ、その時も、その時も……」

「ちょっとどうしたんだよ、美湖さん。とりあえず帰ろうよ。うちの別荘くるか? 松田さんも歓迎してくれるよ」


 松田の名前を出すと、美湖は唇を噛んでいた。今にも泣きそうだったが、我慢しているようだ。子供のような仕草に、篝火も胸が痛くなってくる。


「神社なんてヤクザの本拠地みたいなもんだぜ。帰ろうよ」


 篝火にとっては神社はヤクザの施設にしか見えないものだった。本堂の方に目を向けると、偶像崇拝の悪霊が、いかに人間を騙そうと虎視眈々と目を光らせている。


『けけけ、またカモが来たよ。ザマァ!』


 本堂にいる偶像崇拝の悪霊は、手を叩いて笑っていた。はっきりとは見えないが、ここにいる悪霊は巫女姿の悪霊だった。顔も美人系だが少し怖い。


 篝火は、声を出しながら神社にいる悪霊祓いを試みた。突然神様の名前を口にする篝火に、美湖は目を丸くしていた。


「え? なんでそんな映画みたいなエクソシストやってるの?」

「クソ、偶像崇拝の悪霊よ! イエスの御名前で命令するぞ、出て行け!」


 戸惑う美湖を無視して、篝火は悪霊祓いを試みた。親玉の偶像崇拝の悪霊はしつこいようだが、手下の雑魚い悪霊は一瞬で消えていった。鳥居に近くに狐の像があったが、雑魚悪霊を象ったものだろう。神社にとっては眷属と言われているものだが、篝火の目からは悪霊にしか見えなかった。


 本堂にあるしめ縄も気持ち悪い。


「イエス様ー。オレ、今敵陣にいるよ。守ってください」


 悠一によるとしめ縄は、蛇の後尾を象ったものらしい。しめ縄には姦淫の悪霊もいて、篝火が情け無い声を上げながらも、祈った。


「なんなのよ、あんた。気が狂った?」


 そんな篝火に美湖は引いていたが、本堂の前に脚をすすめていた。


「ちょっと、美湖さん、待ちなよ!」


 篝火の必死な声も美湖は、無視していた。


 荒々しくカバンにハンカチをつっこみ、本堂の前に進んだ美湖は、賽銭箱の前に立つ。


 虚な目でしめ縄を見つめていた。


「ヤクザみたいなもんだぜ。ここで願いを叶えてもらったら、後でとんでもない事になるよ」


 篝火の声は美湖には、気づかなかったようだ。カバンから財布を出し、賽銭箱に小銭を投げていた。


 チャリンチャリンと軽やかな音とともに偶像崇拝の悪霊が本性を剥き出した。


 『愚かな人間よ。でも、一つ良い事を教えてあげるわ。そうねぇ。●●●●●すれば深海を生きらせてあげる。どう? 私と契約しない?』


 美湖にもその悪霊の声が聞こえていたのだろう。篝火の耳には重要な部分が聞き取れず、地団駄を踏みそうになった。


 しかし、その瞬間。なぜか直恵、桜、悠一までいた。


「お前ら何やってるんだ」

「篝火くんが心配でつけて来たんだよ。何やってるんだ。ここはソロじゃなく、みんなでやろうぜ」


 腕を組んで仁王立ちする悠一は少し怒っているようだった。


「そうだよ、篝火太郎! 美湖ちゃんの事で悩んでるんでしょ?」


 桜もそんな事を言っている。やっぱり彼らに相談すればよかった。音楽活動をしていた時も、一人で良いアイディアが浮かばない時も、メンバーでセッションしていると曲がいつの間にか完成した事を思い出す。


「何よ、あんた達は」


 突然ゾロゾロと現れた悠一達に美湖も戸惑っていた。この中で一番冷静な直恵が事情を全部説明した。


「あんた達、エクソシストだったの……」


 事情を聞いた美湖は驚いていたが、どこか納得しているようだった。少しホッとした顔を見せる。


 逆に神社にいる偶像崇拝の悪霊は、『ふざけんな!』と怒っていたが、普段エクソシストなんかやっている連中が四人もいる状況に、明らかにイライラし始めた。


「人間には自由意思があるからね。あなたがここの神社を拝んで、願いを叶えて貰おうとするのを選ぶのなら、私は反対しない」


 冷静に淡々と語る直恵に、美湖は数歩後づさりしていた。


「でもここにいるのは、所詮悪霊。あなたの思考や魂にはりついて、一生がめちゃくちゃになるけど良い? ちなみに貴方は生まれつきの障害だと思い込んでいる同性愛も、悪霊の影響だからね」


 そこまで直恵に言われた美湖は、今にも泣きそうにしていたが、歯を剥き出して反論していた。


「うるさい……。それはクリスチャン達の一方的な視点でしょう?」


 そう言うと、美湖は篝火達に背を向けて、再び手を合わせて拝みはじめた。


「ちょっと、美湖さーん。だめだよ!」

「美湖ちゃん、目を覚して。松田さんも悲しむよ」


 それでも篝火と桜は、美湖の背に言葉を投げるが、聞いてはくれなかった。


「諦めろ、篝火。自分の意思で偶像を拝む事を選んだんだ」

「そうよ。自分で選んだ以上は、私達もどうする事もできない」


 比較的冷静な悠一や直恵は、すっかり諦めていた。


「そんな、美湖さん……。どうして」


 篝火の悲しい声は、美湖の耳には届かなかった。

 気づくと、美湖の背後では悪霊が何倍にも増えていた。


 同性愛や死の悪霊だけだなく、偶像崇拝、嘘、愚か、病気の悪霊までつけていた。


 このままでは、美湖の気は狂うだろう。こんな悪霊をつけて偶像崇拝すると、正気ではいられないだろう。聖書にも偶像を拝むと、気が狂うとある。


「そんな、美湖さん……」


 結局、篝火は彼女を助ける方法は分からなかった。

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