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オレたちエクソシスト  作者: 地野千塩


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はじまりの夏休み編(4)

 翌朝、篝火は寝不足で目が痛かったが、リビングのテーブルの上に並べられた美味しそうな朝食に声を上げてしまった。


「うまそう!」


 日本の朝ご飯といった感じの食卓だった。ご飯や味噌汁はもちろん、漬物や煮物の小さなこばちも食欲をそそる。メインの卵焼きと焼き鮭も美味しそうで、思わず唾を飲み込んだ。味噌汁の優しい匂いも素晴らしい。日本人の食欲スイッチを入れる臭いに感じる。


 少し寝坊してきた悠一や桜もそろい、朝食を準備した松田も一緒に食卓を囲んだ。


 うっかり食前の祈りを忘れそうになったが、直恵が率先して、食前の祈りをし、みんなで神様に感謝してご飯を食べ始めた。


「それにしても篝火くん。目の下真っ暗じゃない?」


 悠一は篝火の変化にいち早く気づき、事情を聞いてきた。


 美湖の事は、話そうか迷ったが、みんながいるこの場所で聞いても良いと思った。何か知ってる人も居るかもしれない。


 そてに美味しい朝食を目の前にし、気持ちも緩んでいた。美湖の事は、恋愛感情はないと思うが、あの歌声には惚れた。自殺の悪霊がいるのも気になって仕方がない。


「で、これが美湖ちゃんが落としていったロケットペンダントなんだけど、どう思う?」

「見せて」


 直恵にロケットペンダントを渡すと顔を顰めた。


「このロケットペンダント、すごい悪霊いるわ。同性愛の悪霊と、死の悪霊もいる」

「本当?」


 顔をしかめている桜恵の隣にいる桜は、呑気な顔をしている。桜は、悪霊が見えないが、直恵はかなり敏感だった。その点は、篝火や悠一より優秀で、直恵の発言は信頼できる。


「同性愛かぁ。厄介だなー。あいつら、俺らクリスチャン見ると差別って騒ぐしな。っていうか世間を忖度してキリスト教会が人権団体化したり、リベラル化してるのが一番面倒いわ」


 悠一はぶつぶつと文句を言いながら、味噌汁をすする。この問題が、やっぱりキリスト教会でみ繊細な話題のようだった。


「松田さんは、この子知らない?」


 篝火は、さっきからずっと黙っている松田に聞いてみた。


 松田は少し泣きそうな顔になっていた。


「美湖ちゃんは、可哀想な方です」


 どうやら松田と美湖は知り合いらしい。篝火は、詳しく話を聞いてみる事にした。


 普段、松田は家政婦の仕事もしていて、週に数回程度だが、この町に住む金持ちの家に仕事に行っている。その家の娘が美湖だった。


 それがきっかけで松田と美湖は仲がいいという。時々この別荘にも美湖は遊びに来るという。


「美湖ちゃんは、歌の才能があるんですけどね。うちが厳しくて、歌手活動は禁止されてとか」


 松田は目を潤ませていた。本気で同情しているらしい。


「同性愛者なのは知ってるか?」


 悠一が松田に訪ねると、彼女は深く頷いた。


「まあ、美湖ちゃんのご両親は知りませんけどねぇ。この町ではけっこう有名ですよ」

「その美湖さんの恋人って誰なの? 松田さんは知ってる?」


 直恵は目を鋭くして、聞いていた。エクソシストとして気になるところがあるのだろう。一方桜が呑気にきゅうりの糠漬けをポリポリ齧っていたが。


「お相手は、浜辺深海さんという方です。美湖ちゃんの同級生で……」


 松田の表情がどんどん暗くなっていく。松田はほとんど美味しい朝食には、手をつけていなかった。


「なに? その深海さんって人は何か問題あるの?」


 篝火はちょっとわざとらしく、人懐っこい笑顔を作って松田に聞く。


「いえ……。深海さんは、去年、海の事故に巻き込まれて……」

「海の事故?」


 一同が声を上げる。


 松田によると、去年、美湖と深海は海辺で泳いで遊んでいたらしい。しかし、美湖が波にさらわれ、助けにいった深海が溺れて死んだという。幸い、美湖は泳ぎに来ていた地元住民に助けられたが、深海は一歩遅かったらしい。


 そんな事情があったのか。篝火も思わず下を向いてしまった。そんな事があったら、美湖の傷も深いだろう。死の悪霊がついた経緯もだいたい想像がついた。


「可哀想、美湖ちゃん」


 桜もまるで自分の事のように泣いている。


「私がもし直恵がそんな事になったら、立ち直れないわ」

「そんな事言うんじゃないわよ、桜。終末がきてクリスチャンが迫害されたら、そんなヤワなメンタルでは負けるわ」


 突然終末の話題を出す直恵に、悠一はなぜか大笑いしていた。


 篝火は隣ににいる悠一にどういう事が聞いてみた。


「なんで笑ってるのさ、悠一さん」

「いや、あれは直恵の照れ隠しだろうな。アイツは友達いないボッチ陰キャだったから、友達できて実は嬉しいんだよ」


 そういう事か。直恵は、外見はクールそうに見えるが、照れ隠しをしていたのか。そう思うと篝火もちょっと笑ってしまう。


「本当に美湖ちゃんが心配ですよ」


 松田は、身体を縮こませ、本当に心を痛めているようだった。


「なんなら私が悪霊祓ってしまおうかしら。同性愛と死の悪霊でしょ。反キリストや悪魔崇拝の悪霊よりは、しつこくないでしょ」

「やめろ、直恵。話を聞くと死んだ恋人をまだまだ想っている可能性が高い。悪霊祓いをしても福音を受け入れない可能性が高いぜ」

「まあ、そうだけど」


 直恵は、悠一の発言に不満そうに口を尖らせて、お茶を啜る。


「まあ、しばらくは放っておこう。まあ、松田さんは彼女の様子をよく見ておいた方がいいが、オレらが出来る事はないよ」


 悠一が結論らしき事を言い、この話題は終わってしまった。


 美味しい朝食にすっかり忘れてしまいそうになるが、やっぱり美湖の事が頭に引っかかる。


「美湖ちゃんの出来る事ないのかしら」


 桜もそんな事を小声で呟いているものだけら、余計に気になってしまった。

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