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オレたちエクソシスト  作者: 地野千塩


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はじまりの夏休み編(3)

 その夜、篝火はなかなか寝付けなかった。


 一言でいうとこの別荘での時間は最高だった。


 松田が作ってくれたお菓子や料理もおいしく、海でちょっと泳ぐのも楽しい。釣りも悠一に教えてもらい、何匹か釣れて面白い。


 潮の香りは心地いいし、ずっとここで生活しても良いぐらいだ。別荘の周りに悪霊もいない。


 ただ、なぜかわからないが、夢の中で悪霊に攻撃された。


 嫉妬や自己否定の悪霊で、誘惑を仕掛けてきた。


『本当はミュージシャンとして成功したかったよねぇ?』

『テレビに出ているチンケなバンドが、アニメやドラマの主題歌になっていると悔しいね?』


 そう言い、クリスチャンをやめて再びミュージシャンに戻るように誘惑してきた。


 しつこい悪霊どもだ。


 悠一や直恵によると、クリスチャンになりたての人物はこうした悪霊の攻撃を受けやすいという。


 別にご利益宗教でもないので、クリスチャンになったからといってルックスが良くなったり、金持ちにまる事はほとんど無いという。逆に今までの罪の裁きと精算もあるので、一見不幸な状況になったりする。


 むそろ悪魔側がブチ切れし、元に戻るよう悪霊を使って誘惑を仕掛けてくる方が多いという。しかも篝火は、悪霊祓いもやっている。讃美歌の動画もアップしようと計画しているし、悪魔側からしたら、かなり都合が悪いだろう。


 ご利益宗教にハマっている日本人は、こうやって誘惑にあったり、不幸な状況になると残念がられるだろうが、それは違う。


 というか裁きは生きている間に早めに来た方がいい。悠一もそう言っていた。クリスチャンになりたての人が鬱になったり、会社に首になる事もよくあるそうだが、それで罪が精算されている場合も珍しくないそうだ。特に日本人は先祖代々偶像を拝んでいた歴史がある。篝火もノンクリスチャン時代は、ひどいものだった。こうして悪霊から攻撃を受けるのも自分が過去に開けた罪の扉のせいなので、仕方がない部分もある。


 祈り、讃美歌を小声で歌い、どうにか夢で攻撃してきた悪霊を追い払った。


 すぐに悪霊はいなくなったが、目はギンギンに冴えてしまった。寝る前は松田が作ってくれたカフェインレスの麦茶を飲んだが、あんまり関係なかったみたいだ。


 篝火は寝癖を整えながら自分の部屋を出た。隣の悠一の部屋からは、いびきが響いている。このいびきだけ聞けば完全にオッサンだ。桜、直恵、松田に部屋からは何も聞こえない。女性陣は大人しいものだ。


 こうして自分の部屋からすり抜けた篝火は、海辺に向かって歩いた。


 肉まんみたいま大きな月が出ていて、意外と暗くない。海面にも月が反射されているせいで、明るく見えているのかもしれないが。


 波の音は穏やかだった。潮風は心地よく、少し涼しいぐらいだった。


 悪霊に攻撃されて眠れなくなったという事実をのぞいたら、穏やかな夜だ。


 篝火は砂浜に腰を下ろして、しばらく海を見ていた。


 悠一は海には悪霊がいるなどと言っていたが、今のところはそんな姿は見えない。悪霊の事は気になるが、ここにいる数日は、やっぱり全力でリフレッシュしたい。


 人影も見えないと思ったが、少し遠くの方に誰かいるのが見えた。


「ゆ、幽霊か?」


 そんな風に見えた。白いワンピース姿の女が、海辺で何か歌を歌っていた。


「ラララ〜」


 歌詞はついていない曲だったが、美しい声だった。まるで天使の囁き声だ。


 脚が見えたので幽霊では無いだろう。篝火は少しホッとして、彼女が歌う曲に耳を傾ける。


 そもそもこの世に幽霊はいない。幽霊の見える何かも悪霊だ。悪霊が人間の記憶を食べて保存し、死んだ人のフリをしているのだ。


 悲惨な事故や事件があった場所に幽霊らしき悪霊が散見されるのも理由がある。そういった場所は、負のエネルギーがたまり、それで霊がすむ次元の門が開くのだ。悪霊は、そんな負の感情、エネルギーといったものを食べて、力をつけるのだ。


 負の感情だけではない。婚外のセックスや多くの人は集まる場所もそういった門が開く。カルト教団のそばで事故が多いのも、そんな人々の祈りをきいた悪霊が悪さをしていると思うと筋が通る。多くの人は集まる場所のエネルギーは強いのだから、クリスチャン同士で集まって祈る事も大事だろう。


 篝火が求道者時代に礼拝に出るのは、正直ダルいと思った事もある。しかし、そんな話を悠一や直恵から聞くと、クリスチャン同士で集まるのは、とても重要だと感じてしまう。


「ラララ〜」


 女の歌は、聞いていると本当に心地よかった。この声で讃美歌を歌ってくれたら、どんなに良いだろう。讃美歌は、歌の上手い下手や声質は関係ないが、彼女の声を聞きながら、ついついそんな事を考えてしまった。


「あ、あの!」


 初対面の女性に福音を伝えるのは、戸惑ったが、少し仲良くなって、話してみようとも思った。


 篝火は、歌い終えた女に声をかけていた。そばに見る女は、20歳そこそこの女性だったが、白いワンピースが似合う神秘的な美人だった。月明かりの下で、白い肌も余計に綺麗に見えた。一言で言えば篝火のタイプだった。篝火は、女のような少しミステリアスな雰囲気の女が好みだった。本人の前では決して言えないが、桜や直恵はだいぶ色気不足に見える。まあ、あの子達はクリスチャンだし、無駄にモテる必要は無いわけだが。


「誰? あなた」

「僕は篝火。いや、本名は有坂一太郎っていうんだけど、篝火って呼ばれてる」


 歌声と同様、彼女の声も透き通っていて美しい。思わず篝火の目尻も下がった。鼻の下が伸びないように注意したいものだが、今の篝火は、少し危うかった。


「君は名前はなんて言うの?」

「秋野美湖よ」


 篝火はどんな漢字を書くか教えてもらった。外見の印象通りに綺麗な名前で、篝火の目尻はさらに下がる。


「綺麗な名前だね」

「そうかしら」


 この発言でナンパだと誤解されてしまった。く篝火は、そんなつもりは無いと必死に否定した。


 しかし、篝火の目から彼女についている悪霊が見え始めた。普通の日本人ならよくつけている偶像崇拝や自己否定の悪霊をつけていたが、同性愛と自殺の悪霊をつけていた。


 同性愛の悪霊はショックだった。この時点で篝火は失恋したようなものである。


『死んじゃえよ。このクソ女』


 自殺の悪霊は、美湖にずっと暴言を囁いていた見ている篝火だけでも悲しくなってくる。


「美湖さん、何か悩んでいる事ない?」

「え? 別に……」


 この発言も誤解を受けてしまった。篝火は、単なるナンパ野郎だと誤解され、美湖は一目散に逃げて行ってしまった。


「ちょ、ナンパじゃないから」

「き、きもい」


 美湖は、走って逃げてしまった。


「ちょ、違うって」


 情けない篝火の声が響くが、砂浜に何か落ちているのに気づいた。写真がはめ込めるロケットペンダントだった。


 昭和生まれの上司・充希も同じものを持っていた。充希のそれには、実家の愛犬の写真が入っている。充希の子供時代にロケットペンダントが流行ったそうだが、今は推し活グッズとして100均などでも売られて再ブームになっているらしい。


 勝手に見てしまうのは、抵抗があったが、篝火はロケットペンダントの中を見てみた。そこには、美湖と知らない女性が映った写真が入っていた。


 腕をくみ、親しげだった。


 おそらく美湖の恋人だろう。クリスチャンである篝火は、同性愛カップルを見ているのは、心の奥がザワザワしてしまったが、このロケットペンダントは本人の返さないと。大事にしているものである事は、わかっていた。


 結局、同性愛も悪霊の影響で起きている事だ。本人が好き好んでこの悪霊を受け入れた場合は仕方ないが、もし美湖が苦しんでいたと思うと、いてもたってもいられない。


 美湖は自殺の悪霊もつけていた。


 別荘には、リフレッシュしに来ている予定だったが、結局悪霊騒ぎの巻き込まれる事になりそうだった。

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