悪霊ストーカー編(10)
「葵ちゃん。紅茶でいい?」
教会に向かうと、篝火は、礼拝室の隣にある多目的室に葵と香代を通した。
「ほら、葵。ちゃんと御礼を言いなさいよ」
「う…」
「いや、いいって」
香代に叱られた葵は口ごもり、下を向いていた。
教会に来ると葵の背後にいる悪霊は、ザワザワと落ち着きがなくなってきた。
『よくも教会なんかに連れてきたな!』
葵についている悪霊は、篝火を怒鳴りつけはじめた。
それに引っ張られるように葵は、その場で倒れてしまった。白目をむき、泡も吹いている。
「ちょ、葵どうしたの?」
香代は、慌てて葵に駆けつけるが、彼女もまた悪霊の攻撃を受けていた。葵と同じように倒れてしまった。
「ちょ、二人ともどうしたんだよ!?」
篝火は、二人の身体をさすってみたが、起き上がる気配がない。脈があり、生きているが、意識は無くなっていた。
そういえば悠一は、白目をむいて倒れる事を悪霊の影響だと言っていた。この二人も悪霊の攻撃と断定して良いだろう。
『ふ、ふふふ』
葵の意識が目覚め、起き上がった。礼拝室の信徒席に座ると、ゲラゲラ笑いはじめた。
一瞬、葵の意識が戻ったと思ったが、明らかん別人だった。
目が据わり、目の前にいる篝火を睨みつけていた。二十歳の女性らしさはまるでなく、老婆のような意地悪な表情を向けていた。
「おまえ、悪霊か?」
『そうじゃ』
葵に入っている悪霊が見えた。白雪姫の老婆のような雰囲気の悪霊だった。葵の乗り移り、ゲラゲラ笑っている。
「でてけ!」
篝火は神様の御名前や祈りの言葉で、この悪霊お追い出す事をここみた。
「でてけ! イエス様の御名前命令するぞ、葵ちゃんかたでてけ!」
『嫌だわぁ。私は、この女のもの。この女を地獄に送ってやるわ!』
老婆の悪霊は、どうも霊媒の悪霊らしい。あの占い師・霧子とも契約中だという。葵は霧子と接触し、霊媒できるよう契約したと言う悪霊は、ゲラゲラと笑いはじめた。
『おまえんちを覗いてストーキングするのは、面白かったさ』
「やっぱりお前がうちの来てたんだな!」
篝火は、苦戦しながらもなんとか老婆の悪霊を追い払った。
葵は悪霊のデパート状態だった。祓っても祓っても幾つも幾つも悪霊が出てくる。
特に同性愛の悪霊がしつこかった。見かけは少年の姿のような悪霊だったが、葵にまともな貞操観念を狂わせているようだった。
「でてけ!」
何度も声を張り上げれ、ようやく同性愛の悪霊が祓えたと思ったが、最後にラスボスが現れた。
香代とも連携している悪霊だった。
香代もいつのまにか葵のそばにやってきて、悪霊に乗っ取られた状態で、言葉を発していた。
『ふふふ。お前らの信じている神様なんて欺瞞だ』
葵と香代と同時についている悪霊は、意外な事に反キリストの悪霊だった。悪霊を問いただすと、先祖代々続いている悪霊のようだった。特に香代の祖母が熱心な神道信者だったようだ。
『今時同性愛を認めないなんて、古臭い神だねぇ。お前も性交渉出来なくて大丈夫? 我慢してるんじゃない?』
反キリストの悪霊は、香代の身体を借りると、ベタベタと纏わりついてきた。胸元を押し付け、性的な誘惑を受けている状態だった。
「や、やめろよ!」
正直キツい状況だった。いくら悪霊といえども身体は香代だ。そばで見る香代は、やっぱり美人だったし、アイシングクッキーの甘い香りもする。
それでも負けるわけにはいかない。
「オレはイエス様の身体の一部だ! 遊女の身体の一部じゃねぇ!」
聖書の御言葉を引用しながら、どうにか香代の身体を引き剥がす。
頭の中では、悠一や桜、直恵などの仲間の顔を思い浮かべていた。
ここで誘惑に負けたら、彼らを裏切る事にもなる。
どうにか中間達の顔を浮かべ、自立心をな守り、最後の悪霊祓いの言葉を怒鳴るように発した。
気づくと汗はベトベト、喉もカラカラで疲れ切っていたが、悪霊は悲鳴を上げながら去っていった。
「いなくなったか?」
なぜか頭の中に悠一や桜、直恵の顔が頭に浮かぶ。離れていても彼らから応援されていたような気がした。
「あれ、私。何してたの?」
目覚めた葵の表情は、本当に憑き物が落ちたようにすっきりとしていた。
香代も目覚め、パチパチと瞬きをしていた。
「何? 私、寝てた?」
「うん、寝てただけだよ」
香代の身体に乗り移った悪霊については、黙っていた方がいいと篝火は思った。
こうして香代と葵についた悪霊騒ぎは、解決した。




