悪霊ストーカー編(6)
霧子が帰っていくと、入れ違いに最後の客・望月香代がやってきた。
霧子がストーカーだと断定していた人物だ。ただ、所詮悪霊が言わせていた事だ。確証はないし、嘘の可能性も高い。悪魔や悪霊は、嘘をつくのが得意だ。むしろ、その為に生きているような所がある。
「こんにちは。教会なんて初めてです」
現れた香代は、ストーカーの特徴にはだいぶ当てはまっていた。
まだ若いし、ユニセックスというかボーイッシュな印象だ。美人で背が高ったので、宝塚の俳優のような印象だった。女子高にいたら、絶対モテそうに見えた。こんなファンがいたら目立ちそうだが、ライブ中はバンギャメイクをしていた可能性が高い。バンギャメイクは、どんな美人もメンヘラ地雷女子のように見えてしまう威力がある。
桜もかつてバンギャをやっていて、篝火のファンだったが、当時のバンギャバージョンの写真を見ると、どこからどう見てもメンヘラ地雷女だった。
「どうぞ、あがって。紅茶とケーキでいい?」
「ええ。お構いなく」
そういえば香代は、パティシエと言っていた。ここでスーパーで買ったケーキを出すのは、ちょっと恥ずかしくなってきたが、どら焼きは完食していた。紅茶との相性が良かったので、朝菜と一緒のバクバクと食い尽くしてしまったのだ。
「本当に篝火さんってクリスチャンになったんだね。どういう心境の変化なの?」
「実はさ」
しばらく篝火は、香代にクリスチャンになった経緯などを話していた。意外と人の話を真面目に聞いてくれる娘で、篝火も話しやすかった。
「そんな事情だったんだね。知らなかったよ」
「オレもファンには説明不足かなって思ってる。あとできちんと動画でも出そうと考えてる」
「そうだね。でも、悪魔を讃える曲作れなんていうレコード会社は酷いね」
聞き手に回る香代だったが、この子はちょっと優等生すぎるような印象を受けた。霧子と違ってケーキの食べ方も品が良い。姿勢も綺麗で、笑うときは口を手で押さえている。お嬢様の桜もよくこんな仕草をしていたので、香代はもしかしたら、お嬢様かもしれない。
篝火がミュージシャンをやっていた時、「お嬢様よ、開放せよ!」というタイトルのパンクな曲を作っていた。歌詞では、抑圧されているお嬢様が、パンクロックに目覚めるという内容で、一応代表曲だった。そんな曲のせいか、ファン層も抑圧されている若い女性が多いとレコード会社の人から聞いた事があった。サタンを讃える曲を作れと言われてはいたが、レコード会社の人もプロデュースは上手く、マーケティングもしっかりとやっていた事を思い出す。
「ぶっちゃけ聞くけど、香代さんはストーカーみたいな事してない?」
「えー、私って疑われてるの?してないよ」
必死に否定する香代だったが、背後にいる悪霊がザワザワとしていた。ロックバンドや偶像崇拝の悪霊をつけている。あまり珍しいタイプではないが、悪霊がこの話題を嫌っている事は確かのようだった。
「占い師の霧子ってやつは、知ってる?」
「あっ……」
何か知っている事は、疑いようがない。ただ、香代は黙り込んでしまった。
このままでは、埒があかないので漫画について何か知らないか、調べてみる事にした。
例のBL本を見せたら、香代の表情は明らかに強張り始めた。冷や汗をたらし、レースのハンカチで顔を拭っていた。上品な仕草で、やっぱり香代はお嬢様に見えた。
「いや、これは、ちょっと……」
「何か知ってるね?」
「いえいえ」
「香代さんは、漫画描ける?」
「かけませんよ〜」
試しに香代に絵を描いてもらった。チラシの裏に、篝火の似顔絵を描いてもらったが、微妙な出来だった。上手いとも下手とも言えないような、ユルキャラのようなタッチの篝火の似顔絵だった。BL漫画の絵とは、だいぶ違う。わざと別の絵柄で描いている可能性も考えたが、そこまで頭が回るタイプにも見えなかった。
その証拠にBL漫画を突きつけられた動揺を隠せていない。
「ごめんなさい、篝火さん。実は私、仕事がけっこう忙しいのよ」
「仕事?」
「ええ。パティシエというか、アイシングクッキー作家なんだけど、最近は注文が多くて」
香代は最初は趣味でアイシングクッキーを作っていたそうだが、人気が出てしまい、小さな工房を作り、アイシングクッキーをネット販売していた。なかなかファンも多くついているようで、一年先までスケジュールがいっぱいなのだそう。突発的にウェディング用のアイシングクッキーの仕事も頼まれ、忙しいという。
「へぇ。すごいじゃん。アイシングクッキーだけで生活できるなんて」
篝火が笑って褒めると、初めて香代は気が抜けたように肩を落とした。一見お嬢様風だが、中身はキャリアウーマンかもしれない。人は見かけによらない。
ただ、このまま香代を返すのは惜しい気がした。明らかの何か知ってるし、ストーカーの正体を1番近い人物に見えた。
ちょっとわざとらしくはあったが、篝火は上目使いで香代をじっと見てみた。
「ね、オレが手伝える事ない?」
「手伝える事?」
久々に上目使いをし、少し恥ずかしい。今までは、女性を手玉にとり、最低な事もしていたのが、今はそんな堕落した生活ともキッパリと縁を切っていた。
「忙しいんでしょ。手伝うよ」
「そ、そうねぇ。だったら、梱包や出荷を手伝ってもらおうかな」
「やった!」
篝火は、本心で喜んだ。ただ、香代もただ働きさせるには、心苦しいと言い、僅かだがバイト代を出してくれると言った。棚ぼただが、お小遣いの入るとなると、篝火は余計に嬉しかった。
ストーカーについては、まだわからないが、少し進んでいる手応えは感じた。




