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オレたちエクソシスト  作者: 地野千塩


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悪霊ストーカー編(5)

 朝菜が帰って昼ごはんを食べ終えると、二人目の客がやってきた。


 占い師をやっている松下霧子だった。


 霧子は朝菜とうってかわり、地味な雰囲気のアラサー女だった。


 髪はベリーショートで、確かに女性らしさはあまりない。漫画との関係は不明だが、ストーカーの特徴にはいくつかあてはまっていた。


「ふーん。ここが教会なのね」


 とりあえず、霧子を礼拝室の隣にある部屋に通したが、限りなくテンションはひくい。


 そういえば、握手会でファンのくせにテンションぼ超低いものがいたが、霧子だったかもしれない。ファンには残念なお知らせだが、握手会では一人一人の顔などは、全く覚えていなかった。考えている事は「カツ丼食いたいな」「ハンバーガー食べたい」とか食べ物の事ばかりで、ファンの顔もいちいち見ていなかった。


「ケーキでいい?」

「おかまいなく〜」


 篝火が、テーブルにケーキと紅茶を置いた。さっき朝菜とどら焼きを食べたので、ケーキを見ても食欲はそそられなかった。霧子が、ケーキをじっと見て、唾を飲み込んでいた。


「どうぞ。安いショートケーキだけど」

「いいの? いただきます」


 ケーキを食べている霧子が、ストーカーには見えなかった。


 ただ、職業が占い師という事もあり、妙な悪霊をどっさりとつけていた。


 偶像崇拝、西洋占星術など各種スピリチュアルの悪霊は教会に来ると落ち着きをなくすのだが、霧子につけている悪霊どもは挑発的だった。祓ってしまいたいと思ったが、なかなか強力そうだ。それに霧子が、福音を受け入れるか未知数だった。この雰囲気だと、受け入れるか受け入れないか微妙なところだが、一応種まきをしておいた。


「ふーん。だから?」


 霧子は、福音を受け入れなかった。


「だとしたら、先祖はどうなの? 地獄にいるの? それって不公平じゃない?」


 予想通りの反応だったが、篝火はちょっと怯んでしまう。紅茶をがぶ飲みし、少し息を整えた。


 やっぱり霧子の悪霊は払わない方が良いだろう。今はストーカーについて事情を聞いてみる事が先だ。


「桜から聞いていると思うけど、何か知ってない?」

「そうねぇ」


 ここで霧子は、蛇のようにニヤリと笑った。悪霊がさせている嫌な笑顔だったが、篝火はびびってしまった。でも、ここで負けるわけにはいかないと、なんとか踏ん張る。霧子が何か知っているのは、確かだった。


「 まあ、私は占い師だし? 霊と契約する方法は、誰かに教えてあげた事はあるわね」

「どう言う事?」


 篝火は、身を乗り出して霧子に聞いてみるが、彼女は、撫然としたままだった。軽く篝火を睨んでいるぐらいだ。


「ぶっちゃけ、お前はストーカーか? オレは、悪霊を使って中の様子をストーカーしたと思うんだがあんたなら出来るだろ」

「そうね。霊は人の記憶を食べるからね。霊を使ってストーカーする事は可能よね」


 あっさりと霧子は手口を認めた。


 霧子はペラペラと聞いてもいない事を語りはじめた。霧子の言う霊は、人の記憶を食べるので、死んだ人間の記憶を持つものもいるらしい。それがいわゆる幽霊で、現世には死んだ人間の霊などはいないと語る。


「だろうね。死んだ人の魂や霊は、神様の元にいるはずだから、幽霊はいないはずだね」

「あら、篝火くん。よく知ってるじゃない」

「聖書にも書いてあるからな。意外とクリスチャンは、霊の話は敏感なんだよ」

「へぇー」


 そうは言って霧子が、ケーキをばくばくと食べ、紅茶を飲み干した。食べ方自体は綺麗だったが、なんとなく霧子の本性が透けてみえるような食べ方だった。


「ストーカーの犯人知りたい?」

「オレは霧子さんだと思う!」

「馬鹿言わないで。私がストーカーだったら、あなたに姦淫の霊を送って、私を好きになるように仕向けるけど」


 それを聞いて篝火の顔が青くなった。


「ぜいぶんと慣れた口調だけど、やった事あるのかい?」

「ええ」


 霧子は全く悪びれずに告白した。


「ただ、あなたよっぽどそちらの神様に愛されてるっぽい。いくら姦淫の悪霊送ってもこっちに戻って来ちゃったわ。おかげでこのザマね」


 霧子は腕まくりをし、右腕を見せた。そこは包帯でぐるぐる巻きになっていた。あまり重度では無さそうだが、ガボチャを切っているとき包丁でぐっさりと切ってしまったらしい。


「痛そう」

「参ったわね。私の霊を使ったストーキングは失敗したわけね。そちらの神に許可が出ないと、呪いも発動しないのよね」

「誰かストーカーについて心当たりない?」

「いっぱいありすぎてわからないわね」


 霧子は何かを隠しているようだが、本当の事を話す気はないようだった。背後にいる悪霊に首根っこを掴まれているのが見えた。『本当の事を言ったら殺す』と脅している。可哀想だとは思ったが、この様子では、本当の事を語ってくれる気がしない。


「私が霊をチャネリングして、ストーカーの犯人当てていい?」

「いやー、いいですけど」


 チャネリングといってもどうせ背後にいる悪霊に質問して、聞くだけだろう。悪霊が見えてしまう篝火にとっては、必要ない情報だが、勝手に霧子はチャネリングを始めてしまった。


「わかったわ。ストーカーの犯人は、パティシエの望月香代ね」

「ぜいぶんと断定的だね」

「霊が言ってるんだもの」


 篝火には、悪霊が言えと命令したものを、そのまま霧子が言っているだけに見えた。チャネリングも悪霊が見える篝火にとっては、操り人間や腹話術にしか見えず、どんどん死んだ目になっていった。


「ぶっちゃけ、その情報、オレらが言う悪霊が言わせているものにしか見えないんだが」

「何とでも言ってちょうだい」


 霧子の背後にいる悪霊は、ザワザワと騒ぎ始めた。お節介だとは思ったし、逆効果かもしれないが、霧子の為に祈った。


「ふーん。そうやってクリスチャンって祈るんだ」

「もうチャネリングなんかやめてくれよ。悪霊がついて人生滅茶苦茶になるぞ」

「まあ、仕方ないわよね。占いの仕事はやめたくないの」


 霧子の意志は固そうだった。自分で選んでいる場合は、篝火もどうする事もできない。


「ケーキは美味しかったわ。じゃあねー」


 そう言い残して帰る霧子の後ろ姿は、少し寂しそうだった。


 その後、祈ってみたが、やっぱり自由意志で占いを選んで、悪霊を招いている場合、篝火はどうする事もできない。真緒の事も失敗しているし、自信がゴリゴリと減らされていくような感覚を覚えた。

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