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オレたちエクソシスト  作者: 地野千塩


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お金の誘惑編(7)

 その夜、篝火は夢を見た。


 今日の事を思い出し、なかなか寝付けなかったのだが、突然眠気が襲ってきた。


 夢の中では、どこか雲の上のような場所が現れた。ただ、雲は全部黒っぽく、あまり良い匂いもしなかった。


「誰かいるかー?」


 寂しい場所だったし、思わず声を張り上げて誰かを呼んでいた。夢の中という自覚はあったが、匂いや風の感触が妙にリアルだった。風は真冬のように冷たく、鳥肌がたつ。


 そこに目の前に拓哉の姿が現れた。黒っぽい服を着ていたが、死神のような風貌で、思わずのけぞった。


「よぉ、篝火」

「何の用だよ!」


 篝火は睨みつけながら、いう。そういえば少し前、悪霊は夢に入って攻撃する事もあると、直恵から聞いた事があった。


 特にインキュバス、サキュバスという悪霊は、夢に中で対象者に性行為(場合によってはレイプ)もし、攻撃するという。


 目の前にいる卓弥は、インキュバスやサキュバスでは無さそうだが、悪霊のようにも見えた。悪霊が卓弥の姿を借りて攻撃していると思うと、辻褄が合った。


 悪霊祓いを試みたが、実態のない夢の中のせいか、なかなか上手くいかない。それどころか誘惑を仕掛けてきた。


『篝火くん、ミュージシャンやめて残念だったねぇ。今は最低賃金のバイト? 篝火くん、そーんな情け無い立場でいいの?」

「うるさい! もうミュージシャンはやめたんだよ!」

『もったいないねぇ。せっかくの才能があるのに』


 卓弥は甘い言葉を重ね、いかに篝火に才能があるかという事を語った。水飴のように甘い言葉で、耳に優しい。


 だんだんとミュージシャンを辞めた未練が、心を襲ってきた。


 音楽を始めた頃は、天下をとってやると意気込んでいた。自分の才能も信じていた。その頃の映像が、津波のように篝火の心を襲ってきた。


「うるさいぞ! どうせミュージシャンは、サタンを讃えないとできないからな! もう未練はない!」

『本当ー?』


 卓弥が、蛇のように舌を出して笑っていた。篝火は焦っているが、卓弥の方はいたって冷静だった。その事も篝火の心を焦らせてしまった。実際、汗もダラダラと流れ、着ているシャツもぐっしょりとしてきた。夢のくせにリアルな体感に、足元から崩れそうだった。


『俺の言う通りにすれば、お金も成功も全部上げよう。どう? 契約しねーか?』

「絶対嫌だね!」


 卓弥の誘惑は、実に甘やかだったが、ここで負けるわけにはいかない。


 心の中で、聖書の御言葉を思い出しながら、必死に祈っていた。


『そうか、残念だね。じゃあ、引き続き真緒の攻撃しとくわ』

「ちょっと待てよ。真緒さんの攻撃はやめろよ!」

『しょうがないじゃーん。あの女は自分から神様よりもお金を愛しているんだから。福音も何かわかってないし。だから献金も礼拝もしないのさ。お金があれば幸せになれると思っているんだからさ』


 卓弥は、そう言い残すとクスクスと笑いながら去って行った。


 同時に目の前の映像が崩れて、暗闇になった。


「おい、篝火! 起きろよ!」


 その悠一の声で目が覚めた。


 気づくと、枕元に悠一がいるのに気づく。パジャマ姿の悠一は、いつもよりちょっとユルい雰囲気だったが、視線は鋭い。


 篝火は上半身だけ布団から起きあがり、悠一と向き合った。夢の中の事だけだと思っていたが、現実でも汗がダラダラと流れていた。篝火が来ているシャツはぐっしょりと濡れていた


「おまえ、夢の中で悪霊に攻撃受けてたぞ」

「何でわかったんですかー」

「悪霊がそばにいるのが見えたからな。一応オレが追い返したが、大丈夫か?」


 篝火は情け無い声を出しながらも、夢の中で受けた悪霊の攻撃について説明した。


 もう夜中だったが、部屋は明かりがつき、だんだんと冷静になってきた。


「頑張ったじゃないか。ここで悪霊と契約してしまったら、とんでもない事になるぞ」

「意外と褒められた!」


 悠一は滅多に褒めない男だったので、篝火は驚いて素っ頓狂な声をあげてしまった。


「悪霊なんかと契約するととんでもない事になるぞ」

「とんでもない事?」

「精神も病むし、死んだら地獄行きだ」

「あー、よかったわ」


 それを聞いて篝火は、心底ホッとした。同時に甘い誘惑に傾き始めた自分を恥じた。


「聖書にも書いてあるが、金銭を愛する心はあらゆる悪の根源だからな。今あるもので慎ましく生活しなさい」


 命令口調で言われてしまったが、篝火はコクコクと子供のように頷く。


「悠一さんって学校の先生みたいだな〜」

「揶揄うなよ。っていうか、真緒さんはどうしようかなね」


 真緒の事は珍しく悠一も参っているようだった。何度か面談を試みたが、拒否され、廃教するかもしれないと言われているという。


「まあ、気持ちはわかるんだよ。真緒さんは、いわゆる氷河期世代で、お金の苦労も多くてさ」

「そっか……」


 氷河期世代というと篝火はよく知らないが、自分も景気の良い日本は知らない。生まれた年代によって苦労の量は変わると篝火は感じてしまう。


「お金か神様か。その選択は一生続くからな。卓弥がこの地域に貧困の悪霊を呼んだせいでもあるが、結局は真緒さんがお金の方を選んだ結果だしな……」

「うーん。真緒さんを助ける事できない?」

「どうだか」


 悠一がもう諦めムードだったが、篝火は諦めたくなかった。諦めるというより、このまま悪霊に負けてしまうのが、悔しいという感じだったが。


「子供だけでも説得できないかなぁ……」

「うーん。難しい」


 腕を組み、悠一は考え混んでしまった。


「でも、一度だけ真緒さんに会ってみようと思う」

「ちょ、篝火。そんな無理すんな」

「でも、放っておけないよ。それにオレはイケメンだからね?」


 篝火がわざとらしく、キザな笑顔をつくった。気づくと汗がひき、すっかりと落ち着いていた。


「イケメンだって?」

「そうだよ。オレの顔みたら、話聞いてくれるかも知れないじゃないか」

「はー」


 悠一は頭を抱えて呆れていたが、篝火は根拠の無い自信があった。


 充希の時のように変な執着心を持たれる可能性はゼロではないが、今の真緒は金銭欲のが勝ってそうで、その点は不安はない。


「もう、好きにしろ」

「いいじゃんか。真緒さんと話してみるよ!」


 こうして次にやる事が決まった。


 真緒の悪霊追い出しは、失敗した状況だが、逃げたくはなかった。


『恐れるな!』


 どこかからそんな声が聞こえた気がした。

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