お金の誘惑編(3)
礼拝室の隣の多目的室にいる雲雪の姿は、なかなかミスマッチだった。
赤い長い髪を一つにまとめ、うっすらメイクもしていた。黒い革ジャン、革のパンツ姿は、いかにもバンドマンと言ったところだろう。
ただ、久しぶりに会う雲雪は、ビクビクと怯えるようにあたりを伺っていた。
「どうですか、雲雪さん。教会初めてきました?」
悠一は、ニコニコと優しい笑顔をむけていたが、雲雪の怯えた様子は、変わらない。むし悠一に話しかけられて、弱々しい表情を浮かべていた。
「久しぶり、雲雪。どう、忙しいんじゃない?」
「おお、篝火。お前、本当に一般人だな」
悠一と似たように笑顔を向ける篝火だったが、雲雪はほんの少しだけ、気を抜いていた。
今日の篝火は、シャツにジーパン姿だ。顔つきも丸くなり、もうミュージシャンの時の面影は薄いなっていた。似たような格好をしている悠一と並んでも違和感が無い。
「まあ、忙しいだろうから、単刀直入に言うよ。雲雪、この男は知らないか?」
篝火は、昨日あった透明人間の顔を書いたチラシの裏を見せた。
明らかに雲雪は動揺し始めた。額には汗が浮かび、薄化粧がぬるぬると溶けていた。
同時に悪霊も見えた。篝火にはよくわからなかったが、スピリチュアルの悪霊というのがついているのが見える。雲雪の左手首には、紫色のパワーストーンが巻き付いていたが、そこが悪霊の巣になっていた。
ただ、教会にいるおかげかスピリチュアルの悪霊も大人しくしていたが、篝火や悠一を睨みつけていた。鬼のような顔で睨みつけるので、篝火も少し嫌な気分になってきた。
「何か知っていないですかね、雲雪さん」
悠一は笑顔だったが、なかなか本心が読めないような笑顔で、そばで見ている篝火もだんだん怖くなってきた。雲雪も、悠一の無言の笑顔に何か感じ取ったらしい。
突然、雲雪は頭を下げた。
「ごめん、篝火」
「は?」
突然謝られても身に覚えがない。先輩だし、こちらの方が失礼な事をした気もするのだが。
「実は、俺、この男に頼んで篝火を呪っていました……」
雲雪の言葉に沈黙が落ちた。篝火も悠一もどう反応すれば良いのかわからなくなった。
「この男は誰なんです?」
悠一が沈黙を破った。
「この男は拝み屋です。人を呪うのを生業にした男です」
雲雪は言いにくそうだったが、事情を説明した。ミュージシャン時代の篝火の才能に嫉妬した雲雪は、この拝み屋の男を頼り、呪いを依頼した。
男の名前が、柏葉卓弥。年齢は30歳だが、その界隈では凄腕の呪い屋で、ターゲットは必ず呪われるらしい。
「そ、そんな。俺呪われてるの?」
その話を聞いた篝火は、涙目で自分の事を指差す。
「いえ、どうも卓弥さんの話によると、呪いは失敗したそうなんですが。本当ごめんなさい。反省してます!」
再び雲雪は、謝罪をするが、 篝火はショックで頭に入ってこない。雲雪は、上昇思考が強い男でライバルのミュージシャンをよく卓弥を使って呪っていたらしい。
意外と悠一は冷静だった。そんな事だろうと思ったという涼しい顔をしている。
「ただ、最近妙に悪夢をみたり、怪我したりするんだ。たぶん、呪いが返っていると思う」
雲雪は、髪の毛をかきむしり、本気で困っているようだった。
事情はわかった。地域に撒かれた悪霊も篝火をターゲットにしてやられたものだろう。
「いっとくが、信仰あるクリスチャンを呪うには難しいよ。神様が護るからな。おまえ、どうするんだ? このままだとずっと呪い返しに会うぞ」
「どうしよ〜!」
悠一に言葉に雲雪は、クリスチャンが守られている事を一発で理解し、情け無い声をあげた。
雲雪の意外な行動に、篝火は嫌気がさしたものだが、こうして困っている姿を見ると、同情心しか感じなくなってしまった。悠一にすごまれ、雲雪についている悪霊は明らか大人しくなってきた。心なしか姿形も小さくなったように見える。
「悠一さん、雲雪先輩かわいそうだよ。助けてあげてよ!」
「そうは言ってもな。自分から拝み屋に行ったんだろ? 自業自得ってヤツじゃないか?」
悠一は撫然として腕を組み直す。
「本当、ごめんなさい! 呪い返し怖いです。助けて!」
しかし、あなりにも熱心に謝るので、悠一も折れたようだ。
福音を伝え、雲雪の悪霊を追い払う事になった。
スピリチュアルの悪霊はなかなかしつこかったが、御言葉や血潮の祈るをすると、綺麗に消えていった。
目を覚ました雲雪は、すっきりとした表情を見せた。
「本当、ごめんなさい。神様、悪かったよぉ」
情け無い雲雪の声を聞きながら、これでハッピーエンドとは言えなかった。
「どうする? 悠一さん。この卓弥っていう拝み屋どうするの?」
「とりあえず、こいつを探してみるか。拝み屋っていうかやってる事は完全に悪魔崇拝だがな」
幽体離脱までして人を呪っている悪魔崇拝者に卓弥。
一体何者?




