迷子
アンドレウス2世は魔族からの交渉願いが来ていると聞いて、昔のことを思い出していた。
アンドレウスが6つの頃、父と南にあるチセルの森に散策へ行った際、アンドレウスは迷子になった。
彼は昔から何事にも興味を持つ性格でたびたびこうやって迷子になっていた。と言っても次期国王がこれであるせいで皆総出になって探していた。
そんなことも考えず赴くままに森の奥深くへ入っていった彼は、あたりが完全に暗くなって初めて自分が迷子になったことを知った。
夜の森というのは特に冷える。寒さに凍え、泣きそうになっている彼に近づく影があった。
それはオーガの男であった。男はその泣きそうになっていてしかも、良い材質を使った服を身に纏っているその人間の子を見ると、持っていた毛皮を上から被せてやった。
そして、隣に座りその子と話すことにした。アンドレウスは最初、子供の頃から敵だと言われてきた魔物に対して、恐怖と警戒をしていた。しかし、抵抗する力もなかった。
そのオーガは近くで取ったであろうベリーを彼に与えた。空腹に負けた彼はそれを食べた。甘く、そして酸っぱかった。
アンドレウスは後に
「人生の中であれほど美味しいものを食べたことはない。それは空腹だったからかもしれない。オーガからの好意がなによりも嬉しかったのかもしれない。自分でもなぜかはわからない」
と、自叙伝に書いている。
オーガは片言よりはマシというほどの人間の言葉でアンドレウスとのコミュニケーションを取ろうとした。
カインは歴史書で古文からいろいろな国の言葉まで網羅しているからできるが、この時代は特にいろいろな言葉が飛び交っている。普通は自国の言葉だけが精一杯だった。それはアンドレウスもだった。
彼は自らの国の言葉でそのオーガとコミュニュケーションを取った。難航はしたが、それでも互いにある程度の意思疎通はしていた。
30分も経った頃にはアンドレウスにはオーガに対する恐怖などは消えてなくなっていた。
彼はそのイゼルと名乗るオーガから、いろいろなことを知った。彼は人間と結婚し、ついこの前娘が生まれたこと。その人間は特殊な人で450年も生きていたこと、もう亡くなってしまったこと。最期に娘を残してくれたこと。その人は昔からかなり有名な人であること。
他にも魔族の風習をいろいろ教えてくれた。アンドレウスは魔族が教えられたことと違い、悪いと一概に言えないことがわかった。
やがてアンドレウス捜索に来た人間が近づくとそのオーガは、
「今日のことは内緒だよ」
と言っていなくなってしまった。かれこれ数時間も話し込んでいた。嘘の様に短く感じられた。
彼は今回のことは心の中で一生仕舞い込み、これからの人生に生かそうと思った。そして、彼にいつか恩返しをしようと思った。
彼は死ぬ間際に残した自叙伝にて、初めてこれを明かした。オーガは長命だから、あのオーガも生きているだろうから、同盟を承認したのもこのことがあったからだと書いている。
歴史の面白いところは、イゼルがたった一人の人間を助けたことが、この同盟と、これ以上の件にも関与してくることだ。




