Chapter 1-8 「聖剣と迷宮」
──あの徘徊天使事件から2週間が経ったころ、ようやく勇者見習いは日々のキツい鍛錬にも慣れてきたようだ。朝食を取り、午前中は退屈な授業。昼食の後は夕方までひたすら鍛錬を行う。美味い飯をタダで食べられるのは最高だが、勇者見習いたちは日々の鍛錬で疲弊しているらしく、救護室は毎日満員だ。まぁ俺は寄宿学校に入学する前から、ひたすら1人で鍛錬をしてきたのもあって、そこまで大変ではないけどな。
「──今日の午後は鍛錬ではなく、休息日とする。明日からは聖剣制作のために迷宮へ向かうからな。ではまず、教科書の41ページをシャルロッテ、読んでくれるか?」
「は、はいっ!」
──聖剣、勇者のみが使える、オーダーメイドの武器。ドワーフの名工にしか打つことができず、素材には魔物の核を使う。名工によって聖剣の形が変化し、魔物の強さに応じて聖剣の性能が変わるため、明日からの迷宮攻略と名工選びは大事なイベントになる。適性試験の模擬戦で取ったデータを、学校側が名工に共有しているので、既に制作者が決まっている勇者見習いも多いという。
聖剣には聖剣技が1つ備わっていて、これが天使に対する切り札になる。本人の魔法適性に応じた属性を帯び、あの硬い外皮すら傷つけることが可能になると教科書には書かれている。いや、待て待て……俺、魔法適性0なんだが? その場合、俺の聖剣はどうなるんだ……?
「迷宮攻略では6人1組の5パーティを組んでもらう。後程、パーティメンバーを決めたら代表者が報告に来てくれ。今日の授業はここまでとする。では、解散っ!」
──授業が終わると同時に、一斉に勇者見習いたちが一か所に集まってくる。そう……俺が座っている机の前だ。
「ね、ねぇフェイくん一緒にパーティ組まない?」
「フェイさん、俺あなたのこと尊敬してるっす! ぜひパーティを組んでください!」
「ずっと前から好きでした、パーティお願いします!!」
……どうしてこうなった。仮にも俺は序列最下位、最弱の勇者見習いだ。急に態度が変わった同期たちを見て、気色悪さから鳥肌が立つ。
「て、天使を倒せるなんてすげーっす! パーティ組んでもらえないすか!?」
……そういうことか。ったく、ヴィンセントが「君が徘徊天使を倒したことは混乱を招くから、秘密にしておくよ!」って言ってたはずが、どこからか漏れていたようだ。誰だ言いふらしたの……アルベールか? ぶっちゃけ誰と組もうが俺はどうでもいい。適当な奴とパーティを組んで、単独行動しようと思ってたからな。
「──フェイさんは私とパーティを組むんですっ! また大怪我されたら困りますしっ!」
「そ、そうなのかフェイ?」
いや、そんな予定は一切無いし、聞いてもいない。俺に群がる勇者見習いたちを押しのけて、シャルが両手を横に広げて通せんぼをしている。
「いや、俺は別に……」
「組むんですっ! ねっ!?」
うっ……可愛い……女神様から微笑まれたら、男としては断れない。仮にも治癒をしてもらった恩がある。シャル1人くらいなら、守ってやってもいいかと思わせるほど、彼女の笑顔は魅力的だった。
「……おう」
「えーっ!? そっか……じゃあそのパーティに私も入れてよ!」
「そうだそうだ、パーティは6人だろ!?」
「も、もう他のメンバーも決まってますのでっ! い、行きましょうフェイさんっ」
──そう言うと強引に腕を引かれ、俺はシャルに教室の外へと連れ出された。意外と強気なところは姉に似たのかもしれないな、などと考えつつ、身を任せることにした。
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「はぁ、はぁ……ここまで来れば誰にも見つからないですねっ」
「ど、どうしたんだよ急に。パーティを組むってのは?」
息も絶え絶えに、俺はシャルに連れられて寄宿学校中央の中庭に来た。ここは植物園になっていて、色とりどりの木々や花々に囲まれながら俺とシャルはベンチに座っている。花を見て美しいと思う感性は持ち合わせてないが、自然と共に生きてきた俺にとって、人工的な建物よりこういう場所のほうが落ち着きはする。
「えっと、フェイさんが怪我をしたときに治したいっていうのは本当ですが、別の理由があって……ごめんなさいっ!」
両手を前で合わせて、シャルが可愛らしく謝罪をする。
「……だろうな。お前は特定の誰かを贔屓するタイプじゃないだろ? 日々の鍛錬で傷ついた勇者見習いを、分け隔てなく誰でも治癒してるしな。 現にシャルを『救護室の女神』って呼ぶ奴すらいるくらいだ」
「あっ、えっと……えへへ……ちゃんと私を見てくれてるんですねっ」
頬を赤らめるな。俺みたいな冷めてる人間じゃなきゃとっくに恋に落ちてるぞ。
「……恩人だしな」
突っぱねるようにボソっと呟き、少しの沈黙が流れたあと、シャルが本音で語りだす。
「シグルーン姉様に、迷宮攻略ならフェイさんと組んだほうがいいって勧められたんですっ。いくら難易度が低い迷宮といっても、魔物が出ますし、出来るだけ優秀な勇者見習いとパーティを組めって言われて……」
「なるほど、あの人からの推薦ってわけだ」
「……でも、姉様が言わなくても私はフェイさんをパーティに誘っていたと思いますっ」
「へぇ、序列最下位の俺を? それまた何でだ?」
悩んだあと、晴天の空を見上げながらシャルが語り始める。
「……私、ここに来る前は教会孤児院のシスターだったんですけど、フェイさんを見るとなんだかあの子たちを思い出してしまって……その、危なっかしいところとかっ」
「なんだそりゃ……俺はガキじゃねぇぞ」
「ふふふ……手のかかる弟みたいで、フェイさんといると楽しいんですっ」
そういうとシャルから頭を撫でられ、くすぐったくなった俺は首をそらす。そうやって誰でも信用して無防備な仕草をするシャルのほうが危なっかしいと俺は思うけどな。
「弟……か。まぁ話の流れはわかった。いいぜ、パーティを組んでも。それで他のメンバーはもう決まってるのか?」
「はいっ! そこはしっかり根回ししてるのでっ! スコットさんを既に誘っていて、もしフェイさんに断られたら、一緒に説得してもらうつもりでしたっ」
可愛らしく、両手を合わせて首を傾げている。意外と策略家だな、シャル。
俺は他人の心なんか1ミリもわからねぇが、仕草や表情の変化で何となく考えていることがわかる。これは1人でひたすら魔物や野生動物と戦ってきて、相手を観察するクセがついているからだ。恐らく、シャルは嘘を言っていないだろう。
「……意外と計算高いところもあるんだなシャルは」
「えへへ……あ、あとフェイさんがパーティにくるなら、イリアさんとドゴンさんも入りたいとおっしゃっていましたっ」
「あの戦士と魔法使いか? まぁあの怪力と魔法は役に立ちそうだし、いいんじゃないか」
これで俺を含めて5人……。シャルの顔を立てるためにも、真面目に迷宮攻略やるとするか。別に嫌われてもいいが、あの治癒魔法が無くなるのは俺としても避けたい。
迷宮は狭いのもあり、連携を取るのが難しく、統率を取るという意味でも代表者であるリーダーを選出するべきだ、とバーンリーが語っていた。イリアは問題児で論外だし、ドゴンとスコットも口数が多いタイプじゃない。シャルも誰かを率いるのが得意には見えない……俺はそもそも他人と合わせるのが苦手なタイプだ。自由に1人で行動するほうが気楽だし、性に合ってる。
「リーダーって決めなきゃならないんだろ? 誰がやるんだ?」
「あっ、フェイさんさえ良ければフェイさんにお願いしようと思っていたんですがっ……」
「俺ぇ!? いや、辞めといたほうがいいと思うぜ……」
──途端、俺たちの前に人影が見える。俺は顔を上げると、そこには──アルベールが立っていた。
「……僕がやろう。君たちのパーティに、僕を加えてほしい」
「はぁ!? なんでお前がここにいんだよアルベール……。序列1位のエリート様が、落ちこぼれのパーティに入りたいだなんて、お前も墜ちたな金髪眼鏡」
「ぐっ……。 い、いや……まぁいい」
突然、深々と頭を下げ、アルベールが懇願する。
「僕だってお前に頼むのは気が引けるっ! だけど……強くなりたいんだ。今のままでは天使とは戦えないことを、誰よりもわかっている! 頼むフェイ……この通りだ。パーティの統率や雑務などは全て僕がやる。──僕に、戦い方を教えてくれ」
……驚いた。貴族ってのは傲慢でプライドの塊みたいな生き物だと思っていた。しかもこいつは一国の王子、貴族の中の貴族。そんなやつが俺みたいな得体の知れない人間に頭を下げるだなんて、前代未聞だろう。
こいつが……誰よりも努力してることを知っている。アルベールは俺のことが嫌いかもしれないが、俺はコイツのことを密かに気に入っていた。扱いやすく、煽ると面白いという点もそうだが、才能や身分に溺れず人一倍努力をするコイツのために、力になってやってもいいと思えた。
「──ったく、しょうがねぇな。いいぜ、アルベール。だけど俺が言うことはちゃんと聞けよぉ?」
「ぜ……善処する」
最後の1人をパーティに加えた俺たちは、聖剣の素材を手に入れるため、迷宮攻略を開始する──。




