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Chapter 1-6 「徘徊天使」

 ──俺とアルベールは訓練場の倉庫の鍵をぶっ壊して、中にある鉄製の武器を手に、裏門へと走った。


「お、お前たちなぜここにいる!?」

「俺たちも戦います、バーンリー教官」

「そんなわけにいくか! お前たちは聖剣すら持たない勇者見習いなんだぞ!」


 裏門の前、口ひげを生やしたバーンリーが驚いた表情で、俺たちに向かってデカい声で静止する。

 まぁ、そりゃそういう反応になるのは想定済みだった。だが、予想外の反応だったのは隣に居た黒髪の女だ。東方風の刀を腰に差す、女勇者が話し出す。


「あら、とても勇気がある面白い子たちやない。ウチは連れていってもいいと思うけど、どうやろ?」

「アヤメ……勇者見習いたちに何かあったら、俺はゼロからこっぴどく怒られるんだぞ!? 下手すればクビ、辺境送りだ!」


 握りこぶしを作りながら、まくし立てるバーンリーに向かって俺は口を挟む。

 

「バーンリー教官、徘徊天使すら倒せないようじゃ終末戦争では役に立たねぇよ。ここで死ぬか、1年後に死ぬかの違いだけだろ?」

「あははは! いいじゃない、この子たちの面倒はウチが見てあげる。どうせ教官は戦えないし、報告通り徘徊天使が2体出現したのであれば、勇者見習いだろうと手を借りたいのは事実やし。しかも、そっちの綺麗な青い目の子は噂にあったアーヴァインの弟さんやろ?」

「兄をご存じなんですか?」

「アーヴァインは第37勇者隊の隊長で、屈指の実力を持つ英雄やもの。知らない人はおらんよ。そんな彼の弟なら、実力を見てみたいし」

「ぐっ……そうはいかん! 俺はゼロから勇者見習いの命を預かる立場だ、許可できん!」


 ゆっくりとアヤメと呼ばれた勇者がバーンリーの前まで歩き、右手を左胸に当てながら語る。


「……勇者とは、勇気ある者のこと。徘徊天使が出現したと聞けば、普通は恐怖から動けなくなる。でも、この子たちは違う。しっかりと、自分の足でここまで来た。それだけで、充分やないかしら?」


 ──バーンリーがしばらく悩んだあと、決心したのか頷き、俺たちに号令をかける。

 

「……今は別任務で戦える勇者がいない。ここは、お前たちに任せるとする。裏門を出て、西側の森で天使の反応を感知した。行けっ!」

「「「はいっ!」」」


 † † † † † † † † † † † † † † † † † †

 

 ──俺たち3人はまだ暗い森の中を走り、報告の場所へと向かう。昼と夜の寒暖差からか、草木の水滴が地面へと落ち、少しぬかるんでいるようだった。まぁ、自然とは友達みたいなもんだ。上手く身体のバランスを取れば、この程度であれば問題なく走れる!


「あ、自己紹介がまだやったね。ウチは東方の国スイレン出身、第37勇者隊序列第12位、金級勇者のアヤメ・クサナギや」

「第38勇者隊、アルベール・フォン・オーデンセです」

「あんたは先輩ってことか! 金級だなんて、すげぇ勇者なんだな。俺はフェイ・シュトラールだ」

「アルベールくんに、フェイくんやね。よろしゅう頼むわ!」


 ──自己紹介もそこそこに、数分走った後……ぞわっと肌を刺す嫌な感触を覚えた。真夜中の森で、異質なほど白く光るソレは……何かを探しているようだった。


「あれが……天使!?」

「なんだアルベール、見たことなかったのかよ?」

「あ、あるわけないでしょう! 今まで僕は王国から出たことがありませんでしたし……」


 アルベールは目の前の天使を凝視しながら、額に汗をかいている。人類が束になっても敵わない異形がすぐそこにいるというこの状況にしては、冷静なほうだろう。さすがはエリート、ってとこか。俺が初めて天使と戦ったときと比べても、アルベールはずっと落ち着いてる。

 

「一体は歩行型やけど、もう一体は……特質型!?」

「特質型ってのは、あの人型の奴か?」

「基本的な形態の歩行型と飛行型以外は全て特質型と呼称するんやけど、人型の天使……これはちょっと、ウチらには荷が重いやもしれんね」

「どうします、アヤメさん?」


 震えた声でアルベールがアヤメに聞く。アヤメが特質型をちらっと見ながら、俺たちに問う。

 

「ウチがあの特質型を引きつける。2人は歩行型の相手……できる?」

「……おう、任せとけ!」

 

 ──アヤメは鞘から刀を抜き、構える。俺は短剣を正面に持ち、アルベールも鉄剣と盾を天使に向けて準備をする。久々の天使狩りだ……特質型だがなんだか知らねぇけど、1匹残らず……ぶっ殺す!


「お前の相手はウチやっ! 来いっ!」


 素早い動きから瞬時に踏み込み、刀で斬られ、不意をつかれた人型の天使はアヤメを追う! 歩行型もアヤメを追跡しようと身体の向きを変えたが、それを静止するように俺とアルベールも草むらから飛び出した!


「──ギィィィィ!!」

「耳を塞げ、アルベールッ!」

「──ぐぁっ!?」


 といっても、片手剣と盾じゃ咄嗟に耳を塞ぐのは無理か。耳に手を当てて、少し痙攣しながらその場でうずくまってやがる。もう俺は慣れちまったが、天使が出すこの金切り音みたいな叫び声は初見じゃキツいだろうな。


「──お先に行かせてもらうぜ!」


 俺は地面を強く蹴り、左右にステップを踏みながら歩行型に近づいていく! こいつの素早い噛みつきさえ避けられれば、大したことはねぇ。俺に齧りつこうと大きな口を開けて、首を伸ばしてくる! その予兆を確認したあと、スライディングで躱して挨拶代わりの一撃をお見舞いする!


「ギィィァアア!?」

「くそっ、浅かったか! 相変わらず気持ち悪(わり)ぃな、お前の口の中」


 石像みたいに硬い皮膚を少し削ったが、致命傷にはなってない。歩行型の体表は硬く、並大抵の攻撃は通らない。こいつの弱点は……目。 黒く不気味な目の部分は柔らかく、あそこに的確に攻撃できれば……殺せる。


「フェ……イッ……」

「……ったく、そんなんじゃ戦えねぇだろ。お前はそこで休んでろ」


 全身冷や汗をかきながら、剣を持つ手はガタガタと震えている……これじゃあ戦力にはならねぇな。まぁ、恐怖で失神してないだけ、及第点か。


「……貸せ、お前の剣」


 俺はアルベールの剣を拾い上げて、両手で武器を構える。

 ──歩行型の脚部が盛り上がった! 飛びつきが来るっ!


「ギィィィィ!!」


 ──片手剣を持つ左手で、歩行型の噛みつき攻撃を受ける! こいつの口の中に俺の左腕が入る……剣を立てて、上顎に突き刺す! 口の中であれば柔らかく、肉を削れることはわかってた。

 だけど、これは諸刃の剣……鋭い痛みが俺の左腕を襲う。こいつの牙が左腕に食い込み、ひりひりとした嫌な痛みで一瞬視界がぼやける!


「お返しだ、クソ野郎ォ! だああぁぁぁ!!」


 右手に持った短剣をこいつの気色悪い目に突き刺し、そのまま眼球を抉り取る! 確かな手応えを感じて、天使が叫び声を上げる!


「ギィィ! ギィヤアアアァァ!」

「はっ……はぁ……そこでのたうち回ってろ、クソ天使が……」


 ……血を流しすぎたか。目の前がぐらつき、俺は尻餅をつく。眼球をえぐられた天使は地面でじたばたと暴れたあと、動かなくなり……白い光と共に消え去った。


「きっ……君は……いったい!?」

「ふぅぅ……あー、痛(いて)ぇ……」

「だ、大丈夫かフェイ!? その傷……」

「大した事……はあるか。あいつの牙で左腕、噛みつぶされちまったしな」


 ぽたぽたと血が俺の左腕を伝って、地面に落ちる。それを見たアルベールが自分のマントを引きちぎり、俺の左肩に強く巻き付けた。


「……簡単に止血した。 すぐに治癒師に診てもらわないと!」

「慣れてるから大丈夫だ。それより、アヤメは!?」

 

 ──森の奥から、長い黒髪の女が歩いてくる。 その足取りは重く、ゆっくりとしていた。やがて立ち止まり、虚ろな目で俺たちを見る。


「逃げ……て……ごふっ……あが……あああ……おええぇえ……」


 ──全身から血を噴き出し……胴体を二つに断ち切られた……アヤメだった物は……俺たちの目の前で息絶えた。


「ア、アヤメさんっ!?」

「──逃げろ、アルベールッ! あいつは普通じゃない!!」

 

 ──死体の上を蠢く白い人型は、笑ったように見えた。

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