Chapter 1-4 「初めて誰かと食べる食事」
「……なんでお前がここに座るんだよ、アルベール」
「し……仕方ないでしょう! 演習場の整備を終えて、ここしか席が空いていなかったんです! 僕だってお前と向き合って食事などしたくないですよ!」
「あーっ! 面白い動きをするお兄ちゃんだーっ! どぉ、ボクの魔法見てくれてたぁ!?」
──3つほど離れた席に、物凄い形相で俺を睨む男の姿が見える。その屈強な男の頭には……髪の毛1本も生えていなかった。おいやめろ俺を睨むな、俺は関係ないだろ。
「……ぷふっ」
お、落ち着けフェイ笑うな! 絶対にダメだ、あのハゲを見て笑っちゃいけない!
もう一度冷静にあいつの頭を見る……。くく……心の中で笑いが零れる。そりゃあ、あれを見て耐えろっていうほうが無理だろ!?
この食堂を照らすランタンの光が、あのハゲ頭に反射してちらちらとこちらを見ている。
──ま、まずい……あの大男が立ち上がり、俺のほうへゆっくりと歩いてくる……!?
「……すまんが、ここの席を空けてくれるか?」
「あっ、えっと……はい……」
俺の左側に座っていた冴えない男は、スキンヘッドの男にそう言われてそそくさと席を交換した。ドスン、と雑に座り……この頭にされた原因の銀髪少女に話しかける。
「あっ! ボクが燃やしちゃった人だ、ごめんネ、熱かったよね?」
「…………」
──男は静かに、噛みしめるようにゆっくりと話し始める。
「……エルフの魔法を受けたのは、初めてだった。いい、魔法だ」
「ほんとぉ!? 良かったぁ……ボク、実技試験は武器の扱いがヘタクソすぎてダメダメで、アピールするには魔法しかないと思って模擬戦で使っちゃったんだぁ……うう、悪かったとは思ってるんだよ!」
エルフだって!? そんなのおとぎ話にしか出てこない種族じゃないのか? いや確かに、銀髪の少女の耳、その先端は少し尖っていて、ヒューマンと比べても長い。村に残されていた絵本に出てくるエルフに、外見はそっくりに見える。
「……実在したんだな、エルフってのは」
「うん、むかーしはもっと沢山いたんだけど、今は白化のせいでエルフは故郷が無くなっちゃったからねーっ」
──俺の右に座っていた治癒師のシャルロッテが、このテーブルに座っている俺たち6人に向かって提案をする。
「せ、せっかくこうやって同じ卓になったわけですし、自己紹介をするのはいかがでしょうかっ?」
「確かにーっ! いい案だと思うっ! じゃあ、ボクからねっ!」
俺はなれ合いには興味がない……というか生まれてから友達が出来た記憶がほとんどない。白化の被害を色濃く受けたヘスラック村で、唯一の生き残りだった俺を気味悪がって距離を置く人間が殆どだったからな……。しかも、1年後、ここにいる俺たちは……皆死ぬ。だったら、他人に深入りするのはやめたほうがいい。情があればあるほど……戦いが怖くなるだろ。
「ボクはイリア・スカーレットッ! 序列第16位銅級勇者で、何を隠そう、ルーン魔法学院首席卒業の天才魔法使いっ! 魔法なら任せて、ボクがどんな敵も燃やし尽くしてあげるっ!」
自信満々にヘンテコなポーズを取って自己紹介をするこの銀髪エルフは、ルーン魔法学院の首席卒業らしい。ルーン魔法学院と言えば、ミズガルズでも最大の魔法学校だ。そこの首席卒業という話が本当なら、この子は優秀な魔法使いなんだろう。
「……オレは序列第22位銅級勇者ドゴン・アーロン。見ての通り、筋力には自信がある。……よろしく頼む」
筋骨隆々の戦士は肩が盛り上がり、優秀な戦士に見える。唯一の問題点としては、イリアに髪の毛を全て燃やされたせいでイカつい見た目になっていることだろうか……。ようやく俺も少し慣れたのか、笑いはこみ上げなくなったが……今度は彼を見ると恐怖を覚える。肌色が違うだけで、これじゃあオークと何ら変わらないだろう。
「で、では私もっ! 序列第25位銅級勇者、シャルロッテ・ミネルヴァと申しますっ! どうぞ、シャルとお呼びくださいねっ」
「治癒魔法が使えるだなんて珍しいよねっ! ボク、身体弱いからお世話になることも多くなりそうっ!」
「はい、お任せくださいっ!」
俺の右斜め前に座る、気の弱そうなクセ毛の男がもじもじとしながら、聞こえるか聞こえないかわからないような、か細い声で自己紹介を始める。
「ぼ……ぼくは序列第29位銅級勇者……スコット・ヘイムダル。あ、あんまり役に立てるかわからないけど、が、頑張ります!」
……こんなに気が弱そうで、身体も細い奴、真っ先に死ぬだろうな。序列も低いし……いやまぁ、俺よりは高いけど。
「僕は序列第1位銀級勇者……アルベール・フォン・オーデンセ。いずれこの隊を率いることになる。 皆、よろしく頼むよ」
「お前がこの隊を率いるだぁ!? ははは、俺に眼鏡ぶち壊された分際でよく言うぜ」
「貴様……ぐっ、堪えろ、堪えるんだアルベール。大丈夫、相手は下民……そんな奴の発言を真に受けるな……」
下を向いてブツブツと喋りながら、何とか自分の感情をコントロールしているようだ。こいつ、煽るといい反応するから面白いんだよな。
「凄いね、もうすでに銀級だなんて! ボクも見習わないとなぁ!」
「そんなに凄いことではないよ。兄は……僕よりもっと優秀だった」
「見習った結果、お前ら2人は揃って始末書を書くことになるわけだ」
「ぐっ……な、なにも言い返せない……!」
イリアは歯ぎしりをしながら俺を見る。エルフは長寿の種族で、見た目に反して年寄りなことも多いらしい。見た目は12歳くらいに見えるが、俺より年上の可能性もあるのだろうか。俺はこの世界のことを、ヴィンセントから貰った大量の本で学んだ。文字は嫌いだが絵本を読むのは好きで、冒険譚のエピソードの1つに、エルフ族の女性に人間の男性が年齢を聞き「レディに年齢を聞いてはいけません!」とビンタをされたシーンを思い出した。……実年齢を聞くのは止めておこう。
「ま、まぁまぁ! 最後はフェイさんですねっ」
「……序列第30位銅級勇者フェイ・シュトラール。ヘスラック村最後の生き残りだ」
木製のカップに入った水を飲みながら、答える。ヘスラック村……白化した俺の故郷。最後の生き残りって名乗ってるのは、俺の故郷を忘れないようにするためだ。この世界では白化した領域は人々から忘れさられ、無かったものになる。自分の故郷が記憶から消えるだなんて、そんなの納得できるわけねぇからな。
「ヘスラック村? それってエルフの森より更に奥の、かなり前に白化した辺境じゃなかったっけ?」
「ああ、そのせいでここまで来るのに気が遠くなるほどの時間がかかったぜ。ガキのころから一面真っ白の景色で、外の世界なんか何も知らなかったからな」
「うへぇ、それは大変だぁ! フェイは白化に余り影響されない、特異体質なのかなぁ?」
……特異体質なんかじゃない。白化した大地の近くに長期間滞在すれば、生物は石像と化す。そのせいで俺の脇腹は所々硬質化していて、あのクソ天使どもをぶっ倒さなきゃ気がすまねぇ。初めて人里へ行った時に、この白化を見られて「天使がいるぞっ! 逃げろーっ!」と叫ばれ、それ以来、他人に見せないように気をつけている。
──自己紹介が一通り終わったあと、白いレースのエプロンを身に着けたメイドたちが一斉に勇者見習いたちへ配膳を行う。今日の夕食はステーキのようで、良質な焼かれた肉と野菜が皿に盛りつけられていた。
「お肉ぅ!? おいしそぉ……勇者になって良かったよぉ!」
「……これは、なかなか上等な一品ですね。王国料理と比較しても、遜色ない」
丁寧にオーブンで焼かれた肉は、程よく焦げていて、試しにナイフを入れてみると肉汁がぶわっと溢れ出てきた。
「……野蛮人はナイフの使い方も知らないのですか」
「うるせぇな……知るかよ、だいたいの食べ物は手づかみで食ってきたんだからよ」
「じゃあっ、私が教えてあげますねっ! はいっ、フェイさんこうやって持つんですよっ」
そういうとシャルが俺の手を取り、丁寧にナイフとフォークの持ち方を教えてくれる。俺に触れた手は心地よい温かさで、思わず全身が強張ってしまう。
「お、おう……ありがとな」
「はいっ!」
ぐっ……可愛い。クソ、何骨抜きにされてんだフェイ……。可能な限り天使を殺して、俺は死ぬ。その目的のために、必要なら勇者隊を利用するだけだろうが! 何とか深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
不器用ながら教えられた通りにナイフとフォークを使い、肉を口に含んでみる。一口噛むごとに良質な脂身の旨味が口いっぱいに広がり、とても美味い! こんなに美味い肉を食ったのは生まれて初めてだ。まぁ、アルベールは当たり前のような顔をして食ってやがるが。ったく、金持ちは羨ましいなこんな料理を毎日食えるなんてよ。
ともあれ、これから勇者隊では1日3食、この食堂で飯を食べることになる。すでに次の飯が楽しみになっているくらい、寄宿学校で食べる料理ってのは……心底美味いと思えた。




