Chapter 1-3 「最強と最弱」
──いきなり踏み込んで、アルベールが斬り払うように木剣を振るう! 俺は瞬時に後ろへ飛び、間一髪で躱してみせた。
「……すばしっこいですね」
「お前が遅いだけだろ? 止まって見えるぜ」
「……そうですか、では少しずつ速めていきます」
──今度は剣を高く掲げ、振り下ろす! 俺は右に一歩動き、かろうじて避ける。反撃をしようと逆手に持った短剣で斬りつけるため、奴の懐に飛び込んでいく!
「ぐっ……!?」
何……が、起きた!? 俺の身体は宙に舞い、地面に背中から叩きつけられた! 顎に強烈な痛みを感じ、口の中は鉄分の味がする。俺は血を演習場の砂地に吐き捨て、短剣を構える。
そうか、あの盾で殴られたのか! どうする、考えろフェイ……リーチの長さでは向こうに分があるし、かといって懐に飛び込むとあの盾による反撃が来る。これが片手剣と盾の戦い方か……やりづれぇな。
「失神させたと思ったのですが、しぶといですね君」
「おかげさまで頭がクラクラするぜ、金髪眼鏡。あー、痛ぇなちきしょう」
「……次で終わらせますよ」
──こいつ、更に動きが速くなった!? またあの最初に繰り出した斬り払い攻撃がくる! さっきよりも速いスピードで剣を振るう……これは避けられないと判断した俺は、地面を蹴って高く跳躍する!
「それは悪手ですよ、フェイ! 無防備にな……る……」
「だあああぁああっ!」
体重と重力を乗せて、両手で握った短剣を、頭上からアルベールに向かって突き刺すように急降下する! アルベールは剣と盾を頭上に構え、俺の攻撃に備えている。それを確認した俺は短剣を投げ捨て、アルベールの前に両手で着地する。そのまま腕の力を使って身体を押し出し、右足でアルベールの顔面を蹴り上げた!
「──くっ!?」
「お返しだ、エリート。悪いけど俺は金を持ってないから、弁償してくれって言われても無理だぜ」
「なっ!?」
俺の蹴りはアルベールの顔面をとらえ、奴の眼鏡を叩き割った。驚いた表情で俺を見るアルベールが、悪態をつく。
「……奇想天外な動きをしますね。まるで猿のようだ」
「そりゃあ褒め言葉として受け取っとくぜ。俺はお前たちみたいなエリートじゃねぇから、鍛錬つったら村の近くの山で野生動物と戯れるくらいしかやることなかったしな」
壊れた眼鏡を乱雑に投げ捨て、眉間にしわを寄せながらアルベールが睨む。
「下民の癖に、余り僕をコケにするなよ……!!」
「いいねぇ、いけ好かないエリートもそんなツラできんのか!」
怒りに震え、奴の眉間にはしわが寄る。盾を捨て、木剣を両手で構えた──そして次第に白く光り出した!?
あれは……聖剣技!? スキルを、聖剣ではなく訓練用の木剣で発動できるなんて聞いたことねぇぞ!
「────そこまでっ! アルベールくん、君は彼を殺したいのかい?」
「……っ!? す、すみません……」
「まったく、ゼロから優秀な勇者見習いと聞いてはいましたが……聖剣技を木剣で放てるなど規格外ですね君は」
アルベールのスキルの威力に耐え切れず、木剣はそのまま砕け散って跡形も無くなっていた。
「……この勝負、引き分けとします! では、次の模擬戦を始めますよ!」
──アルベールは俺に背を向け、一言「……眼鏡の替えを取ってきます」と告げたのち、校舎へと消えていった。ヴィンセントが止めていなかったら、俺はあのスキルを食らっていただろう。あぶねぇ……あんまり天才を煽るのはやめておこう。いるもんだな、世の中には天才って奴が……全く、羨ましいぜ。
「あ……あの! だ、大丈夫ですか……?」
「ん? ああ、痛みには慣れてるからな」
美しいブロンドのロングヘアーに、幼さが残る薄緑色の瞳の女が心配したのか、俺に声をかけてきた。
「……其方を癒す光となれっ! 初級治癒魔法ッ!」
彼女の杖の先から暖かい光が溢れ、それが俺に向かって注がれる。すると痛みを感じていた顎が治ってる!? アルベールの盾で打ちつけられた場所をさすってみても、出血が止まっているようだった。
どこか暖かいその光は心地よく、俺の身体の芯まで届くようだった。
「すげぇ、これが治癒魔法ってやつか。ありがとな……えっと……」
「あっ、私……シャルロッテ・ミネルヴァと申しますっ。どうぞ、親しみを込めてシャルとお呼びくださいっ」
「お、おう……俺はフェイ・シュトラールだ」
「はいっ、覚えましたっ。フェイさん、よろしくお願いいたしますねっ」
ニコニコと笑い、無邪気なこの子の第一印象は……綺麗だ、としか言いようがなかった。そもそも同年代の異性と話した経験がほとんどなく、山奥で一人生きてきた俺にとってこれは……刺激が強すぎる。
「……いい匂いがするんだな、女って」
「フェ、フェイさんっ!?」
「あ、ああ……悪ぃ、失礼だったなら謝る」
「あっ、いえ、失礼とかそんなっ! ちょっと恥ずかしかっただけで……」
──突如、後方からチリチリと焼けるような熱さを感じ、思わず振り返る。すると制服の上に黒いローブを羽織った女が、両手杖の先端から炎の球を放とうとしている!?
「ちょ、ちょっとイリアくんっ!? 模擬戦では魔法禁止って言いませんでしたか、私!?」
「焼き尽くせッ、初級火魔法ッ!」
「ぐっ……おぉぉぉぉ!!! あちぃぃぃ!!」
イリアと呼ばれた銀髪の少女が放った火魔法は、屈強な戦士の男に向かって放たれた! そのまま炎に包まれた男を、セリーヌが水魔法を使って鎮火し、何とか無事のようだが……炎魔法をもろに受けて気絶している彼の髪の毛は全て焼け落ち、ツルツルのスキンヘッドになっていた。
「ふーっ! お掃除完了っ! ボクの魔法はどうだった、ヴィンセント先生っ!?」
「まったく……今年は問題児が多いですね……。いいですか、イリアくん! あとで補習と始末書を書いてもらいますからね!」
「えええぇぇ!? ボクが補習ぅ!?」
イリアが両手で頭を抱えながら、力なく膝から崩れ落ちた。ヴィンセントは眼鏡を新調して戻ってきたアルベールに視線を移し、一言。
「……アルベールくん、あなたもですからね」
「ぼ、僕もですか!?」
「聖剣技を模擬戦で使ってはならないと新しい規則を作るはめになります。ああ、ゼロに報告するのすら面倒くさいというのに、私の仕事を増やした罰です!」
俺は狼狽えるアルベールを見てにやりと笑い、皮肉を言う。
「良かったな、エリート。優等生のお前なら文字書きは好きだろ。俺に感謝しろよぉ?」
「……お前は絶対僕が殺すからな」
「はははは! 楽しみにしてるぜ」
日も落ちかけて、少し肌寒くなった。俺たちは模擬戦を終えて、夕食をとるために食堂へと先に向かい、談笑をしているところだった。
──しばらくして、訓練場の整備をやらされたアルベールとイリアは、ぐったりとした様子で食堂の中へ入ってきたのだった。
† † † † † † † † † † † † † † † † † †
──訓練場の側、倉庫のような備品室に訓練用の武器と魔力壺をヴィンセントが片づけている。
「……うん、これは?」
魔力壺を棚に置き、その水面に何かの絵が薄く描かれていたのを不思議に思ったヴィンセントは、口元に手をあてて……にやりと笑う。
「なるほど、私の読みは間違っていなかったというわけだ」
独り言をつぶやき、備品室の戸を閉める。外へ出ると、訓練場の整備を終えたアルベールから声をかけられた。
「ヴィンセント教官、整備が終わりました」
「ああ、ご苦労様。では始末書は明日の朝までに書き終えてくださいね! やらないと、お仕置きですよぉ!?」
「「……はい」」
3人は食堂へと向かう。ヴィンセントの顔には笑みが浮かび、イリアとアルベールはそれを見て気味が悪そうな顔をしていた。
(──これは面白いことになってきました。神は私に微笑んでいるようだ)




