Chapter 1-2 「適性試験」
「やぁやぁやぁ、勇者の卵たち! 今日は適性試験を受けてもらうよっ!」
午前中の死刑宣告を受けて、お通夜みたいな雰囲気だった俺たちは演習場へと重い足取りで向かった。それに反して、やけに明るい雰囲気、白い長髪を後ろで束ねた男が屈託のない笑顔で俺たちを迎えた。そう、こいつが俺をスカウトした変人、ヴィンセント・ウェンブリーだ。
どうやらコイツも教官の1人で、この適性試験の試験官をやるらしい。勇者見習いたちは今日からこのヴァルハラ勇者寄宿学校で暮らし、訓練を行う。演習場からは山の向こうに……俺たちの決戦の地、世界樹が見える。ここからでもわかるほど異質で巨大な樹を眺め、来たる日のことを思いながら鍛錬をすることになる。
「あっれぇ、何だか元気がないね? ゼロとバーンリーから脅されたのかな?」
「そ、そりゃあ……あんな話を聞いて……元気なんか出ませんよ」
まぁ、普通はそういう反応になる。 今からお前たちは世界のために死ぬ、そのために1年間鍛錬をしろ、と言われて納得できる奴なんかこの世にいないだろ。いるとしたら正義感に駆られたバカか、そもそも壊れた人間だけだ。まぁ、俺は後者だな。
「あっはっは、それもそうか! ……でもね、それは君たちが未来を諦める理由にはならない。上官が死ねと言ったら、君たちは死ぬのかい?」
「……い、いえ」
「だろう? だから僕たち教官は、少しでも君たちが……そして世界が、正しい未来を掴み取れるように、全力を尽くすのさ。この適性試験はそのための一歩だ。君たちに力があれば生き残れるし、そうじゃないなら正しい指導法で、生き残れるように導くのが僕のお仕事。単純で、やりがいがあるだろ?」
「──そうだ、俺たちは勇者だ! 生き残るために、勝つために戦うんだ!」
……そんな声が演習場に響き、勇者見習いたちは活力を取り戻した。へぇ、なかなかやるなこの変人……飴と鞭で言えば、飴役ってところか。俺はこいつを胡散臭い変人としか思っていなかったが、仮にも俺を勇者に推薦してくれた恩人でもあるし、感謝はしてる。
「では、適性試験を始める! まずは魔法適性だね。これは予め実技試験である程度把握しているから、パパッと済ませてしまおう」
──魔法とは、このミドガルズに溢れるマナを活用して起こす超常現象のこと。地水火風光闇の6属性に分類され、使用者の魔力と適性に応じて使える種類と威力が変わってくる。魔法適性を調べるには、この魔力壺に手をかざして、中に入っている水の反応を見れば適性がわかる。 たとえば、火属性なら水は沸騰するし、地属性であれば泥水に変わるといった具合だ。
「セリーヌくんから適性試験を始めようか」
「はいっ!」
あの貴族の女、セリーヌが魔力壺に手をかざす。すると、次第に中の水はぐるぐると回転し始め、壺の外へ溢れ出した!?
「……うん、さすがアドミラル家のご息女だ。水魔法の適性が高いのは有名だし、これほどの魔力はなかなか見ないね」
「はぁ……はぁ……こ、このくらい当然ですわ」
これが勇者見習い、とんでもない才能だ。ここまで魔力壺の水が動くだなんて、初めて見た。さすがは勇者を目指す奴ら、ってとこか。
──その後もほとんどの勇者見習いが何かの魔法適性を持ち、ヴィンセントは満足げにメモを取っている。
「では、最後はフェイくん」
「……おう」
俺は目を閉じ、魔力壺に全てのマナを注ぎ込む! 魔力壺の中の水は……何も変化がない。シーンッ、と静かに魔力を待っているようだ。
「ぶっ……はははは! 君、魔法適性ないんだっけ!?」
「……うるせぇ、笑うなクソ教官」
──周りがざわざわと騒ぎ始める。やれ魔法適性が無い落ちこぼれだ、あれだけ調子に乗った発言をゼロ隊長へぶつけたくせに能力が無いだ、散々な言いようだ。まぁ、そりゃあ俺には魔法適性がない。仕方ねぇだろ、ここへ来るまでは魔法なんて見たこともなかったし、習ったこともねぇんだよ!
しかも、魔法適性は幼いころに血筋と本人の鍛錬によって決まるという話を聞いたのは、俺が16になったときだ。時すでに遅し、俺は魔法を一切使えない無適性として生きていかなきゃいけない。当時は絶望したが、別に魔法なんか使えなくたって生きていけるし……天使だって殺せる。
「あはははは! いや、これは失礼、魔法適性が低い勇者見習いは過去にも見たことがあるけど、適性がまったく無いというのは君が初めてだよフェイくん! いやー、前代未聞だ……これは歴史が動いた!」
「歴史が動いたってのは、普通いい意味で使われるだろうが……」
「そうかい? いやー、もしかしたら僕は推薦する人間を間違えたかも?」
「こ、この魔法適性が無い方は推薦枠なんですの!?」
「うん、私が彼を推薦した。だって、面白そうだったからね!」
ニコニコと嘘くさい笑みを浮かべるこいつを、このままぶん殴ってやろうかと思ったが、ただでさえ注目を浴びてる現状でこれ以上騒ぎを起こすのはさすがにまずいか。推薦枠っていうのは、教官が優秀な人材を寄宿学校へ入学させるための権利で、このヴィンセントとゼロが推薦枠を保持しているらしい。その貴重な1枠が、魔法も使えない落ちこぼれの俺だったってわけだ。
「さて、続きは模擬戦のデータを取るよ! 木製の武器を使い、魔法禁止の1対1形式で行う。君たち勇者見習いは、まだ聖剣を持っていないからね。この模擬戦の結果は聖剣の形を決めるためのデータになり、鍛冶師へ渡して君たち専用の聖剣をオーダーメイドで作ってもらうから、なるべく希望するイメージの武器を使ってくれ!」
そう言うと、ヴィンセントが指さした先には、木製の武器がずらりと並んでいる。 剣、大剣……槍や弓、杖など形状は様々だ。 俺はその中からいつも使っている獲物の短剣を手に取り、感触を確かめていると……。
「ねぇ、貴方。私と模擬戦やらない!?」
「フェイくん、だったよね。私と1戦いかがかな?」
──勇者見習いたちが俺の周りに群がってきた。人生で初めて、こんなに多くの人間から話しかけられたな……。くぅぅ、大人気で嬉しいねぇ!
まぁ、こいつらの魂胆は透けて見えてる。魔法適性が無い、弱そうな序列最下位の落ちこぼれを模擬戦で倒し、自分の序列や階級を上げるための点数稼ぎにでもするつもりだろ。
「……どうせ負けるなら、一番強ぇやつがいいな」
「あら、わたくしのことでしょうか……」
金髪の優等生が胸に手を当てながら出しゃばってくる。悪ぃが、魔法禁止の戦闘で魔法使いに負ける気はしないんで、お前は却下。
「……お前じゃない巻き髪女、そこの金髪眼鏡に言ってんだ」
「なっ!? 貴方も変な呼び名をお使いになられるなんて、屈辱ですわ! これでもわたくしは序列第四位、セリーヌ・フェル・アドミラルという名があって……」
「……いいよ、相手をしよう」
金髪眼鏡の手には、片手剣と盾が握られている。オーソドックスで古典的な騎士のスタイルか。こいつの話はヴィンセントから事前に聞いていた。ゼロ隊長が推薦したこの男、アルベール・フォン・オーデンセは……ミズガルズ最大国家であるオーデンセ王国の第六王子で、超一流の天才剣士だと。体格は少し華奢に見えるが、近づいてみればわかる。
これは……なかなかの威圧感だ。身長は俺より高く、180cmはあるだろう。勇者見習いの制服である水色のシャツはぴっちりと彼の身体に張り付いていて、所々筋肉で盛り上がってる。この体格を見ただけで、こいつは才能に溺れるタイプではなく、努力家でもあるということが伺える。
「へぇ、俺とやってくれんのか? 序列一位のエリート貴族様が」
「……模擬戦に身分など関係ないだろう。僕は誰が相手でも構わないが……」
──木剣を抜き、俺に向ける。その所作は美しく精錬されており、無駄な動きは一切無かった。
「……口だけで実力が伴わない人間のことが嫌いでね。少しばかり、やりすぎてしまうかもしれない」
「おもしれぇじゃん、お前。エリート様の実力、見せてくれよな!」
──勇者見習いたちが見守る中、俺はアルベールと模擬戦をすることになった。




