Chapter 4-10 「死にたがりの落ちこぼれ」
「聖剣技、灼熱拳ッ!」
「聖剣技……狂戦士」
ガイルの高速パンチは特質型をとらえ、一瞬ぐらついた!? その隙に斧で斬りかかり、ドゴンの一撃は特質型の脚部を削りとった!
「……フェイ、良く聞いてください。模擬戦の時、僕が木刀で聖剣技を発動したことを覚えていますか?」
「あ、ああ。それがどうしたっていうんだ?」
「オーデンセ王国の内乱で、僕は暗殺されかけた」
そういうとアルベールはおもむろにシャツを脱ぎだし、左胸に大きな刺し傷の痕が見える。以前も見せてもらったが、これが何だって言うんだ?
「ここに、聖剣の破片が埋まっています。これを取り出して、貴方に渡す」
「と、取り出すっ……!?」
「貴方のレーヴァテインで、抉り取ってください! 早くっ!」
そうか、聖剣技は聖剣を持っていないと発動できない。あの模擬戦の時は、まだ俺たちは勇者見習いで聖剣を持っていなかったはずだ。アルベールは覚悟が決まっているようだ……。レーヴァテインの切っ先を胸に当て、少しずつ押し込んでいく!
「ぐっ……ああああ!」
「だ、大丈夫かアルベール!?」
「気にしないでくださいっ! こんな、こんな痛み……貴方の苦しみに比べたら……大したことはないっ!」
俺は頷き、アルベールの臓器を傷つけないように、ゆっくりとレーヴァテインを押し込んでいく。……見えた、白い石の塊が! 抉り出すと、短剣ほどの大きさの聖剣が地面に落ちる。その瞬間、アルベールは左胸から大量に出血し、倒れた!
「アルベールの治癒を頼む!」
「はいっ! 其方を癒す光となれっ、初級治癒魔法ッ!」
アルベールが苦悶の表情を浮かべながら耐えている。治癒を受け、何とかおぼつかない足で立ち上がり、アルベールと共に短剣を握る。すると、頭の中にスキルが浮かんでくる!
「貴方は……魔法の適性がない。僕が聖剣技の発動を援護します!」
「……なるほど、そういうことか。理解したぜアルベール、この聖剣は俺に最適ってわけだ!」
「ええ……がはっ……共に……あの特質型を止めます!」
「おう!」
ドゴンとガイルはかなりのダメージを食らっているようで、全身から出血をしている。だが、俺のこのスキルを当てるためにはあいつら2人に特質型の注意を引いてもらうしかねぇ。
「ドゴン、ガイルッ! ちょっとだけ時間を稼いでくれ!」
「……任された」
「やってやらあああぁ!!」
──短剣を手に持ち、スキルを頭の中でイメージする。刃の部分が光を帯び、段々と太く、そして長く伸びていく!
「ぐっ……おお! こいつはなかなかご機嫌な剣じゃねぇか!」
「くっ……魔力がっ、持っていかれる!?」
両手が悲鳴を上げる。ただ重いだけじゃねぇ……俺の神秘との相乗効果で、とんでもない力を放っているからか、今にも暴れ出しそうなほど振動している!?
特質型が振り払った斧による攻撃を、ガイルとドゴンがまともに受けた!? ガイルは雪原に倒れ、ドゴンは……まだ耐えている! あの特質型の攻撃を受けてもなお、倒れちゃいない!
「フェイッ……!」
──ああ、これで……全部消し飛ばしてやる。
「聖剣技……復讐者ァァッ!」
俺とアルベールは巨大な大剣を振り下ろし、特質型の肩に大剣がめり込んでいく。この聖剣技は受けたダメージに応じて力が増幅され、強烈な威力の攻撃を相手に与えるスキル。この戦いで何度も死に、致死量のダメージを受けた俺が使えば、一撃必殺のスキルになる!
「ギィィヤアアアァ!?」
──特質型の悲鳴がこだまする。そのまま断ち切るように、全てを込めて大剣に乗せる!
「ぐっおおぉぉ! くたばれぇぇええぇ!」
──白き大剣は特質型を切り裂き、奴の左腕を斬り落とした! 傷口から白い血が溢れ出し、雪原に滴り落ちる。アルベールから受け取った聖剣はスキルの威力に耐え切れず、音を立てながら砕け散った。
スキルの発動を援護して、魔力を使い切ったからか、アルベールは雪原に倒れた。
「グゥゥゥ……グゥゥゥ……」
こいつ、まだ死んじゃいねぇ!? だが、かなりのダメージは与えたはずだ。俺はレーヴァテインを手に取り、間合いを詰める!
「し、しぶてぇんだよお前はっ!」
レーヴァテインを特質型の腹部に突き刺し、そのまま切り裂こうとしたが、手に力が入らねぇ! クソッ、力を使いすぎたってのか!?
「がっはっ……」
引きはがすように、こいつは俺の左腕を掴む。握力が強く、骨の軋む音が響く! だが、絶対に、絶対に離さねぇ!
「……聖剣技……勝利と栄光の剣ッ!!」
レーヴァテインの白き炎は内側から特質型を燃やし、腹部に突き刺さった刃がゆっくりと動き始める! 胴体を切り裂くように、力を込める!
「フェイッ!」「フェイさんっ!」
──アルベールとシャルの声が聞こえる。ああ、俺はもう1人じゃない。
「あんただって……大切な人を殺したくはねぇだろ! それが、どんなに辛いことなのか俺は知ってる!」
──そうだ。ここでこいつを止めないとならねぇ。俺と同じ悲しみを背負わせるわけにはいかねぇ。
「だからっ……届けよ、あんたの魂までっ! うおおおぉぉぉ!!」
──レーヴァテインが抜けていく感覚と共に、特質型は胴体を切り離され、そのまま後ろに倒れた! 雪煙が舞い、光の粒子が天に昇る。俺も全ての力を使い果たしたのか、倒れ込もうとした瞬間──。
「ぐっ……フェイさんっ! 大丈夫ですか!?」
シャルに抱きかかえられ、膝に頭を乗せて寝そべる。特質型の天使は、少しずつ身体を溶かしながら……消えかかっていた。
「ア……リガ…………」
何て言ったかは聞き取れなかったが、多分感謝されたんだと思う。だって、あいつは……笑ったように見えたから。赤い月は姿を消し、太陽が昇る。朝焼けが俺たちを祝福するように、澄み渡った空で光を放っていた。
「……第38勇者隊の勝利だっ!!」
「──オォォォォッ!」
勝った……俺たちが終末戦争に。レーヴァテインを限界まで握っていたからか、焼け爛れた俺の両手を見ても、実感が湧かなかった。
「ぐっ!?」
「おい、フェイッ! てめぇ、俺たちに言うことがあんじゃねぇのか、ああん!?」
顔を大きく腫らし、青い痣が出来ているガイルに肩を殴られ、気がつくと俺は第38勇者隊の勇者たちに取り囲まれていた。
「わ……悪かっ」
その言葉を遮るように、俺を抱きかかえるシャルが優しい声で微笑みながら、子供を諭すような声で話す。
「こういう時は謝るんじゃなくて、感謝を伝えるんですよっ」
「……ああ、そうだな。ありがとな、皆! 俺1人じゃ……勝てなかった。皆のおかげだ」
イリアが赤い宝石が先端についた両手杖を空へ掲げて、満足気な顔で笑う。かなり激しい戦いだったからか、いつもの銀色の髪は血で染まり、乱れていた。
「フェイのさ、悩みなんかボクにはわからないけど……でも、大事な友達だと思ってるよ! 友達が悲しい顔するの、ボクいやだもん!」
「イリア……」
第38勇者隊の面々も、イリアの言葉に頷く。スコットがその場にしゃがみこみ、喋り始める。
「フェイさんのシナリオをちょこっと改変してみました。あのままだと、ハッピーエンドにならなそうだったので」
「スコット……」
アルベールが眉間にしわを寄せながら、厳しい言葉を投げる。
「まったく、貴方は本当にバカなんですねフェイ。貴方が死んだら、残された僕たちはどうなるんです?」
「アルベール……」
「誰かと関わったなら、人はもう自分の生死を1人じゃ決められない。だからこそ、力を合わせて戦うんです。それが、人間でしょう?」
「……そうだな。お前の言う通りだ……どわっ!?」
俺に覆いかぶさるようにシャルが馬乗りになる。そのまま何度も俺の胸を叩きながら、彼女の目から……涙が零れた。
「そうですっ……バカッ……バカですっ!」
「シャ、シャル……」
「貴方に守られたって……貴方が居なければっ……意味がないじゃないですかっ……うう……ぐすっ……」
何も言えず、俺はただシャルの頭を撫でて、黙って聞くことしかできなかった。1人で全て背負って、こいつらを信頼せずに、逃げようとしてた。……セリーヌの言う通りだ。俺は1人じゃなかった。ここには、俺のために命を賭けてくれる仲間がいる。俺のために怒ってくれる奴がいる。俺のために……泣いてくれるシャルがいる。
「……くそっ」
涙が止まらなかった。ずっと1人で抱え込んできたそのツケが回ってきたみたいだ。右腕で顔を隠しながら、肩を揺らす。皆はそんな俺を見て、何を言うでもなく黙って見守ってくれていた。
──途端、地面が揺れ、音を立てながら天界へのゲートが閉まり始める。
「フェイさんっ……」
心配そうな顔でシャルが俺を見る。ぐしゃぐしゃになった自分の顔のまま、閉じかけたゲートを見ながら俺は言う。
「……死にたがりだったフェイ・シュトラールは、今日ここで……死んだよ」
悪いな、ミカエル。俺はまだ死ねないみたいだ。お前の願いは、当分叶えてやれそうにない。
(ええ。それが貴方の望む未来なら、私は見届けることにします)
優しい声色で、ミカエルの声が頭の中で聞こえる。イリアとシャルが俺の腕を引きながら、屈託のない笑顔で出迎えてくれた。
「……おかえり、フェイッ!」「おかえりなさい、フェイさんっ!」
ゲートが閉じて、光となって消えていく──。ああ、後悔なんて一切ない。
「ただいまっ!」
自分でもわかるくらい、晴れやかな笑顔で、俺は明日を迎えたんだ──。




