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Chapter 4-8 「独り」

 ──こいつが走る度に地面が揺れる、それくらいの衝撃。俺はレーヴァテインを構えて、様子を見る。この巨体じゃ、あまり速い動きはできねぇだろ!


「ガアアアアァ!」


 両手斧を振り下ろし、俺は横っ飛びで避ける。うへぇ……地面がひび割れて、白い結晶が舞う。どんな馬鹿力だ、このバケモンは!


「ぐっ、おぉぉ!?」


 突き刺さった両手斧をそのまま怪力で横に振り、レーヴァテインで受けると、衝撃で俺の身体が吹っ飛んだ!? なんて重さだ……手が痺れるとかいうレベルじゃねぇ。くそっ、肩が外れてやがる。こいつの攻撃をレーヴァテインで受け流すのは不可能だ。初撃を避けても、追撃がとんでもなく速い。これが特質型か!

 左手がだらんと脱力している。だが、こいつは待ってはくれねぇ! 集中しろ、見切れ……こいつの攻撃を。探し出せ、こいつの弱点を!


「ゴオォォォ!!」


 凄まじい咆哮で空気が振動する!? 全身の細胞が俺に逃げろと警鐘を鳴らす。両手斧が光り出した……そうか、特質型は元勇者。聖剣技が使えるってのか!?

 

「……は?」


 何が……起こった。眩い光と共に振られた斧の攻撃は、一切視認できなかった。世界が回る……ああ、あれは俺の身体だ。大量に血を噴き出しながら、身体が地面に倒れた。そうか、一瞬で首を飛ばされたのか。終末戦争で防具を着用しない理由をヴィンセントに聞いたことがあった。あいつが「攻撃が苛烈な天使を相手取るには、むしろ防具は邪魔になる」と語っていたことを思い出す。今、ようやく理解した。攻撃を食らえば即死する。それなら防御は捨てて、回避に徹したほうがまだ勝機はある。

 アーヴァインやシグルーンたち第37勇者隊はこんなバケモンと引き分けたってのか。はは、すげぇな本物の勇者は。そんなことを考えながら──俺は3度目の死を迎えた。


 † † † † † † † † † † † † † † † † † †


 ──俺は、また死んだのか。クソッ……アーヴァインの話じゃ、特質型は夜明けには飛び去って行き、人間時代にゆかりのあった土地や人々を白く染める。早くあいつを倒さねぇと、また犠牲が増える。俺みたいな悲しい奴を生むのは、もうたくさんなんだよ。自分の大切な人を失う悲しみはもう2度としたくない。だからこそ、俺は特質型を殺し、ゲートの向こうに行く。


「なぁ、本当にお前のところまで行ければ、俺は死ねるんだよな?」

「ええ。それがあなたの望みであれば、力を取り上げることはできます」


 俺の望み……。俺の望みってなんだ? 死ぬことか? いいや、違う。永遠の命を得た俺は、この先ずっと、何十年も何百年も、大切な奴らを失い続ける。どんなに長く一緒に居られたって、人はいつか死ぬ。俺だけがこの世界に取り残される。そんな惨い話、受け入れられるわけねぇだろ。


 そうだ、俺は……今も昔も、ずっと寂しかっただけなんだ。それに耐えられるほど、強くないんだ。こんな力を得ても、持て余すだけ。勇者になんか……なるべきじゃなかった。


「──生きて」

「……セ、セリーヌッ!?」


 あの時と同じ、どこか高貴で……儚く消え入るような声が聞こえた。


「俺が生きてたって、周りの奴らは死んでいく。最後には1人……そう、1人なんだよ! それでも俺に生きろと言うのは……酷な話だ」

「……でも、貴方は1人じゃない」

「俺が……1人じゃない?」


 セリーヌの幻影は優しく俺を包み込み、耳元で言葉をかける。


「──だから、生きて。わたくしの、勇者」


 † † † † † † † † † † † † † † † † †


 ──目を開けると、信じられない光景が目の前に広がっていた。至る所から鉄音が響き、雪原で戦士たちの雄たけびがこだまする。


「──フェイさんっ! 大丈夫ですか!?」

「……は!? シャル、なんでここに……」


 ──第38勇者隊が、天使と戦っていた。意味がわからねぇ、馬は使えなかったはず。いったいどうやって!?

 

「お前ら、なんで来やがった!? 俺1人で戦うって……」


 スコットが俺に近づき、にやりと笑う。


「申し訳ないですが、全て話させていただきました。フェイさんが1人で死のうとしていること、力のこと。そして……」

「ぐっ!?」


 スコットから思いっきり平手打ちを食らい、思考が止まる。俺は襟を掴まれ、身体を起こされた。


「あの時の言葉、返しますよ。運命を受け入れるってのは、諦めてるのと同義なんだよ! なぁ、フェイさん! これが、これが本当にあなたの望む未来だったんですか!?」

「ス、スコット……」

「全てを諦めたような顔して……悲劇のヒロインぶってるのは……あなたじゃないですか。さぁ、立って! まずはこいつらを退けます!」


 ……何も言い返せなかった。ああ、そうだな。あの時スコットに言った言葉は、自分を戒めるためだったのかもな。まるで自分を見ているようで、苛立ったのかもしれねぇ。


「……クソッ! 俺のシナリオに、イレギュラーが起こったってわけか!」


 こうなったら、やるしかねぇ。……いい平手打ちだった。即座に頭が切り替わり、周囲を見渡す。勇者隊が、押している!? 天使どもが次々と倒され、光の粒子が空へ昇る。


「さぁボクの魔法でお掃除だっ! 中級火魔法《フレア》ッ!」


 イリアが放った巨大な火の球は歩行型を襲い、一瞬で丸焦げにした!? 歩行型は黒い煙を放ちながら、その場で動かなくなった。


「イ、イリアッ!」

「フェイーッ! 良かった、生きてたぁ!」

「……いい魔法だ! 良くやった、天才魔法使い!」

「えへへ、フェイからアドバイスもらって、この日のためにずっと練習してたからねっ! どんどん行くよーっ!」


 そうか、俺の知らないところでこいつらはずっと努力をしてたんだ。終末戦争のために、文字通り命を賭けて。以前のイリアでは魔法の発動が遅く、天使相手には当たりそうになかった。そのことを伝えたからか、速度が段違いに速くなってやがる!


「──フェイさんっ! アルベールさんの援護をっ!」


 シャルから言われ、戦場の中からアルベールを探す。あれは……そうか、あいつが1人で特質型と戦ってやがる! あいつの背中が、以前より大きくなっていることに今まで気づかなかった。スキルを使って分身を駆使しながら、特質型の攻撃を捌いてやがる。だが、このままじゃ時間の問題だ。俺は全速力で雪原を駆け、援護に入る!


「ギギギィィ!」


 飛行型の目が光り、あの光線を準備している。だが、光線は放たれることなく、飛行型は矢によって射抜かれた!


「フェイさん、援護しますっ! 行ってっ!」

「ナイスだ、スコットッ!」


 ──特質型が両手斧を振り上げて、アルベールに向かって下ろす。俺はその間に割って入り、レーヴァテインを両手で抑えながら受け切る!


「フェイッ!」

「ぐっ……追撃が……来るっ! 下がれっ!」


 俺とアルベールは数歩下がり、特質型の追撃を警戒する。くそっ、全身が悲鳴を上げてやがる。この怪力相手に攻撃を受けるってのは、リスクしかねぇな。


「こいつは正真正銘のバケモンだ、気をつけろアルベール!」

「……ええ。貴方への説教は後にするとして」


 アルベールが聖剣を抜き、構える。


「──まずはこいつを殺す。フェイ、僕に考えがある。手を貸してくれ!」

「考え? このバケモンをどうにかできるっていうのか!?」

「ああ、だが君と……他の勇者の協力が必要だ」


 ──俺たちの前に、大柄な戦士が2人立つ。ドゴンとガイルが武器を掲げ、叫びながら特質型へ向かっていった!?


「シャルロッテッ! 僕に治癒魔法の準備をっ!」

「はいっ!」


 アルベールが用意した秘策のため、俺たちは力を合わせて……最強の異形へ挑む。

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