Chapter 4-7 「理由」
「……クソッ、しぶてぇなこいつら」
俺の聖剣技を食らっても、数体の歩行型を仕留めただけで、次々と新しい天使が飛び込んできやがる。
「ッガアアアァ!?」
──飛行型の光線をもろに受けて、足が焼き切れた! これじゃあ、もう戦えねぇ……。残飯に群がる鼠のように、天使たちが俺の身体を食い尽くしていく。走馬灯のように過去の映像が頭に浮かび……2度目の死を迎えた。
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ああ、これは……ヘスラック村で過ごした想い出だ。まるで神のように空を飛び、見下ろした地面には幼い頃の俺が立っていた。
無我夢中で天使を殺し、リリィを看取った俺は、絶望のまま白化したヘスラック村に1人、取り残されたんだ。
「……母さん、リリィ」
2人を家の庭に埋葬して、その墓の前で呆然と立ち尽くす。冷たく動かなくなった2人を運びながら、何度も吐いたせいか、喉が腫れている気がする。
「おい、ミカエル。この力は不死の力だって言ったな? つまり、俺は永遠に生き続けるってことか?」
「節制の力を得た今、あなたが死を迎えることは永遠にありません」
この力には、感謝している。神秘がなければ、俺は母さんとリリィの仇を取ることすらできず、確実に死んでいただろう。だが、急に永遠の命を手に入れたと聞いて、喜びの感情はなかった。母さんもリリィもいなくなり、1人でこの先ずっと生きていくことを想像して、身体が震えだした。
「この力を得た代償に、お前の頼みを聞いてくれって話だったな?」
「はい。私は遠い異界である、天界に幽閉されております。終末戦争と呼ばれる天使たちの侵攻、その際に現れるゲートを通り、天界へ至る。そして、幽閉された私を探し出し、封印を解いてもらう。これが私の望む願いです」
この時は何を話しているか全く理解はできなかったが、またあの天使を殺せる機会がくるならちょうどいいと思った。何の生きる希望も原動力も無かった俺は、天使を殺すためならとミカエルの提案を飲んで、この日から想像を絶する鍛錬の日々が始まったんだ。
「──ぎゃあああああ!?」
巨大なサソリのような魔物の尾に身体を貫かれ、そのまま絶命した。しばらく経った後、白い光が俺を包んでいき、傷口は全て再生していた。胸を抉られ、心臓の鼓動が次第に弱くなっていき、毒が全身に巡って身体が震えだすあの感覚を思い出すと、こみ上げてくるものがあった。
そうして何度も、何度も、何度も何度も俺は死んだ。どれくらい死んだか、30回くらいからもう数える気にならなかった。痛みに震えて、精神をすり減らし、それでも天使への憎しみだけでまた立ち上がる。
だが、魔物や野生動物との戦いは俺に経験をもたらしていった。同じ種類の敵であれば少しずつ戦い方がわかってきて、勝てるようになった。しかも、神の力を得た人間の身体というのは便利なもので、一度毒を受けてから死ぬとその毒に対する耐性ができることに気づいたんだ。手あたり次第の毒草を口にして、吐き出して死んだり、毒を使う魔物にわざと殺されてみたり……今思うと、正気の沙汰じゃねぇなこれ。
痛みに関しても、最初は恐怖を感じていたが、次第に感覚が麻痺していって、慣れてきた。自分の身体から血が噴き出しても、何も感じない。そりゃあ、あれだけ死にまくったら正常で居られる人間なんていないだろう。痛みを感じにくいというのはメリットでもある。自分の身体を犠牲にすることへ躊躇がなくなり、俺は強くなった。
そんな地獄みたいな日々を何年も過ごしていた俺に、1人の人間が訪ねてきた。ヘスラック村が白化して、初めて会う人間だった。白い長髪を結った男、そう、ヴィンセント・ウェンブリーだ。
「生き残りが、こんなところに!? 君、名前は?」
「ヘスラック村、最後の生き残り……フェイ・シュトラール。誰だ、お前?」
「申し遅れました。私、ヴァルハラ勇者寄宿学校の教官を務めております、ヴィンセント・ウェンブリーと申します」
──それから事情を話し、ヴィンセントは俺に1つの提案をする。
「君の気持ちは理解した。天使を憎む気持ちもわかる。それなら、勇者になってみないかい?」
「勇者って……なんだ?」
「世界を守り、天使に対抗するための英雄です」
そう言い残し、翌日、ヴィンセントは大量の書物を抱えてヘスラック村にまたやってきた。実力を見てみたいと言われ、鍛錬にも付き合ってもらい、少しの間この得体のしれない男との共同生活が始まった。
「じゃ、フェイくん。成人したらヴァルハラまでおいで。適当に地図書いといたから、渡しておくので!」
どうやらヴィンセントに認められたようで、古びた羊皮紙に書かれたおおざっぱな地図を貰う。
「……世界を守るだとか、英雄だとかに興味はねぇ。俺は天使さえぶっ殺せるならそれでいい」
「なら、なおさら勇者を目指すといい。天使に抗うための手段……聖剣と呼ばれる特殊な武器の鍛造を、開発しているところです。あなたが成人するころには、技術が確立されているでしょう」
「聖剣……それがあれば、天使をもっと殺せるのか」
「ええ。あ、そうそう。戦闘に関してはそこそこやれるのはわかっていますが、君はあまりにも無知です。つまり、バカすぎる」
「は、はぁ!? 誰がバカだって、このクソ教官!」
「ははは! ヴァルハラに来るまでに、その書物を完璧に頭へ入れておいてくださいね。でないと、勇者への推薦は取り消します。じゃ、まったねー!」
軽々しい挨拶と共に、ヴィンセントは消えていった。それから俺は面倒くさがりながらも、陽があるうちは鍛錬を行い、夜は家で書物を読むようになった。勉強は苦痛だったが、勇者を目指すなら知識が必要だっていうならやるしかない。そう思いながら、必死に勉強した。
今思うと、全ての本に意味があったんだ。魔法書や剣術書はヴァルハラ勇者寄宿学校で学ぶことの基礎になっていたし、戦術書は他人と力を合わせて戦った経験がない俺には必要だった。それに、光の勇者の絵本。勉強が嫌いな俺でも、絵本なら楽しんで読むことができた。あいつはもしかすると、俺が光の一族だって知ってたのかもしれねぇな。
ヴィンセントは、消えかかってた俺の心に火を灯してくれた。天使への復讐という、歪な原動力だったとしても、心を壊さずに生きていくにはそれしかなかったんだ。そんな俺に、勇者を目指すという生きる目標を与えてくれた。まぁ、あいつの事は好きになれねぇが……本当に感謝してる。
「──フェイ。そろそろ肉体が再生します」
頭の中でミカエルの声が響き、俺は現実世界へ呼び戻された──。
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立ち上がり、感触を確かめてみる。よし、全部ちゃんと動く。まだ、戦える。
「──ふぅぅ。俺はしぶてぇぞ、クソ天使ども」
レーヴァテインを上段で構えて、白い異形を睨みつける。すると、天使どもの群れをかき分けて、奴がゆっくりと歩いてきた。
「ギイィィィガアアアッ!」
雄たけびを上げながら、特質型が巨大な斧を俺に向ける。でけぇな……俺の倍くらいはあるか。人型ではあるが、脚部と腕部が異常に盛り上がっていて、ぼこぼこと何かが白い体表の下で蠢いているようだった。
「気色悪ぃ奴だな、お前。大将が直々に相手してくれるってのか?」
特質型は両手斧を携えて、全速力で走ってきた!




