Chapter 4-6 「ただ死ぬために」
「本当に1人で行くんですね、フェイさん」
「ああ。悪いな、お前にも付き合わせちまって」
馬にまたがり、スコットの頭を撫でると、嫌がって後ろへ下がった。
「まあ、ぼくも共犯者として牢獄行きは間違いないでしょうね。しばらくは、檻の中からあなたの成功を祈ることにします」
「そりゃあ悪かったな。まぁでも、これでお前も終末戦争に行かなくて済む。ヘイムダル家の目的、禁書庫を守る仕事も続けられる」
「……そうですね。ただ、1つだけ忘れないでください」
スコットが俺に向かって敬礼をして、笑う。
「ぼくはオーデンセ王国からの依頼で、あなたを監視する役目でした。ただ為政者に従い、その是非を問うことすらしなかった。そんなぼくを変えてくれたのは、あなただということを……どうか、忘れないでください」
「スコット……。ああ!」
俺はスコットに見送られ、馬を走らせる。荷台部分を外したからか、速度は出るものの、寒さで手がかじかんでいく。レーヴァテインを抜き、前方へ振ると、持ち手に熱を感じて、白い炎が雪を解かしていく。最悪、馬を置いていくことも考えたが、レーヴァテインの炎は馬も怖がらないらしい。
「……いい子だ」
馬の首筋を撫でてやると、少し嬉しそうに鳴いた。俺は雪景色の平原を駆けて、真っすぐに世界樹を目指す。このペースで進めれば、夜までには着けるだろう。
第38勇者隊は……どうしているだろうか。この雪じゃ、前へ進むのは難しいはず。一度ヴァルハラ勇者寄宿学校へ戻って、馬を手配してから追ってくると予想する。そのころには……俺は死んでいる。だけど、タダで死ぬつもりはねぇ。俺が失敗すれば、特質型は徘徊天使になり、大地を白化させて人を殺す化け物が解き放たれることになる。
ここまで大がかりな舞台を用意したんだ。失敗は許されねぇぞ、フェイ。あいつらのためにも、俺は終末戦争で勝つ。そしてゲートを通り、天界へ至る。
──しばらく馬を走らせると、白化した大地が姿を現した。地面から突き出すように隆起された白い岩が無数に立ち並び、不気味に光る。その岩からは熱が発せられているのか、雪は積もっていないようだ。これなら速く進むことができる。
起伏がある岩山は馬では進めそうになかった。俺はもう一度撫でて、こいつを逃がしてやることにする。俺に別れの挨拶をしたのか、もう一度鳴いて馬は来た道を走り去って行った。陽が落ちかかっていて、もうすぐ夜になる。月が昇り、皆既月食になるとゲートが現れる。それまでに、何とか世界樹まで辿りつかねぇと。
岩山を歩き、かなり疲弊しているが、そんなことは関係ねぇ。第38勇者隊の仲間たちを思い出して、心に火を灯す。一歩ずつ、前へ。俺が望んでいた未来のために、前へ進む。
「はぁ……はぁ。あれが……世界樹」
登りきった岩山の向こうは平地になっていた。巨大な世界樹の根がはっきりと見える。太い大樹の幹が複雑に重なり合い、この地に根付いている。もうすぐ、もうすぐだ。目と鼻の先に、目的地がある。
「よっ……しゃああ! クソが、間に合った……」
「とうとう、この日が来ましたね、フェイ」
世界樹の麓にたどり着いたからか、ミカエルの声がはっきりと聞こえる。まるで目の前にいるかのようだ。
「ああ、やっとだ。やっと天使どもをぶっ殺せる」
周囲を見渡すと、折れた武器の柄や千切れた布などが散らばり、残っていた。ここは、歴代の勇者たちの墓場。世界を救うという大義のために、命を散らした場所。敬意を表して、英霊たちに敬礼をする。任せろ、あんたたちの分まで、俺が背負ってやる。
──しばらく思いを馳せていると、突如、悪寒がして空を見上げる。暗い夜を照らす月が、次第に黒く欠け始め、赤く不気味な光を発していた。
「……来ます、フェイ」
「ああ、どうやらお出迎えのようだ」
地面が揺れ、複雑な紋様が浮かぶ、巨大な門が地面から生えてきた。ゆっくりと扉が開き、白い光が漏れる。眩さから目を細めるが、視線はしっかりと捉えていた。
──天使。俺たちの世界を蝕む、人類の敵。その白き異形が門から出現し、這い出てきた。かなりの数の歩行型がいやがる……飛行型も空を飛びながら、こちらに気づいたようだ。
「……あれが親玉か?」
ひと際大きな白い人型が最後尾にいる。手には斧を担ぎ、それを掲げると一斉に天使どもが叫び出す!
──ギィィィィッ!! 金切り声のような爆音に思わず両手で耳を塞ぐ。
「ったく、デケェんだよ声が。そっちから先に挨拶してくれるとは、礼儀正しいじゃねぇか」
レーヴァテインを抜き、俺も挨拶を返す。
「俺はフェイ・シュトラールッ! ヘスラック村最後の生き残り、そして……」
聖剣を両手で持ち、天使どもに向けて吐き捨てる。
「光の一族、シュトラールの子だっ!! かかってこいクソ天使ども。一匹残らず地獄に連れて行ってやるぜ!」
──まずは歩行型が俺に向かって一斉に走ってくる。口を開け閉めしながら、凄まじい速度で向かってくる!
「──とっておきを見せてやる。神の力、神秘。22柱のうち、節制を司る者っ!」
手に持つカードが光を帯びて、俺の中に降り注ぐ。
「真名をミカエルッ! 神秘開放……不死者たる妙薬ッ!!」
レーヴァテインを振り抜き、歩行型を仕留める! まずは1体……よし、この剣ならいける。ハグ、あんたは最高の鍛冶師だ!
「──っ!?」
脇腹を喰いちぎられ、あまりの痛みに視界がぼやける。傷口を触ってみると、大きく抉れて出血が止まらねぇ。これだけの数、同時に相手するのはさすがに厳しいか。
「ぐあああっ!」
クッソ、あの飛んでる球体野郎が的確に光線を撃ってきやがる。歩行型をさばきつつ、飛行型の光線も避けなきゃならねぇ。これが終末戦争……これが天使か!
1匹でも多く、道連れにしようと無我夢中でレーヴァテインを振る。この数の暴力を何とかしなきゃ、戦いにすらならねぇ。数体の歩行型を屠ったあと、俺の身体は少しずつ食い荒らされ、意識が遠くなっていく。
──段々と視界が暗くなる。ああ、俺はここで……死ぬ。最後の記憶は、歩行型の天使どもに全身を食い荒らされた後だった。
──ドクンッ。心臓が跳ねる。再び鼓動する。白き光が祝福し、視界に光が戻り、俺は立ち上がる。
「あー、クソいってぇな。おい天使ども、不死者と戦うのは初めてか?」
背を向けていた歩行型の1体にレーヴァテインを突き刺し、そのまま切り伏せる。
「俺は他の勇者と比べて、実力が高いわけでもねぇ。普通に戦えば、数体天使を殺してあの世行きだ」
──前へ踏み込み左右にレーヴァテインを振って2体を殺す。手にもつ聖剣が熱を帯び、俺の皮膚を焼く。
「だがな、あいにく俺は不老不死でね。勝てるかはわからねぇが、負けもしねぇ。さぁ、第二ラウンドと行こうぜ天使ども!」
聖剣がガタガタと音を上げて震えだし、俺の腕と聖剣は白い炎に包まれる!
「聖剣技……勝利と栄光の剣ッッ!!」
眩く光る炎の渦は、天使どもを飲み込んでいった——。




