Chapter 4-4 「出発前日」
自室の窓ガラスには温度差からか、霜がついていて、俺はそれを手でこする。霜が消え、窓の外を見る。季節は12月、外の木々は葉を落とし、雪が積もっていた。地面の土は白く染まり見えなくなっていて、歩きづらそうに見える。この環境の中で、明日……俺たちは終末戦争のために、行軍する。
目的地である世界樹まで馬車を使って約1日。道中、馬の休息で野営をする予定だ。そのタイミングで俺は、作戦を決行する。大丈夫、何度も頭の中で行程をイメージしてきた。迷いはもう捨てた。これは俺が決めた道なんだ。
ふと、窓辺に飾った花瓶を見てみる。白い陶器に活けられた紫陽花の白い花は色を失い、葉は枯れ落ちている。毎日水をやっていたが、これだけ寒くちゃ枯れるのはしょうがないだろう。それでも、どこか寂しい気持ちになって、枯れた葉を拾い集め、制服の胸ポケットにしまい込む。
出発前日、俺たちは終末戦争へ挑むための準備として、作戦会議が教室で行われる。教室の扉を開け、いつも通り一番後ろの席へ座る。少し経って、シャルとイリアが隣に座ってきた。
「いよいよですねっ……」
「うう、ボクちゃんとできるかなぁ……。魔法の鍛錬は欠かさずにやってきたけど」
2人は緊張をして、どこか落ち着かない様子だった。緊張をほぐすため、少しおちゃらけた感じで話す。
「やれることやるしかねぇだろってな。あんま気にしすぎんな」
「フェイは凄いなぁ……ボクなんかほとんど寝れなかったよぉ」
「私もあんまり寝つけなくて……えへへっ」
「そんなんじゃ天使どもにガブッといかれちまうぞぉ? 身体あっためて今日は早く寝とけ」
2人は頷き、俺たちは正面を見る。ヴィンセントとアルベールが教卓の前に立ち、明日の行軍について説明を始める。まずは天使の情報から整理し始めた。通常の終末戦争では、これまでのデータによると数十体の歩行型、数体の飛行型、そして必ず1体特質型が出現する。前衛が歩行型をおさえ、後衛が積極的に飛行型を狙う。
「特質型に関しては、複数人の勇者で対応にあたってくれ。一番危険な役回りになる。治癒術を扱えるものは、こちらの援護に回ってほしい」
「特質型の対応は、そうだね……」
ヴィンセントが周囲を見渡すも、全員が視線をそらす。そりゃあそうだろうな……アーヴァインやシグルーンたち栄勇の世代ですら倒せなかった相手の対応を、進んでやる奴は自殺志願者だ。まぁ、このままじゃ話が進まねぇし、俺には丁度いい。右手を上げて、宣言する。
「俺がやる」
一瞬、教室がどよめく。アルベールが「僕もフェイの援護に回ります」と補足するが、適当に相槌を打つ。心配すんな、お前の出番はこねぇよ、アルベール。
「では、フェイとアルベールに特質型の基本対処を任せます。明日は私も同行しますが、皆さんと違って戦闘能力に関しては素人同然。少し離れた場所で、戦果報告書を書きながら吉報を期待していますよーっ!」
「や、やってやらぁ!」「勝つぞ、天使に!」
ヴィンセントの号令に呼応するように、勇者たちが気合いを入れる。ったく、お前はとんだペテン師だな、ヴィンセント。一度こいつと手合わせをしたことがあるが、あれは素人の動きなんかじゃねぇ。俺が当時はまだ子供だったのもあるが、剣術、体術そして魔法……どれをとっても超一流。まぁ、こいつにも思惑があるんだろう。だが、明日はお前も俺のシナリオで踊ってもらうぜ。
「──では明日、我々第38勇者隊は終末戦争へ挑む! 皆、生きて帰るぞ!」
アルベールの掛け声と共に、俺たちは解散となった。立ち上がり、雑念を消すためにランニングでも行こうとすると、止められる。背中に重みを感じて振り返ると、銀髪エルフ少女が俺にしがみついていた。
「よーしフェイッ! 今日は宴だーっ!」
「の、乗っかってくるな! イリア、お前は早く寝たほうがいいと思うぜ」
「何言ってんのさぁ! ボクたち、明日で死んじゃうかもしれないんだよ。最後に楽しまなきゃ、幽霊になって化けて出ちゃうかもしれないよぉ!?」
「……ったく、これはお前も共犯かシャル?」
「はいっ! アルベールさんの個室は広いですし、そこで決起集会をやろうという話になりましてっ!」
両の手のひらを合わせて、頬の横につけながら可愛らしく誘ってきた。ああ、最後くらい楽しんだって、罰は当たらねぇよな。
「しゃあ、行くぜお前ら! アルベールの部屋に突撃すんぞ!」
──俺とイリア、シャルの3人はアルベールの部屋へ向かった。
† † † † † † † † † † † † † † † † † †
「いくら広いからって、流石に狭いなこれ」
アルベールの部屋、革張りのソファとベッドに所狭しと勇者たちが座る。ベッドには俺とアルベールが横並びで座り、ソファにはシャルとイリアが腰かける。もう1つのソファにはガイルとドゴンという体格が良い2人で座っているからか、狭そうだ。
「へっへっへ、こいつを持ってきてやったぜぇ!」
ガイルが悪だくみをしているような悪人ヅラで、ガラス製の瓶を手に持って自慢げに話す。
「おおおぉ!? これ、お酒じゃないのぉ!?」
「おうよ、食堂から、かっさらってきてやったぜぇ!」
……ミズガルズで成人は18歳からのはずだ。俺は18歳だが、これまで酒を飲んだことがない。そういや、こいつらの年齢って聞いたことがねぇな。
「おい、お前ら成人してんのか? そもそも、酒なんて飲んで酔っ払ったら明日に支障がでるぜ」
「わ、私は17歳ですし、仮にも教会へ属する身……お、お酒はちょっとっ……」
「僕もシャルと同い年だ。そもそも、この中で成人しているのはフェイだけじゃないのか? 勇者隊の基本情報資料には目を通しているからね」
全員俺より年下だったってことか。イリアはエルフで年齢不詳だったが、見た目通りの年齢のようだ。ガイルも身体付きはしっかりしているが、どこか幼い風貌ではある。いや、待て……この中で俺が一番年上!?
「お、おいドゴン……お前、何歳なんだ?」
「──15歳だ」
「はぁ!? 嘘だろお前絶対詐欺だ! どう見ても成人してるだろ!」
「ふっ。そう見えているなら、戦士としては誇らしい」
こいつの感性はよくわからんが、年上に見られたことを喜んでいるらしい。このいかつい坊主男が15歳ね……。ぱっと見、教官より年上に見えるぜ。まぁ、ゼロもヴィンセントも大分若く見えるが。
「おいフェイッ! 酒の味を知らずに死ねるかってんだ! 俺たちが未成年だからって、止めはしねぇよな!?」
「ダメだ、酒なんか飲むもんじゃねぇ」
そう言って俺はガイルから酒瓶を取り上げて、言う。
「……こいつは取っとこうぜ。俺たちの凱旋に必要だろ」
「なるほど、ゲン担ぎってことかぁ!? くぅぅ、フェイ頭いいなっ! よっしゃお前ら、絶対生きて帰んぞぉ!」
バカだから助かったぜ……。この酒は、死ぬ間際に飲んでみるか。俺はそっと背中に隠し、全員を見る。ああ、こいつらと一緒に居られる、最後の日だ。深夜まで続いた決起集会の景色を、絶対忘れないように、しっかりと目に焼き付けておく。
決戦の日まで、あと2日。待ってろクソ天使ども……1匹でも多く、あの世へ道連れにしてやる。そう強い決意と共に、俺は目を閉じた──。




