Chapter 4-2 「誕生日」
「おい赤髪、お前は何を言ってやがる? 精神がおかしくなったんじゃないだろうな」
「そ、そうですよフェイ! いくらあなたが強いといっても、アーヴァイン兄さんですら倒せない特質型を倒せるわけが……」
ゼロとアルベールの言葉を俺は否定する。
「んなもん、やってみなきゃわからねぇだろうが。俺には神秘の力もある」
「……勝算があるってことかい、フェイくん?」
「あるかどうかは関係ねぇ。お前らの話では、このままじゃオーデンセ王国は他国へ侵略をする。つまり、犠牲が増えるってことだ。そいつらを止めるためにも、やるしかねぇだろ」
強気に装ってはいるが、特質型がアーヴァインでも勝てない化物だと仮定すれば、俺たち第38勇者隊は全滅する。そして俺は、最初の望み通り──死ぬことになる。これは俺が描いた俺のシナリオだ、誰にも邪魔はさせねぇ。
「ゼロ隊長、次の終末戦争には俺も出ます。第37勇者隊出撃の許可を」
「……元々、そのつもり」
俺はゼロの言葉を遮り、言い捨てる。
「いらねぇ、俺たち第38勇者隊だけで充分だ。おいアーヴァイン、お前はオーデンセ王国を足止めしろ」
「……どういう意味だい?」
「第37勇者隊を使って、終末戦争までできるだけ多くの徘徊天使を討伐しろ。白化を少しでも止められれば、強硬派の動きを牽制できる。最悪、俺たち第38勇者隊がヘマをしたとしても、残った徘徊天使を始末できる戦力は残さねぇとオーデンセ王国は侵略を始めるはずだ。そうだろ、ゼロ?」
俺の考えを聞いたゼロとアーヴァインは悩みながら沈黙した。それを破ったのは、ヴィンセントだった。
「リスクを考えると、フェイくんの提案は悪くないと思うけどね。第38勇者隊の生存率を上げるのか、それともその後の白化やオーデンセ王国を止めるほうを優先するのかを天秤にかける、というわけだ」
「なっ……そ、それは……」
「なんだアルベール、今さら死ぬのにビビったわけじゃねぇよな? 勇者になった時から、覚悟は決まってるはずだろうが」
「……ええ、覚悟はできています」
──少しの間、俺の提案に対する議論が交わされて、最終的にゼロが決断を下した。
「次の終末戦争は第38勇者隊のみ出兵とする。第37勇者隊は徘徊天使の討伐を強化、ヴィンセントは第二王子アルフォンスを探れ。以上だ!」
全員が頷き、俺たちは終末戦争とオーデンセ王国への対処を進めることになった。
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──襲撃事件を理由に勇者祭は中止となり、あれから2ヶ月。季節は秋になり、敷地内の森は薄っすらと黄色い葉を散らすようになった。ヴァルハラ勇者寄宿学校の鍛錬はより厳しいものになり、迷宮攻略や日々の基礎訓練を通じて、第38勇者隊の面々にも変化が見られる。終末戦争が近づくにつれ、第38勇者隊は2つの思想に分かれ始めていた。その間を取り持つように、隊長へ抜擢されたアルベールが奔走している。
俺は様子を伺いに、アルベールの私室へやってきたところだ。神妙な面持ちで紅茶を啜るこいつが少し心配になり、声をかける。
「おい、大分疲れてそうじゃねぇかアルベール」
「なかなか大変ではあるね。隊長として未熟なことを痛感してばかりの日々さ」
10月現在、第38勇者隊の人数は24人。その24人が2つの思想に分かれているのが現状だ。終末戦争を前にして、鍛錬に身が入り、より努力をするようになるタイプ。正義感で自らを奮い立たせて、恐怖に打ち勝てる強い精神力を持ったシャルやガイルなどがこのタイプだ。
もう1つは、死が近づいてきたことを実感して精神が壊れるタイプ。漠然と考えていた終末戦争が目の前に迫ると、恐怖から発狂し、精神的に追い詰められる勇者が増えはじめた。突然怒りだしたり、泣き出したり、不穏な空気が漂っている。
アルベールは後者の奴らの精神的な支えになっているからか、疲れ切った顔をしている。勇者には守秘義務があるため、終末戦争の出兵を拒否した勇者はオーデンセ王国の研究所送りになるらしい。そんなところに送られたら何されるかわかったもんじゃねぇ。それを理解してるからこそ、アルベールは優しさからか、全ての勇者を救おうと努力してるってわけだ。
「元から勇者になんか向いてねぇ奴らだったんだよ。あんまり気にするな」
「だとしても、彼らを諦めるわけにはいかない。僕だって、余裕がある状況ではないけどね」
俺はアルベールを茶化すように言う。
「これはシャルが俺に言った言葉なんだけどよ、そっくりそのままお前に言うぜ。『泣きたくなったら私のところへ来てくださいね』ってな。胸、貸してやろうか?」
「なっ!? 馬鹿にしないでください、フェイ! 僕は……」
「肩の力抜けって言ってんだよ。お前は優しすぎるぜ、アルベール。焦ったって何も変わんねぇだろ?」
「……フェイの言う通りですね」
立ち上がり、アルベールの肩を叩き、強引に連れ出す。
「よし、んじゃ行くか」
「どこへ行くというのです?」
「決まってんだろ、気分転換って奴だ!」
アルベールの腕を引き、俺たち2人は鍛冶区にあるヴァルハラ勇者寄宿学校の湖へ向かうことにした。
──校外へ出て、整備された道を進み、ドワーフの工房が立ち並ぶ鍛冶区を抜ける。大きな湖の畔、夕焼けに照らされ、秋風に吹かれ揺れる、美しい金色の長い髪が見える。シャルは俺たちに向かって手を振りながら声をかける。
「フェイさんっ! アルベールさんも、こんにちはっ!」
「シャルロッテ、どうしてここに? 君もフェイに呼び出されたのかい?」
「ふふっ、そんなところですっ!」
俺は事前に呼び出していたシャルと合流し、3人で湖の中央へ伸びる桟橋を歩く。桟橋の端へと到着したころ、少し陽が落ちかかっていて、空は青と赤の綺麗なグラデーションになっていた。
──突如、轟音が響いて俺たちは空を見上げる! 無数の火の球が空へ打ちあがり、爆ぜて火の粉が落ちてくる。
「こ、これはっ!?」
困惑したアルベールの背中に、走ってきたイリアが飛び掛かる。
「ボクの火魔法だよーっ! 前は流星群いっしょに見られなかったから、その再現を火魔法でやってみたんだっ!」
「綺麗ですね……。ありがとうございます、イリア」
夕日に照らされた火の粉は金色に煌めき、まるで俺たちを祝福してるかのようだった。
「おっしゃあ、テメェらいくぞぉ!」
ガイルの大声が後方から響き、俺たちは振り返る。
「「誕生日おめでとうございます、アルベール隊長っ!!」」
そこには、ほとんどの第38勇者隊勇者が立っていた。今日はアルベールの誕生日である10月2日、それを祝うために第38勇者隊総出でここに集まったってわけだ。
「み、皆……。そうか、今日は僕の誕生日だったのか」
「フェイがよぉ、隊長の元気がねぇって言うからオレ様たち全員に声かけて、誕生日会をやろうって話になったわけよぉ!」
「おいバカガッツ野郎、それは言うなって何回も釘刺しただろうが!?」
「ガッハッハ! いいじゃねぇか、友のために立ち上がる! それでこそ漢だぜぇ!!」
そう言うと何故かガイルは制服を脱ぎ捨てて、アルベールに誕生日を祝う言葉をかけながら湖へ飛び込んでいった。秋になり、夜はかなり冷え込むってのによくやるぜあのアホ……。ってか、勝手にバラしやがって! 恥ずかしいから言うなって全員に言った俺がバカみてぇじゃねぇか。
「肉、持ってきた」
ドゴンが大量の肉串が乗った木籠を置き、ジューシーな香りに食欲がそそられる。アルベールは未だに困惑しているようで、恥ずかしそうに微笑んでいた。
「アルベール隊長……。俺、隊長に勇気づけられたから今もこうやって勇者を続けられています。今も、終末戦争は怖い。でも、隊長と一緒なら戦えるって、そう思えたんです」
「エドワード……」
「そうですよアルベール隊長! あなたが沈んでいたら、誰が第38勇者隊をまとめるんですか!」
「み、皆……ありがとう。ありが……とう……!」
沢山の勇者から祝われたアルベールの目には涙が浮かび、肩を揺らしながら泣き始めた。ああ、好きなだけ泣け、アルベール。たまには涙を流すくらいがちょうどいいって、そんな風に思えたのも、シャルのおかげだな。
──それから、アルベールの誕生日会は深夜まで続いた。みんなたらふく食って、飲んだせいか桟橋に雑魚寝する形で倒れている。風邪を引いてしまうと心配したシャルが、全員に毛布をかけているようだ。
俺とアルベールは桟橋の端に座り、月明かりが揺れる湖の水面を眺めている。
「フェイ、ありがとう。君のおかげで、今日は忘れられない日になった」
「お前それ、想い人に言うセリフだろ。野郎相手に言うな、気色悪ぃから」
「ははは! ……必ず終末戦争に勝とう。僕たちの、未来のために」
「ああ、当たり前だ」
俺とアルベールは拳を交わし、乾いた音が響いた──。




