↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
29/41

Chapter 4-1 「手紙」

「おい離せアルベールッ! 納得がいかねぇ……セリーヌを天使にした奴を処刑して『はい、終わり』で納得できるかっ!」


 俺はアーヴァインに殴りかかろうとして、アルベールに羽交い締めにされて止められている。俺とアーヴァイン、アルベールは事情聴取のため、ゼロとヴィンセントに呼び出されて書斎に集まった。


「どうか鎮めてくれ、フェイ。大切な友を失って、オーデンセを恨む気持ちもわかる。だが今は……堪えてくれ」


 セリーヌを貫いたギャラルホルンの試作品はまだ未完成ということもあり、天使化するという最悪な事態は免れた。そして、オーデンセ王国貴族の1人が襲撃事件の容疑者として逮捕、即座に処刑された。オーデンセ王国国王アルシュタイン・フォン・オーデンセからの声明は、事実関係を調査する、の一言で終わった。そんなこと……納得できるわけがねぇ!


「堪えろ……? 仲間が俺のために命を捨てて、目の前で天使にされたことを堪えろって、お前はそう言ってんのかアルベールッ!?」

「……ああ、そうだ」


 冷静にそう言うアルベールに殴りかかろうとしたが、噛みしめた唇から血が滲んでいるのを見た俺は、振り上げた拳を下ろした。


「……悪ぃ、ちょっと頭冷やしてくる」


 俺は苛立ちを隠せず、乱暴にドアを蹴飛ばして部屋の外へ出た。そして向かったのは——セリーヌの部屋だった。この個室には、誰かが入った痕跡がある。丁寧に畳まれたベッドのシーツ、不自然なほど整理整頓されたドレッサー。大方、証拠隠滅を図ってオーデンセ王国の黒法衣あたりが部屋を片付けたんだろう。


 (あとでわたくしの部屋までお越しくださいませ。隅々まで、調べてくださいね)


 昼食の時、セリーヌが言った言葉……あれは、自分の死期が近いことを悟って俺に残したメッセージだったのかもしれないと思った。あいつはどこかで俺が狙われていることを知って、自分の命を投げうってまで助けた。1人で誰にも言わず、そのことを隠して。自分の家の責務を捨ててでも、俺の命をあいつは守った。だったら、その想いを継げるのは俺しかいねぇだろ。

 ──しばらく部屋を捜索していると、俺はベッドの下に不自然な床があるのを見つけた。木目調の板材同士が接着剤で繋げられて出来た床で、一か所だけその接着剤が剝がれかかっている場所がある。俺は境目にレーヴァテインの切っ先を沿わせると、板材が外れてその中から手紙と本が出てきた。


 羊皮紙の手紙、表面にはオーデンセ王国の印章が押されている。裏返すと、そこには俺に関する情報が記載されていた。


 ────────────────

 フェイ・シュトラールは光の一族。試作型終末を呼ぶ槍(ギャラルホルン)の試用には適任。

 天使化した場合は幽閉し、しなかった場合は研究対象として拘束しろ。

 ────────────────


 またかよ……いったい何だ光の一族ってのは。とりあえず、オーデンセ王国の誰かとセリーヌが繋がっていたから、俺が狙われていることを事前に知ってたってわけか。

 本のほうは俺がヴィンセントから借りてよく読んでいた絵本のシリーズだ。タイトルは『光の勇者と竜王姫』。1人の勇者が竜を倒し、竜人の姫と結ばれる英雄譚。ああ、懐かしいな……俺もこんな勇者に憧れてた時期があった。真っすぐに強大な敵へ立ち向かう主人公の姿を辛い時に読むと、勇気を貰える気がした。懐かしみながら最後のページまで読み進めると、紙が二枚地面に落ちる。俺はそれを拾い上げて、読んでみる。

 

 ────────────────

 勇者ルクスは古代ルーン語で光を意味する。シュトラールはミズガルズ語で光を意味する。

 光の一族シュトラールの子は勇者ルクスの末裔で、勇者の起源。

 勇者ルクスの血は白化に対する耐性を持つ。

 ────────────────


 イリアと話したときのことを思い出す。あいつは俺に『フェイは白化に余り影響されない、特異体質なのかなぁ?』と言っていた。本当に特異体質だったってことなのか?

 白化した大地で長い間暮らしても、身体の一部が硬質化するだけで済んでいたのは、俺に流れる勇者ルクスの血のおかげだったってわけか。


「勇者の起源ルクスの血を引く者……俺が……」


 信じられないが、これで白化したヘスラック村でも無事でいられたことにも辻褄が合う。勇者ルクスの絵本を気に入ってたのは、主人公であるルクスの髪が俺と同じ……赤髪だったこともある。辛い環境でこの絵本は俺の心の支えになっていたが、別の意味でも俺は勇者ルクスに助けられてたってわけだ。


「……感謝するぜ、ご先祖様。あんたのおかげで俺は今日まで生きてこられた」


 もう1枚の手紙は、恐らくセリーヌが書いた直筆の手紙だ。


 ────────────────

 フェイ様へ


 わたくしはオーデンセ王国の暗部組織、黒法衣の一員です。ヴィンセント教官の不穏な動きを受け、王国からの勅命でヴィンセント教官と貴方たちを監視する役割でした。

 転移魔法を使い、ヴァルハラ勇者寄宿学校へ天使を招き入れたのはわたくしです。混乱に乗じて、禁書庫の大天使ガブリエルの身体の一部を奪い、ギャラルホルンの素材にするためでした。

 貴方を裏切るような真似をして、本当に申し訳ございません。


 最初は任務のために貴方へ近づきました。ですが、いつからでしょう。

 貴方に助けられた時。貴方が仲間のために戦う時。貴方の不器用な優しさに触れた時。

 お慕いしておりますと言った言葉が、嘘ではなくなってしまった。不器用でも誰かのために戦う貴方を見て、真の勇者の姿だと思ってしまった。

 わたくしは貴方を庇って死にます。今までわたくしが行ってきたことを許してほしいとは言いません。

 貴方なら終末戦争にも打ち勝つことができると信じております。だから、生きて。生きてください。

 ────────────────

 

 セリーヌが黒法衣……。きっとあいつも、そうしなきゃならない理由があったんだろう。あいつが天使を招き入れたっていうなら、犠牲が出た以上許されることじゃねぇ。だけどな、死んじまったら、お前に怒りをぶつけることもできねぇんだぞ……セリーヌ。

 

「自分だけ死んで、俺に生きろだなんて惨いことを言うんだな、お前は」

 

 手紙をランタンの火にくべて燃やす。頭を冷やし、冷静になった俺は書斎へ戻ることにした──。


 † † † † † † † † † † † † † † † † † †


「お、フェイくん。もう大丈夫なのかなー?」

「……ああ。心配かけた」


 俺はアルベールに近寄り、一言「悪かったな」と謝罪をすると「気にしなくていい」と返事を貰い、少し安堵した。セリーヌの死を受けて、行き場のない苛立ちをこいつにぶつけちまった。まだまだ未熟だな、俺は。


「……では続きをアーヴァインくん、話してくれ」

「はい。今回の襲撃事件は恐らく第二王子アルフォンス・フォン・オーデンセが手を引いています。奴はギャラルホルン製造の責任者でもあるのでね」

「おい、俺にもわかるように話せ。こっちは殺されかけてんだぞ!? そもそも、アーヴァイン……てめぇは味方なのか?」

「少なくとも、敵ではない。まずはオーデンセ王国について説明する」


 アーヴァインがオーデンセ王国の現状について話し始める。国王であるアルシュタインは高齢で、跡継ぎを決めるための王位争いが現在オーデンセ王国で行われている。ミズガルズ三大国家の1つであるオーデンセ王国は、広い領土を持つものの立場としては良くない。理由としては世界樹から一番近い国ということもあり、終末戦争の結果による影響を一番受ける国だからとアーヴァインが語る。


「なるほど、勇者たちが終末戦争に負けると大地が白化する。地理的な問題で白化の影響を一番オーデンセ王国が受けやすい、ってことか?」

 

 ゼロがオーデンセ王国とヴァルハラ勇者寄宿学校の関係性に関して話し始める。


「奴らにとって、俺たち勇者隊は自国と世界樹の間にある最終防衛線だ。だからこそ資金提供を行い、協力関係にある」

 

 俺たち勇者隊が終末戦争で異形を殺せれば、オーデンセ王国への被害も少なくなる、ってことか。別にこんなクソッタレた国どうでもいいが、話の続きを聞くことにする。


「僕やアーヴァイン兄さんは終戦派と呼ばれる派閥だ。終戦派は元凶である天使を打ち倒し、自国を守るという思想。反してアルフォンス兄さんや他の兄姉は強硬派と呼ばれる派閥。彼らの思想は世界樹から遠い他国を侵略し、領土を拡大して自国を存続させようという考え方なんだ」

「……難しいことはよくわかんねぇが、お前やアーヴァインのほうがまともそうなのは何となくわかるぜ」


 アーヴァインが頷きながら、小難しい顔をする。


「だが、天使に……特に特質型を倒すのは至難の業だ。その現状を理解しているからこそ、強硬派の連中は強引な手段だとしても、他国を侵略する戦力を求めている」


 ──前に一歩出て、俺が宣言する。


「なんだてめぇら、湿気たツラしやがって。話は簡単じゃねぇか」

「どういうことだ、フェイ?」


 このクソみたいなオーデンセとかいう国のためじゃねぇ。俺のために死んでいったアヤメやセリーヌ……支えてくれたシャルや、友と呼べる奴らのために。


「──俺が特質型をぶっ殺せればいい。単純明快な話ってことだ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。