Chapter 3-8 「勿忘草」
──乱雑に扉を開け、息も絶え絶えにゼロに向かって叫ぶ。
「はぁ……はぁ、おいゼロ! 資料を寄越せ!」
「……赤髪、でかい声を出すな騒がしい奴め。要件を言え」
「だ、第20勇者隊の戦果報告書の資料だ!」
ゼロがこの書斎にいることを聞いた俺は、全速力で走ってここまできた。俺の要求を聞いたゼロは面倒くさがりながらも、後ろの本棚から資料を取り出し、乱雑に1枚の羊皮紙を机の上に置く。俺はそれを手に取り、内容を急いで確認する。
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第20回終末戦争報告書
+ 天使討伐数 +
歩行型: 1体
飛行型: 0体
+ 勇者隊被害 +
死亡者: 38名
天使化: 2名
+ 白化被害領域 +
サンクレール領: 白化
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俺は資料の下部へと目線を移す。だんだんと心臓の鼓動がまた速くなり、冷や汗が出る。
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第20勇者隊序列1位金級勇者ディラン・ハードナー『使用武器・大剣』天使化
第20勇者隊序列2位金級勇者アイン・シュトラール 『使用武器・片手剣』天使化
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見つけた……俺の顔から血の気が引いていくのがわかる。ヘスラック村を襲い、リリィを天使化させたのは……ディランさんだ。大剣という同じ武器を使い、実の娘だったリリィを天使にした。この残酷な事実を受け入れられず、苛立ちをゼロにぶつける。
「……俺の父さんとディランさんが天使化して、ヘスラック村を襲ったことをお前は知っていたのか、ゼロッ!?」
俺は怒りに身を任せて、ゼロの胸ぐらを掴む。すぐに俺の手を払いのけて、ゼロが吐き捨てる。
「知っていたならどうする?」
「なんだとっ!?」
「……この事実を伏せろと言ったのはヴィンセントだ。お前に余計な心労をかけさせたくなかったという理由でな」
ゼロの冷徹な声を聞き、俺は冷静になる。落ち着け、こいつに怒りをぶつけてもなんにもならねぇことくらい、俺だってわかってる!
「母さんを殺したのは、俺の父さんか?」
「お前が一番わかっていることを、なぜ俺に聞く? 天使に家族が殺され、故郷が消える。このクソッタレな世界ではよくあることだろ。いいか、フェイ」
ゼロが立ち上がり、俺の胸に拳を突き出して、言い放つ。
「過去に縛られるな、前を向け。進んだ先にしか未来は無い」
「ゼロ……。ああ、わかったよ。邪魔して悪かったな」
俺は踵を返し、ゼロに背を向けて書斎の扉に手をかける。すると、ゼロが俺に声をかけた。
「──アインはいい勇者だった。仲間想いなところは、お前に似てる」
何でそんなことを俺に伝えたのかはわからなかったが、ゼロの声色はどこか優しかった気がする。きっとこれはあの鬼教官なりに励ましてくれたんだろう。父さんに一度でいいから、会ってみたかった。努力して強くなって、あんたと同じ勇者になったんだぜって報告したかった。それはもう叶わないけど、今は……勇者として責任を持ち、戦った父さんを誇りに思えた。
「……そりゃあ俺の親父だからな。いい勇者じゃなきゃ困るぜ」
俺はアーヴァインとの決勝に挑むべく、訓練場へ向かった──。
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「来たね、フェイくん」
片手剣の切先を地面に刺しながら、柄の端に手をそえている。堂々とした立ち振る舞いで、アーヴァインが出迎える。
「さぁて、最強の勇者様よぉ。実力を見せていただこうじゃねぇか」
「ああ、俺も久しぶりに全力が出せそうで楽しみだよ」
アルベールとの戦いは全力じゃなかったってことか。こりゃあ一筋縄じゃいかねぇな。あの聖剣技を食らったら無事じゃすまねぇ。スキルを発動される前に決着をつけるしか、こいつに勝つ方法は無いだろう。
「──第7試合、決勝戦……開始ッ!」
──動けねぇ。ゼロと対面した時と同じ、強者を前にして俺の足が止まる。隙が無さすぎる……まるで誘い込まれているような感覚を覚えて、攻撃を仕掛けることに躊躇する。いや……なに弱気になってやがる、フェイ! アルベールだって果敢に挑んだだろうが!
前へ出る。たとえ誘われていても関係ねぇ! 俺はレーヴァテインを振り回し、まずはアーヴァインの手を狙う!
「……うん、なかなか良い。最初は少し迷いがあったみたいだけど、自分を奮い立たせたんだね」
「くっ……だあぁぁらあぁ!」
斬撃は一向にアーヴァインを捉えることができず、少しずつ息が上がっていく。まるで俺を品定めしているかのようだ。いや、攻撃を止めるな。必ずどこかで隙はできるはず!
俺は姿勢を低くして、聖剣で足を狙う! 華麗にステップで躱されたが、左手ですくい上げた土を顔面に投げつけ、一瞬アーヴァインの意識を逸らす! その隙に奴の胴体を斬り払うように、レーヴァテインで切りつけた!
「ぐっ……。面白い戦い方だ。周囲の環境を利用したのか」
「悪いが、お前に勝つには手段なんか選んでいられないんでね!」
──会場から歓声が聞こえる。俺の名前を呼ぶ声が耳に届き、聖剣を持つ手に力が入る。だが、異変を感じて身構える。
「──っ!?」
「……これは?」
途端、急激に温度が下がったような寒気を覚えて、周囲を見渡す。なんだ、この感覚は。アーヴァインも周囲を警戒しているところを見ると、こいつの魔法やスキルじゃ無さそうだな。
今は昼過ぎのはずが、次第にここら一帯が暗くなり始める。その暗闇の中、一瞬だけ閃光が走る。その光は、真っ直ぐに俺へ向かってきた!?
「ぐっ!?」
俺は衝撃を受けて地面に倒れる。眩しさから閉じてしまった目を開くと——。
「あ……が……はっ」
「セ、セリーヌ!?」
白い槍が腹部に突き刺さったセリーヌは、俺に覆い被さるように倒れていた。白い結晶が彼女を侵食するように覆っていく。
「お、おいしっかりしろ! ち、治癒魔法を! 誰かぁっ!?」
これは……いったいどういうことだ!? なんで、なんでセリーヌが……天使みたいな身体になってやがる!?
「おいアーヴァインッ! いったいどういうことだ、お前の仕業か!?」
「こ、これは……終末を呼ぶ槍の試作品……完成していたというのか!? ち、父上っ!!」
アーヴァインが叫び、睨みつける先にはアルシュタインが座っている。
「わ、我は知らぬっ!」
焦った様子でアルシュタインが椅子から転げ落ちて、間髪入れずにバーンリーの拡声魔法が響く。
「緊急事態だ、全員校内へ退避っ!!」
──叫び声と共に、一斉に観客が走り出す。俺はセリーヌを抱き抱えて、声をかける。
「セ、セリーヌ……なんで俺なんか庇って……」
口から血を垂らしながら、力のない声で呟く。
「わ……わたくし……知って……おりまし……た。フェイ様が……狙われる……ことを……げほっ」
「俺が狙われる……!? だ、だから助けたってのか!?」
「あ、あなたに……げほっ……生き……て……生きて欲し……かった」
セリーヌの瞳から涙がこぼれ落ちる。だんだんと瞳の色が薄くなり、呼吸が荒くなっている。これじゃあ……もう……!
「お、俺は……俺は死ぬために戦って……それなのに……お前は、お前はっ……!」
「わたく……しの……最後……の……お願い。い……生き……て」
「お、おい。目を開けろって。なぁ、お前は世継ぎを作るため……勇者になったんだろ? こんなところで……こんなところで、俺なんかのために死んでいいわけないだろ……?」
そう問いかけてみても、セリーヌから返事はない。最後の力を振り絞って伸ばした手は、力無く地面へ落ちた。
「──オーデンセェェッ!!!」
俺の叫びは虚しくも、この場所で響き渡っていた──。




