Chapter 3-7 「真実」
俺たちは訓練場を離れて、流星群を見ようとしたあの丘へやってきた。まぁ今は昼間だから流星群なんて見られないが、見晴らしがよく、ヴァルハラ勇者寄宿学校の敷地を見渡せるこの景色はなかなか悪くない。
「……おい、大丈夫かアルベール?」
「ええ、僕は一度落ち込んだら立ち直るのも速いのでね。今はフェイの応援をするだけですよ」
落ち込んでいたアルベールを心配して、こうやって昼食まで連れ出したが、どうやら切り替えが速いタイプらしく、心配はなさそうだ。食堂で配膳されたホットドッグを頬張りながら、腹を満たしているとセリーヌが俺の隣へ座って身体を寄せる。
「お強いフェイ様を見られて、わたくし幸せですわ……」
「よ、寄ってくるな! ったく、お前は俺のどこを気に入ったんだ……理解に苦しむぜ」
そういうと、食べていたホットドッグを置き、俺の左手を両手で掴みながら、話し始める。
「アドミラル家はオーデンセ王国伯爵家の中でも少し特殊で、類まれな魔法の才を後世へ残すために、積極的に世継ぎを設けるのが家訓ですの」
「それと俺に、何の関係がある?」
「それはもちろん、わたくしはフェイ様に添い遂げて、たくさんの世継ぎを設けるのです。わたくしが勇者になった理由も、序列を上げた理由も、全てはそこにありますもの」
……あぶねぇ、ホットドッグを吹き出すところだった。貴族の考えはよくわからねぇが、血筋や能力を重んじるエリート達にとって、それが普通なんだろう。
「……そうか」
「あら、拒絶なさらないのですね」
「拒絶も否定もしねぇよ。勇者になった理由は、人それぞれだろ」
「ふふふ……あとでわたくしの部屋までお越しくださいませ。隅々まで、調べてくださいね」
いったい何を言ってやがるんだこいつは……。まぁ、貴族の奴らだって、ただ裕福なだけじゃない。アルベールもセリーヌも、俺には理解できねぇ悩みなんか腐るほどあるだろ。俺はこの世界のことも、俺自身のことも知らなすぎる。ラースが言っていた光の一族、いったい何のことかさっぱりわからねぇ。後であの爺さんに聞いてみるか……。考え事をしていると、イリアが俺の顔を覗き込み、不思議そうな顔で言う。
「なんだかフェイ、ちょっと変わった? 優しくなったというか、大人になったというか……ね、ドゴン?」
「良い、戦士の顔になった」
「そうかぁ? 俺にはわかんねぇけど、まぁそういうことにしとくわ」
ここのところ、補習や勇者祭で忙しく、考える余裕がなかったが……ヴァルハラ勇者寄宿学校と勇者システムの謎に関しては、何も進展してねぇ。そもそも、終末戦争に37回挑んだとされる勇者達の記録が教科書に載っておらず、禁書庫にも該当する文書は無かったはずだ。バーンリーは一度も終末戦争に勝てていない、と語っていた。アーヴァインやラースなど終末戦争の生き残りがいて、世界の浸食は進んでいるものの崩壊には至ってない。それでも勝っていない、というのはいったいどういうことだ?
そもそも、教官たちやオーデンセ王国と、俺が考える『勝利』という定義が違うのか? ……考えてみてもわからねぇ。
「──やぁ、君がフェイくん、だったかな?」
突然、俺は肩を掴まれて後ろを振り返ると、アルベールの兄……アーヴァインが立っていた。
「う、うわぁ!? お前……気配消して近寄ってくるなよ」
「兄さん、どうしてここに!?」
「やぁ、アルベールも元気かい? 傷は平気か?」
「え、ええ……シャルロッテに治していただいたので問題無いですが……」
気さくに話しかけるアーヴァインが、笑みを浮かべたその奥に底知れない何かを感じる。これが最強の勇者か……近くで見ればより凄さがわかるな。この男が立つ空間は、全てこの男の為にあると感じさせるような絶対強者が放つオーラを感じる。
「それなら良かった。次戦の挨拶をと思ったんだが、そうか、君がフェイくんか。弟が世話になっているようで感謝する。アルベールが成長したのは、君のおかげだろうからね」
「なんだぁ? おだてても手加減なんかしてやらねぇぞ」
「ははは、必要ないよ。重圧のあまり他人を信頼できなくなったアルベールが、友を作るなど考えられなかったんだ。……皆、感謝する」
「ちょ、ちょっと兄さん! 辞めてください……」
アルベールが恥ずかしそうに手を振りながら兄を静止する。俺は立ち上がり、アーヴァインの青い目を見ながら問いかける。
「感謝してるってなら、俺の質問に1つ答えてくれねぇか」
「答えられる範囲なら」
「過去の勇者隊と終末戦争について聞きたい。あんたたち第37勇者隊も、その前の勇者隊も終末戦争を戦い抜いた。だが、バーンリーは『一度も終末戦争に勝てていない』と語っていたぜ。それはいったい、どういう意味だ? あんたほどの実力者が、徴兵拒否をしたわけでもねぇだろ?」
「……君の言う通り、俺は第37回終末戦争に出兵し、生き残った。それは事実だ。さて、どこから話そうか──」
──淡々とした口調で、アーヴァインが説明を始める。まず、終末戦争とは世界樹の麓に現れるゲートから出現する、天使たちを止めるための戦い。アーヴァインが出撃した第37回終末戦争では歩行型が62体、飛行型が14体、特質型が1体出現したと言う。これは過去の終末戦争と比べても、かなり大きい規模らしい。
「どうやら天使たちは、世界樹の近くであればあるほど強力になる。徘徊天使と、終末戦争で出現する天使の強さが違うのも、それが理由だ」
「なるほど、理には適ってますね」
「歩行型と飛行型もかなりの強さではあるが、動き自体は単調だ。経験を積んだ勇者なら、渡り合うこともできるだろう。だが、問題は特質型だ。世界樹の麓で、特質型と戦うのは人間には不可能だろう。あれは、人が倒せる次元の生き物ではない」
アーヴァインが拳を作る手に力を込めたのがわかった。アヤメを殺した特質型の徘徊天使ですら俺は倒せなかったってのに、終末戦争の天使はさらに強いってわけか。全く、とんでもねぇバケモンと戦わされるわけだ。そりゃあ、普通の勇者なら確実に死ぬだろう。生存率が2%っていうゼロの話もうなずける。
「じゃ、じゃあどうしてアーヴァインは生き残ったの?」
「それに関しては、運が良かったとしか言えない。特質型は俺たち第37勇者隊と戦いを繰り広げたあと、突如発狂し、彼方へと飛び去った。その特質型が徘徊天使として発見されたのは、ウルズの泉と呼ばれるエルフの里だった」
「ウルズの泉……そ、それってボクの故郷の近くだよ! 白化したエルフたちの里!」
イリアが驚いた表情で言う。続けて、アーヴァインが神妙な面持ちで語る。
「そして、ここからが本題だ。死亡した過去の勇者に関する戦果報告書を照らし合わせ、武器の特徴が一致する勇者を探した。照合の結果、1人だけティサーリアというエルフの女性が見つかったんだ。彼女の武器は風を帯びた杖、俺たちが戦った特質型と同じ武器……そして、ウルズの泉出身の勇者だったんだ」
……つまり、そのエルフの女性とアーヴァインたち第37勇者隊が戦った特質型は同じ人物だということ。それが、何に繋がるっていうんだ? 疑問に思っていると、何かを閃いたアルベールが話し始める。
「まさか、特質型の目的は世界の浸食ではなく、自分の故郷を白化させるのが目的ということですか!?」
「……憶測に過ぎないが、特質型の徘徊天使は自分の生まれ故郷、家族や友人など、生前に関わりがあった場所や人間に強い殺意を向ける。本来一番守りたかったはずの人間を、自らの手で殺しにいくなど、皮肉なものだがね」
イリアが話を理解できておらず、首を傾げている。それを横目に、心臓の鼓動が速くなるのを感じる。特質型が故郷を白化させ、家族や友人を殺しに行くというなら、俺が殺したあの特質型は……!?
「わ、悪ぃアーヴァイン! ちょっと遅れるかもしれねぇ!」
「フェイッ!?」
俺はアルベールの静止を無視して、ゼロの元へと向かった──。




