Chapter 3-4 「兄と弟」
アーヴァインが剣を振り、アルベールがそれを受ける。反撃の隙すら許さず、一方的な展開だ。普通、剣同士が当たった時に響く音は、鉄が共鳴するような高音だが、アーヴァインの剣は違う。当たった時にまるで鈍器のような低音が唸り、凄まじい力と体重が込められていることがわかる。
……さすが栄勇の世代、最強の勇者ってとこか。こいつ、とにかく体重の移動が上手い。踏み込む前に後ろへ重心を置き、剣を振る時に完璧なタイミングで前へ重心を移動する。普通、こういうタイプは攻撃が読みやすい。攻撃が来るタイミングで相手の足を見れば、予兆がわかるからだ。
「──ぐぅぅっ!」
「……良く耐えている。だが、それだけだ」
これだけ威力が高ければ、読みやすくても関係ないな。剣が当たる瞬間、一瞬だけ腕や肩に力が入っているのがわかる。まるで自分の手足の一部として剣を振るってやがる。ガードの上からでも全身が震えるほどの衝撃が伝わってるだろう。盾で受けたアルベールの足が演習場の地面に少し埋まり、削り取られた芝が舞う。
「聖剣技……」
アルベールが聖剣のスキルを準備した。幅広の聖剣は白く光り、アルベールの髪が衝撃波で揺れる。アーヴァインも警戒し、防御の構えを取る。
「──夢想一閃」
──アルベールの姿が蜃気楼のように揺らぎ、そのまま盾を捨て、両手で斬りかかった! アーヴァインは盾で弾き、反撃の斬り払いを返す。だが、斬られたはずのアルベールの身体は白く発光し、光の粒子となって消えた!?
「ぐっ!?」
アーヴァインの背後に現れたアルベールは、聖剣の一撃を背中に食らわせて、外套を切り裂いた! アーヴァインは片膝をつき、少し呼吸が荒くなる。あれは、自分の分身を作り出して戦うスキルってことか。
「兄さん……僕は貴方を越える。越えてみせるっ!」
「……泣き虫アルベールが、いつの間にか立派な勇者になったのだな」
──会場から割れんばかりの歓声が響く。アーヴァインが破かれた外套を投げ捨て、アルベールと同じように盾を捨てた。剣を上段で構え、剣先をアルベールへ向ける。
「……死ぬなよ、アルベール」
「なん……ですか……それはっ!?」
聖剣から、思わず目を背けてしまうほどの光が漏れる。それは次第に刃を形取り、片手剣がまるで大剣のように太く、そして伸びた!?
「聖剣技、白鷲の慈悲ッ!」
アーヴァインの聖剣から放たれた光は、やがて鷲のような光り輝く鳥へ姿を変えて、襲い掛かる!
「きゃあああっ!」「うわあああ!」
余りの眩しさと、衝撃波で思わず観客たちが悲鳴を上げて、のけ反る。おそるおそる目を開くと、アルベールの後方は大地が抉り取られ、巨大な穴になっていた!?
「…………」
アーヴァインのスキルを受けたアルベールは全身を切り裂かれ、前のめりに倒れる。防護魔法すら貫通する威力で、ぴくりとも動かなくなった!?
「お、おいおい、さすがにやばいんじゃないか!?」
「救護室に運ばないとっ!」
──観客たちがざわめき、アルベールを心配する声が上がる。
「……おいアルベールッ! なに倒れてやがんだ金髪眼鏡っ!」
……気づいたら俺は立ち上がり、アルベールに罵声を浴びせていた。観客たちが一斉に俺を見て、注目を浴びる。すると、俺の声に反応したのか、アルベールの指先がぴくりと少し動く。
「……勝負はついているよ。……なにっ!?」
──アルベールが立ち上がった。剣を地面に突き刺し、身体を支えながら必死に踏ん張っていた。眼鏡は粉々に砕け散り、額からは大量に出血している。不格好でも、ダサくたっていい。それでも、あいつは立ち上がった。
「ま……だ……終わって……ません……よ」
……ボロボロになったアルベールへ向かって、アーヴァインがゆっくりと歩きだす。
「……良く、立ち上がったな。お前は、自慢の弟だ」
「アーヴァイン……にいさ……がはっ!」
アーヴァインが素早い手刀をアルベールの首筋に当て、今度こそ気絶した。倒れ込む身体を担ぎ、アーヴァインが会場を去る。全く……かっこいいじゃねぇか、アルベール。結果こそ伴わなかったが、あいつの闘志は俺に火を点けた。同期の熱い戦いを見て、何も思わないほど俺の心は冷めきっちゃいなかったようだ。
「──勝者、第37勇者隊序列1位アーヴァイン・フォン・オーデンセ!」
──バーンリーの宣言と共に、壮絶な第一試合が幕を閉じた。……とんでもねぇな、栄勇の世代ってのは。やっぱり俺もスキルを使えるようにならねぇと、この先の戦いが難しくなりそうだ。レーヴァテインを手の甲で叩いても、何も反応しない。普通は聖剣を持てばスキルが脳裏に浮かび、発動できるって教科書に書いてあったんだが、白い短剣は何も言わねぇ。
「おい、フェイ! 見たか今の戦い!? アルベールは漢だぜ……最高だ、最高潮だぁ!!」
「……ガイルか」
どうやらガイルは感動したらしく、号泣しながら頷いている。だけど、俺も同じ気持ちだ。あの弱気だったアルベールが、自分の限界まで戦った。その事実だけで、あいつと同じ第38勇者隊だということを誇らしいと思える。
「次の試合はお前だろ、ガイル? 気をつけろよ、シグルーンも同じくらい強いぜ」
「オレ様が負けるわけ無いだろうが! しかも相手は女だろ? 女ってのは、可憐で儚いもんだ! 女を守るのが漢の仕事ってもんよぉ!」
ガッハッハ、と大きな笑い声をあげてガイルは舞台のほうへ歩いていった。俺はイリアと談笑をしながら、ガイルとシグルーンの戦いを観戦することにした。
「──では、第2試合開始ッ!」
……ガイルはにやりと笑いながら、高々と宣言する。
「悪いが、オレ様は女を殴る気になれないっ! 痛い目を見たくなければ、棄権してくれないか!」
「……何言ってやがんだ、オマエは? なんでアタシが棄権しなきゃならない?」
──ああ、終わったな。そう確信をして、この後の展開が読めてしまった俺は、頭を抱えて首を振る。
「そりゃ、オレ様が勇者になったのは女を守るためだからよぉ! わかったら棄権……ぶぐほぉあ!?」
……シグルーンに思いっきりぶん殴られたガイルは、坂を転がる小石のように吹っ飛んでいき、そのまま舞台の柵を破って場外へ突き飛ばされていった。
「あり……えねぇ……」
ガクッと首が横へ曲がり、ガイルはそのまま意識を失った。
「……よわっちいな、オマエ」
あまりに呆気ない戦いを見た観客たちは黙り込んでいる。1試合目との温度差に会場の空気は白けて、少しの静寂が包む。まぁ……そりゃあそうなるか。ガイル、ご愁傷様ってやつだ。
「──しょ、勝者、第37勇者隊序列2位シグルーン・ミネルヴァ!」
イリアが俺を見て、少し緊張した声でエールを送る。
「第38勇者隊も残りはフェイだけになっちゃった……。がんばれ、フェイー! ボクも応援してる!」
「まぁ、そうだな……」
俺は立ち上がり、イリアのほうを向いてにやりと笑う。
「先輩たちにいいようにやられて、黙ってられるほど大人でもないんでね。ちょっと火、ついたわ。行ってくる」
「おおお、フェイがやる気っ! ファイトー!」
──俺は演習場の中央へ向かい、対面する勇者を見る。短めの黒髪で、肌が白い女だ。東方の衣服なのか、チェック柄のマフラーを首に巻き付けて俺を睨む。
「……どっかで会ったことあるか?」
「いや、初めてだ。だが……」
あれは……ヴィンセントから借りた本に書いてあった東方の武器、苦無。短いダガーのような武器だが、柄の部分に輪がついており、そこに紐が通されている。紐を巧みに使い、投げたり振り回すことも可能な、忍者と呼ばれる暗殺業がよく使う暗器だ。
「個人的な恨みがある。悪いが、最初から殺すつもりで行かせてもらう」
「へぇ、そりゃあ怖いな。来いよ、相手になってやる」
──間違いない、こいつからは殺気が感じられる。知らねぇうちに恨みを買ってたってのは、本当のようだな。赤い瞳が俺を捉え、開戦の合図を待っているようだった。
「──第3試合開始ッ!」




