Chapter 3-2 「勇者祭」
──休暇も終わり、よく晴れた夏の日。重い足取りで、寄宿学校の1階ロビー、「勇者祭」と書かれた大きな張り紙の前に来た。人だかりをかき分けて、概要を確認する。
今回の勇者祭は前後半に分かれる2部制で、前半は天使を模した魔法生物の討伐数を競い合う個人戦、後半は個人戦で優秀な成績をおさめた8人による1vs1の決闘形式で開催されるらしい。
オーデンセ王国に関する情報を得るために、本気でやってほしいとアルベールに言われた。やる気は出なかったが渋々承諾し、それをヴィンセントへ相談すると……「うん、本気でやっていいよ!」と言われたのもあって、とりあえずやるだけやってみることにした。
勘違いしてる奴らもいるが、俺は他の勇者と比べて実力が高いわけじゃない。剣技は対天使や魔物を想定した我流だし、魔法に関しては一切使えねぇ。俺の強みと言えば相手を観察して、クセを掴んでその弱みを突くのが上手いこと。そのためにまずは1回様子を見て、反撃の1撃で勝負を決めるっていうのが一応のプランだ。
しかも俺が授かった神の力……神秘──節制は、この形式の戦闘だと一切役に立たねぇ。今はまだ手の内を見せるわけにもいかねぇし、素の状態で戦わなきゃならないってことだ。
一番の誤算は聖剣を手に入れても聖剣技が使えないということと、俺のレーヴァテインには制限時間があるということ。聖剣技は聖剣に備わる技で、強力な発動効果を使える。レーヴァテインに天使の体表というイレギュラーな素材を使ったからか、俺に魔法適性がないからなのか、どちらかはわからねぇがスキルを発動することができない。しかも、長時間持つと高熱になるため、なるべく勝負は早く決めなきゃならねぇという制約がある。全く、すげぇ剣なのはわかるが……とんでもないじゃじゃ馬だぜ、こいつは。
「──諸君、勇者祭前半の討伐戦を始める! 演習場へ集合してくれ!」
拡声魔法でバーンリーが全員に呼びかけ、俺たちは演習場へと向かった──。
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「──それでは、勇者祭の説明を始めるっ!」
バーンリーの説明を聞きながら、俺は周囲を確認してみる。こうしてみると、見たことねぇ奴もいるし、喋ったことねぇ奴がほとんどだな……。俺は1人の勇者から視線を感じて、そいつのほうを見てみる。ツンツンしたトゲ頭の男が、睨みながら俺に寄ってきた。
「なぁにガンつけてんだ、オイィ……?」
「いや、お前が先に俺を睨んでたと思うんだが……」
こげ茶色の髪の男は、チョーカーを見る限り俺たちと同期、第38勇者隊らしい。序列は……二位。こんな奴、教室にいたか……?
「あぁぁん? こちとら気が立ってんだ……。オレ様が序列二位だぁ!? ふざけやがって……ゼッテーこの勇者祭でオレ様の実力を見せつけてやらぁ!」
何だかよくわからねぇが、素行の悪そうなツンツン頭が勝手にキレて、握り拳を俺の顔の前へ突き出している。それを払いのけて、吐き捨てる。
「……お前、誰だっけ?」
「……何だと!? テメェ……徘徊天使を殺したっていう序列最下位の田舎モンだよなぁ? オレ様のことを知らねぇなんてよっぽど世間知らずのようだなぁ!」
──ツンツン頭は俺の襟元を掴もうと手を伸ばしてきた。それを静止したのは、金色のポニーテールを下げた、色黒の女だった。
「はーいストップー。ごめんねぇ、こいつめっちゃバカで……フェイくん、だったよね」
「……お前も、誰だっけ?」
「うへぇ、ちょっと傷つくなぁ。同じ第38勇者隊、序列3位のテスタ・マーキュリー。こっちのバカは幼馴染のガイル・シモンズ。まぁ、このバカは停学食らってたからあんまり見たことないと思うけど」
呆れ顔でテスタがガイルに指を差す。何故か停学になったことを誇らしく思っているのか、親指を突き上げている。
「イジメられてた勇者見習いがいたからよぉ、イジめてた奴ら全員ボッコボコにしてやったぜぇ! そしたら停学食らってこのザマってわけだ」
「……暑苦しいな、コイツ」
「ガッハッハ! フェイ、だったか? 漢はガッツ、漢は熱さだ! うおぉぉお、行くぜ勇者祭ィィ!」
「……まぁ、悪い奴じゃないから、良かったら仲良くしてやってよ」
暑苦しい不良男ガイルと、肌が黒く焼けた女テスタと一緒に、バーンリーの説明を聞く。
──寄宿学校敷地内、裏山、森、平原の三か所に、天使を模した魔導人形が出現する。1体倒すごとに歩行型は1点、飛行型は3点が加算され、その点数で競い合う競技。ルーン魔法学院が全面協力し、実際の天使を模倣した魔導人形たちと戦うことになるらしい。攻撃を食らい、致死ダメージを受けるとチョーカーが反応し、拘束される仕様になっているようだ。終末戦争に向けた予行演習としては持ってこいというわけだ。
「──諸君らの健闘を祈る! 制限時間は今から2時間。それでは……勇者祭、開始っ!」
バーンリーの号令で一斉に勇者見習いたちが走り出す。俺は様子を見ながら、ゆっくりと行く方向を決めることにした。まぁ、実際に天使と同程度の強さなら、普通の勇者が倒すには1人だと厳しいはず。恐らく、最初は様子見で戦って、無理だと判断した勇者たちはパーティを組んで戦うようになるはず。そんなに急ぐ必要もねぇだろ。
……大体の勇者見習いたちは平原に向かったようだ。見晴らしが良い場所のほうが戦いやすいし、妥当な選択ではあるな。森は見通しが悪いものの、遮蔽物を上手く使えば戦いを有利に運べる。裏山は起伏が激しく、戦いづれぇってのもあって、ほとんど向かった奴は居ないみたいだ。
「うっし……行くか」
──俺は1人、裏山へ向かうことにした。
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「ギィィイィ……」
──よし、これで3体目。全部歩行型だが、ここまでは余裕だな。いくら天使と同等の力を持つといっても、所詮作り物だとわかれば恐怖は無いし、普段通りに戦える。存外、人間ってのは強い生き物で、恐怖さえ払拭できれば本来の力が出せるもんだ。アルベールがいい例だろう……あいつには才能があるが、メンタルが弱い。自分より強者と対峙し、恐怖を感じた時に、あいつは守りに入るクセがある。それは自分を守るための手ではあるが、格上と戦う際には悪手になる。先手必勝……恐怖を捨て去り、対応される前に1撃で仕留めるのが、弱ぇ奴が出来る最善手ってもんだ。
レーヴァテインなら、それが可能になる。こいつの切れ味は抜群で、触れる物を溶かしながら断ち切れる。これであれば硬い体表を持つ天使にも有効打になるだろう。現に、この模造した偽天使の歩行型であれば、ほぼ一撃で仕留められた。
「……ん?」
俺の正面、短めの草木が茂る斜面を登った先に、魔導人形と戦っている勇者が見える。どうやら魔導人形相手に苦戦してるようで、俺はゆっくりと丘を登り、近づいてみる。あの2人は……さっき訓練場で会ったテスタとガイルか。
「テスタァ!? クソッ……!」
あれは……初めて見るが、飛行型か? 丸い球体のような見た目で、不規則に飛び回りながら動いている。巨大な一つ目から光線のようなものを吐き出していて、それをもろに受けたテスタはチョーカーが反応して身体が拘束され、その場に倒れこんだ。そのまま丘を下るように転がり、俺は両手で彼女を受け止める。
「よぉ、大丈夫か?」
「いたたた……あはは、ミスったね、こりゃ。悪いけど、あいつに手貸してやってもらえない?」
「……何で俺が? 勇者祭のライバルが減るなら、ここで見殺しにするほうが俺にとっては都合がいいんだけどな」
「見殺しにしたら、あいつ、しつこいからずっと絡まれるぞぉ? それでもいいなら、止めはしないけどね」
あの暑苦しい奴をここで見捨てたら「てめぇ漢のクセに仲間を見捨てるのか!」みたいにまた絡まれる。それはちょっと勘弁願いたいな。あまり気乗りはしないが、渋々テスタの脅しに近い要請を承諾する。
「……しゃあねぇ、手貸してやるよ」
「ありが……きゃああああっ!」
俺はテスタを抱えていた手を放すと、叫びながら丘下のほうへと転がり落ちていった。飛行型ってのは歩行型に比べてかなり厄介で、機動力が高くあの光線による攻撃は防ぐ手段が無いとヴィンセントが語っていた。どんなもんか一度戦ってみるのも悪くねぇか。
──俺は全力で斜面を駆け上がり、飛行型と対面しているガイルの元へ向かう。
「……どうした、ガッツが足りねぇんじゃねぇのか?」
「あああん!? オレ様のガッツは世界一、今が最高潮で絶好調だぁ!! テスタの仇ィィ!」
暑苦しく両拳を上げて、威嚇している。そもそも、こいつの聖剣はガントレットと呼ばれる、片腕をはめて殴打するための籠手だ。それじゃあリーチ差があって、飛び回る飛行型を相手にするのは難しいだろうな。
「こいつをやるぞ、ガッツ野郎」
「助太刀してくれるってのか!? お前は熱い漢だ……見直したぜ!」
俺はガイルと協力して、飛行型の魔導人形と戦うことになった──。




