↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
19/41

Chapter 2-7 「勉強会」

 俺とシャルは、夕食のあと、中庭にあるテーブルで勉強会をすることになった。辛気臭い部屋の中で勉強なんかしたら、息が詰まって俺は脱走するだろうし、外の空気を吸いながら勉強したほうが100倍マシだ。


「……ここ、どういう意味だ?」

「えーっと、ここは……」


 教科書に顔を近づけ、長く美しい金色の髪を耳に掛ける仕草を横目で見る。髪が揺れるたびに花のような甘い、良い香りがして、思わず見とれてしまう。……ダメだ、ぜんっぜん集中できねぇ。


「──聞いてますか、フェイさんっ!?」

「あ、ああ……聞いてる。全部聞いてる」

「……もうっ! 本当に勉強が嫌いなんですね、フェイさんっ」


 頬っぺたを膨らませて、まるで小さい子供を叱りつけるような声で話すシャルに、思わず苦笑いをする。……おいバカ野郎、ちゃんと集中しろ! 赤点で補習だけは絶対にダメだ。ただでさえ勉強が嫌いなのに、補習なんてさせられたら精神が壊れる……加えて、そんなことがアルベールにバレたら絶対煽られる。イケ好かねぇ顔しながら眼鏡を触り「……本当に馬鹿なんですね」と呆れた口調で見下されるのは目に見えていた。


「……なぁ、シャルはなんで勇者になったんだ?」


 勉強をいったん休憩したいと思った俺は、別の話題を切り出してみる。ペンを口元に当てて、シャルが空を見上げながら話し始める。


「孤児院に居た孤児たちは、白化の影響で家族を亡くした子がほとんどで……ずっと、私に何か出来ることはないかって探していたんですっ。話を聞いてあげたり、身の回りのお世話をしたり、怪我をしたら治してあげたり……あんまり力にはなれなかったかもしれないけど、少しでも助けられたらなって……。そんな風に過ごしていたら、自分の中で、『もうこれ以上悲しむ子を増やしたくない』って強く思うようになって、気がついたらヴァルハラ勇者寄宿学校の試験を受けていましたっ」


 ──本当にシャルは、優しい人なんだな。 女神が実在するんなら、シャルは正真正銘の女神だ。 誰かのために自分の力を使える、シャルみたいな奴のことを勇者って言うんだろう。

 

「シスターってのは……いや、シャルは立派だな。きっと、シャルのおかげで救われた奴はたくさん居るだろう。その孤児たちに、いい報告が出来るように、強くならなきゃいけねぇな」

「……はいっ! 正直、戦うのは苦手ですが、今この瞬間も世界で苦しんでいる人たちが居るって思うと……頑張れる気がするんですっ」

 

 ──俺の頬を、水滴が伝って落ちる。あれ……俺、なんで泣いて……。


「ど、どうしましたかフェイさんっ!? べ、勉強が嫌になったのですかっ!?」

「あ……ああ、いや……何でもねぇよ」

「何でもなくありませんっ! もし辛いことがあるなら、私でよければ……お話を聞くくらいしかできませんが、どうぞ話してくださいっ」


 ああ、そうか……最初は、俺もシャルと同じだったんだ。過去を思い出したくないから、俺は自分の心に蓋をしてた。その悲しみを天使への怒りに変えて、何とか今日まで戦ってこられた。


「……つまらねぇ話だぞ」

「──聞かせてくださいっ」


 シャルになら……話してもいいかって思えた。あの地獄だった……ヘスラック村のことを。


 † † † † † † † † † † † † † † † † † †


「母さん、身体は大丈夫!? つらくない!?」

「ごほっ……え、ええ……いつもありがとう、フェイ」


 ……勇者として旅立っていった父さんが戦死して、その話を聞いた母さんは身体を壊してしまった。今もこうやって寝たきりで、ベッドの上から動けずに苦しそうだ。


「お、おれが母さんを守るから安心してよ! 今日なんかイノシシ狩ってきたんだぜ!」

「……すごいわね、フェイッ! あんまり、危ないことはしないようにね……ごほっ……」


 俺と母さんが住んでいるヘスラック村は、高い山に囲まれた、辺境の小さな村だ。住んでいるのは俺と母さん、そして幼馴染のリリィだけ。他の村人は村長だった父さんがいなくなったこともあって、出ていってしまったからだ。料理はリリィがしてくれるから、俺は素材を取ってくる役割。野草や果物、あとは動物なんかを狩って自給自足で暮らしている。


「フェイーッ! 猪肉の臭みを消すハーブ取ってきてっ!」

「おっしゃ任せろ! とびっきり良いハーブ取ってきてやるよっ!」

「ふ……普通のでいいよ……」


 呆れた顔をしてそう言いながら、リリィは猪肉の下準備を始めているようだった。リリィは母さんの兄であるディランさんの娘で、俺にとっては従姉妹にあたる。 ディランさんも父と同じ第20勇者隊の勇者で……共に戦死した。父を亡くした子供同士、今はこうやって支え合いながら生きている。

 

 ──俺は裏山の森へ入り、薄暗い森の中を注意深く探して歩き回る。ハーブはギザギザした細い葉っぱが目印で、水源の近くによく生えている。


「あった、これだ! よし、これで美味しいイノシシ肉料理が食べられるっ!」


 5年前、父の死を知らせる手紙が届いてから、年々体調が悪くなっている気がする。まだ子供だった俺は、母さんを心配することしかできなかった。でも、今は10歳になった。母さんとリリィを守れるのは……俺しか居ないんだ。

 そうだ! 裏山の先、崖の近くで、夏にしか咲かない赤い花が咲く。母さんは花が好きだし、ついでに採っていこう。面倒くさいけど、リリィの分もとってきてあげるか。


 ──しばらく歩き、高い崖に生えた赤い花を2本取って、鞄に入れようとしたところ、異変が起きる。


「うわっ!?」


 ……突如、地面が揺れ、俺は思わずその場で倒れる。危ない……お、落ちるところだった。地震なんて珍しいな。ここらへんで地震が起きたことなんて、今まで無かったのに。不思議に思っていると、異変に気づき、思わず目を疑った。


「……っ!?」


 崖の下、森を越えた先がヘスラック村……そこから黒い煙が立ち込めている!?

 俺は、すぐに立ち上がり森を全力で走った。息を切らしながら、ただひたすらに足を動かす。


「はぁ……はぁ、母さんっ……リリィ! 今行くっ!」


 ——目の前の光景に、衝撃を受けて俺は膝から崩れ落ちた。ヘスラック村……いや、ヘスラック村だった『もの』は……白に染まっていた。家は硬い白い石のようになっていて、眩しく不気味な光を発していた。


「なんだよ……これ。そ、そうだ……母さんとリリィは!?」


 俺は疲れ果てた身体のまま、2人が待つ家へと走った──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。