Chapter 2-6 「この世界の理」
「どうした、俺はあまり気が長いほうではないぞ」
──動けねぇ! こいつの殺気にあてられて、俺の全身が救援信号を出してやがる。動くな……息を止めろ。そう全身が叫ぶほどの威圧感! ドサッ、という音が俺の背後から聞こえる。 マナを使い果たしたのもあって、殺気だけでセリーヌは気絶して倒れたようだ。
「……なるほど、ならお前らにはここで死んでもらう」
そう言うとゼロが双剣を振るい、俺に斬りかかってくる! クソッ……殺されるっ……目を閉じ、顔を背けた俺の耳に金属音が響く。
「──ちょーっとストップ、フェイくんを殺されるのは私が困るんですよ」
「ヴィンセント……貴様、なぜ邪魔をする?」
「私の切り札でしてね、彼は。まったく……派手に動くのは止めろと、あれほど言ったでしょう?」
「ぐっ……はぁ……はぁ……へっ、おせぇんだよヴィンセント」
──緊張が解け、空気が肺を満たす。息を吸えるようになり、身体中に酸素が巡っていることを感じる。
「フェイは魔法適性試験の際、魔力壺に絵柄が現れています。ゼロ、彼は神秘の力が発現しています。貴方と同じ……神の力がね」
「あの時……俺にアルカナのことを聞いたのは、虚勢ではなかったということか」
「ええ。フェイくん……話しましょう、この世界の理についてね」
そう言うとヴィンセントが俺たちを案内し、中央のテーブルを囲むように座る。 俺は気絶したセリーヌを抱きかかえ、椅子に寝かせてヴィンセントの言葉を待つ。
「では、特別授業開始ーっ! ……さて、何から話しましょうか。まずは……天使についてですね」
大きな羊皮紙に、魔法を使ってペンを動かしながらヴィンセントが説明を書いていく。
「──まず、天使とは意思を持たない魔導人形。ただひたすらに殺戮だけを目的とした、天界の兵器です」
「……意思を持たねぇ魔導人形? そんなわけはねぇ、あいつらには知能がある! 現にアヤメを殺した奴も、まるで殺しを楽しんでるようだったぜ」
「それは、特質型に限ります。特質型というのは、厳密に言うと天使とは異なる。いいですか、皆さん」
──衝撃の一言をヴィンセントが発する。
「──特質型は……大天使や一部の特質型によって天使に変えられた、元人間です」
「……ここにきて、衝撃的な事実ですね」
アルベールはにわかに信じがたい顔をしている。……ヴィンセントが話していることは、真実だ。俺には……確信がある。
「ええ。貴方たちを襲ったあの特質型は、第30勇者隊の勇者です。当時の記録では、彼女の聖剣は鎌……報告を受けた特質型の特徴と一致します」
「死してなお、天使の手駒として使われるなんてっ……それこそ、神への冒涜じゃありませんかっ!」
「うん、そうだねシャルロッテくん。そんなこと、許されていいはずがない。だから、私とゼロはこの世界の理を壊すために、必死になってるってわけさ!」
──アルベールがうわずった声で、ゼロに聞く。
「先ほどゼロ隊長と話していた男は……私の父、アルシュタイン・フォン・オーデンセです。そして僕はここへ来る前に、オーデンセ王国の諜報部隊である黒法衣に襲われた。この件は、父が……オーデンセ王国が関係しているのですか? 」
「……王国からはヴァルハラ勇者寄宿学校の運営資金を提供してもらってる。その代わりに、俺たちは優秀な勇者を輩出しなきゃならない」
あのジジイがアルベールの父親だって? 人間の欲に忠実な、汚ぇ見た目の男だった。あの太った男からアルベールが生まれたってのは、あまり想像できねぇな。
「それはなぜです!? 父は……自分の、自国の利益に繋がらなければ投資はしない!」
「さっき奴が言っていた、終末を呼ぶ槍と呼ばれる神器を王国は作ってる。お前たちも見ただろうが、あそこに幽閉されてる始祖の大天使ガブリエルの身体を使ってな」
「終末を呼ぶ槍とは……いったい……」
「人工的に特質型を作り出し、天使を操るための神器だ。大方、優秀な勇者に神器を使い、天使を量産して兵力にでもするつもりだろう」
「……野心的な父なら考えそうなことで、笑えませんね」
俺たち勇者が……天使にされる、だって? おいおい、意味がわからなすぎて反吐が出るぜ。腐ってんのは天使どもだけじゃねぇ……人間も……腐りきってやがる。
「はっ、アルベール。お前には悪いが、随分イカれた思想を持った父親だな。人間を天使に変える? 冗談じゃねぇぞ!」
「オーデンセ王国が置かれている状況を把握している僕でも、理解しがたいですね。たとえ自国を守るという大義があっても、これは度を越している!」
まったく、こいつがまともで良かったぜ。これでオーデンセ王国を肯定するんだったら、この場でぶん殴ってるところだった。
「あそこにいる大天使ガブリエルってのはいったいなんだ? 天使を学校で飼うだなんて、いい趣味だとは言えねぇぞ」
封印されていた部屋のほうを指差しながら聞く。少し悩んでうつむいた後、顔を上げたゼロが俺の質問に答える。
「俺の神秘の力は対象の捕縛。黙示録で出現した大天使ガブリエルを捕縛して、この地下に幽閉している」
「い、いったい何のためにです?」
「……奴の力を使って、寄宿学校を守るための結界を張っている。その代償に、俺もこの寄宿学校に囚われているがな」
「殺すべき相手に俺たちが守られてるだって? 笑えねぇ冗談だな」
「どんな力だろうと役立つなら使うまでだ。現にこの結界がなければ、遥か昔にここら一帯は白化していたはずだ」
ゼロの言う通りだ。どんな力だろうと使うべきだという点においては、賛同する。俺もこの力がなければ、とっくに死んでいたわけだしな。ヴィンセントが続きを話す。
「私とゼロの目的は、終末戦争を退けつつ、終末を呼ぶ槍の完成という、オーデンセ王国の企みを潰すこと。どうです、皆さん……ワクワクするでしょう!? ということで、ここまで話したからには君たちにも協力してもらいます。──世界の理を壊すための、聖戦にね」
アルベールが立ち上がり、聖剣を抜く。 これが称号付きの核から作られた聖剣か……幅広のブロードソードは、青白く光り輝き、決意を示しているようだった。
「……父の愚行の責は、息子の僕にもある。力を貸します、ヴィンセント教官」
……ってか、こいつの聖剣、全然虫っぽくねぇじゃねえか。魔物の核……あげなきゃよかったか? あとで追加料金請求しておこう。
「……死者の魂を冒涜する行為、シスターとして見逃すわけにはいきませんっ! 私も……微力ですがお手伝いいたしますっ!」
シャルもやる気のようで、メイスを掲げて意思を示す。2人が協力することを決めた。それを見てヴィンセントは頷き、にやりと笑いながら俺に言う。
「フェイくんは私に恩がありますから、断らないでしょ?」
「……一応聞いておけよ。まぁ、ここまで首突っ込んだんだ。いいぜ、俺もお前たちの目的に力を貸す」
レーヴァテインを2人の聖剣に重ねて、目を閉じる。ああ、やってやる。相手が何だろうと……こんなクソみたいな世界は……俺がぶっ壊してやる。
「皆さん、ありがとうございます! まぁ今のままだと、終末戦争も越えられないでしょうし、当面やることは変わらず、強くなっていただく必要があります」
ヴィンセントが不敵な笑みを浮かべ、宣言する。
「──私たちで、世界をひっくり返す……その時までね」
† † † † † † † † † † † † † † † † † †
──次の日、ほとんど寝ずに午前中のつまらない授業を聞いていたからか、何度か意識が飛んでいた。そのたびに隣の席のシャルに起こされ、バーンリーからこっぴどく叱られた。
「ふあああぁ……あ……」
「眠そうですね、フェイさんっ」
「ほとんど寝てねぇって……」
「その調子だと、期末試験で赤点になっちゃいますよっ! 赤点だったら補習になるので、嫌いな勉強をたくさんしなきゃいけなくなっちゃいますっ」
頬を膨らませながら、シャルが可愛らしく注意をする。肌……白くて綺麗だな。いや、そんなことはどうでもいい、それよりも重要な話が飛び出てきた。
「……待て、期末試験って何だ?」
「学期末に実技試験と筆記試験があって、その結果次第で序列と階級が変わるんですっ。もしかして……知らなかったのですかっ!?」
……終わった。そんな話、ヴィンセントからは一度も聞いてねぇ。
「……なぁ、シャルって筆記試験得意?」
「少なくとも、フェイさんよりは得意かとっ……?」
「──頼む、一生のお願いだ! カンニングさせてくれっ!」
両手を合わせ、頭を地面につける。ふっ……決まった。東方の国ではこれを土下座と呼び、最大級の敬意を表現するときに使う技だ。俺は今日までこの秘技を隠していたが、使うならここだろ!
「そ、そんなのダメに決まってるじゃないですかっ! いいですか、フェイさんは今日から私と一緒に、毎日勉強ですっ!」
俺の秘技は、シャルには全く効いていなかった。
──ほとんどの授業を聞き流していた俺は、期末試験のため、シャルと一緒に勉強会をすることになった……。




