Chapter 2-5 「禁書庫」
──長い階段を下りたその先、寄宿学校の地下深くにたどり着いた俺たちは、思わず目を疑った。
「これほど規模が大きい図書館は見たことがありません……」
「うへぇ……ここから手がかりを探すってのは気が滅入るな……」
階段の先にある扉を開くと、積み上げられた石レンガの部屋が目の前に現れる。上を見上げると、高い天井まで本棚が伸びていて、とてつもない数の本が収納されていた。
俺たちは松明に火を灯し、何か手がかりになりそうな書物を見つけたら、中央にある大きな木製の机に持ってきて集合することにした。
「……字読むの、得意じゃねぇんだよな」
これは……媚薬の作り方が記された禁書。セリーヌに見つかったら目を輝かせそうだな……。あいつなら媚薬の調合をやりかねない気がして、反対にしてそっと本棚へ戻す。こっちは子供向けの絵本か。竜と勇者の物語……読んだことがあるシリーズで、思わず懐かしくなる。いや、待てよ。 ここにある本は……いくつか見覚えがある。もしかして、ヴィンセントはここから本を持ってきて、俺に与えたのか?
こっちは禁呪と呼ばれる、禁じられた魔法に関する本だ。俺は魔法に詳しくねぇが、ここに転移魔法について記述がある。あの黒法衣が使った転移魔法は法で使用を禁じられているらしい。そんなんお構いなしの、やばい集団だってことか。
しばらく本棚を眺めても、特に天使に関する本は見当たらなかった。徹夜をしながら捜索をしていることもあって、文字を読む目がかすんできやがった。
「──皆、こっちへ来てくれ!」
アルベールが禁書庫の奥で皆を呼んでいる。俺たちはその声のもとへ集まると、アルベールの先には厳重に鎖が巻かれた扉。鋼鉄の鎖が交差して封印されているようで、試しに触ってみても力づくでは開けられなさそうだ。
「……いかにも、って感じだな」
鎖の先には4つの水晶が取りつけられていて、そこから魔力を発生させてこの扉を施錠しているようだった。魔法のことは何もわからねぇしな、俺……。聖剣で1回切ってみるか?
「わたくしにお任せください。見たところ、水晶から地水火風のマナを感じますわ。4属性全ての魔法を扱えるわたくしなら、お時間をいただければ解除できると思います」
「まじかよ!? 頼む、セリーヌ!」
「ふふ、解除した褒美として、熱い接吻を望んでもよいのであれば」
「……冗談言ってる場合じゃねぇって」
セリーヌは残念そうな顔をしながら、扉の解除作業に入ったようだ。何をしてるかはさっぱりわからないが、ここはセリーヌに任せて他の3人は一度、中央のテーブルへ戻ることにした。
「凄いですね……セリーヌさんっ。4属性の魔法を扱えるだなんて」
「悪ぃ、俺は魔法に関してはさっぱりわからねぇんだけど、複数属性を扱うのは難しいのか?」
「例えば彼女は水属性が得意魔法ですが、それであれば反属性の火属性に対する適性は下がるはずですっ。複数属性を扱えるのは、凄い才能ですよっ!」
「へぇー、そういうもんなのか。まぁ勇者になったってことは、優秀なのは当たり前か」
──俺たちはしばらくの間、集めた本の解析を進めていた。やべぇこれ、寝るぞ……。文字を読むのが辛くなり、本を開いて顔に乗せ、椅子の背もたれに身体を預ける。すると、ガシャン、という鉄音が響き、俺は飛び起きる。どうやらセリーヌが解除に成功したようだ。
「セリーヌッ!」
「フェイ様、扉の罠を解除しましたわ」
「ああ、良くやった! 身体は大丈夫か?」
「お優しいのですね、フェイ様。ええ、マナを使い果たしただけで、問題ありませんわ」
顔が少し青白くなっていたセリーヌに肩を貸す。相当頑張ったのか、かなり疲弊してるようだ。……口は嫌だが、頬にならキスしてやってもいいか。
「これだけ頑丈に封をされていたんだ。どうやら、隠したい何かがここにあるようだね」
──俺はゆっくりと扉を開ける。中からは光が漏れ、思わず眩しさから目を閉じる。段々と慣れてきた……恐る恐る、封印を解いた部屋へと足を踏み入れる。 重要な禁書があると予想していたんだが、どこにもねぇな。 目の前にあるのは巨大な鉄格子で、人間が入れないほどの狭い間隔で、鉄の棒が何本も伸びている。
「……暗きを照らす光となれっ! 光付与ッ!」
シャルの魔法で、彼女の聖剣である白銀のメイスが光を帯びた。これなら、暗いこの部屋でも見えるな。壁に複雑な紋様が浮かび上がり、何かの術式が書かれているようだ。部屋全体の壁に黒いインクで書かれた魔法文字が浮かんでいる。この部屋全体に魔法がかけられてるのか?
「フェイ、どう……やら……僕たちは……踏み入れてはいけない領域に居るようです」
アルベールは鉄格子の間から中を覗き、震えた声でそう告げる。
「何ビビってやがるんだよ、アルベール……」
アルベールの視線の先を俺も見る。セリーヌとシャルも怖がりながら、俺の後ろから顔を覗かせている。
「……は? どういう……ことだよこれ……」
鉄の棒を握る力が強くなる。 声にならない悲鳴をシャルとセリーヌも上げる。
鉄格子の先、シャルの魔法で照らされた「ソレ」は、確かに居た。
「アガ……ガガ……」
口元に大きな杭が打ちつけられ、磔にされている白き異形——天使が苦しむ声を上げている。
「勇者を育成する学校の地下に、天使を捕らえてるだなんて……笑えねぇな」
……普通の天使じゃねぇ、あまりにもデカすぎる。歩行型が人間より少し小さいくらいのサイズだとすると、こいつは10倍以上の大きさだ。鉄格子の下、ご丁寧に名札がついてやがる。
「……始祖の大天使ガブリエル。こいつはいったい何だ?」
──途端、後ろのほうで階段を下りる靴音が聞こえる。 足音は1……2つ。
「──おい、お前ら、隠れろっ! 誰か来る!」
俺たちは部屋を出て、急いで大天使の扉を閉め、各々が身を隠す。俺は近くにあった本棚をよじ登り、開いていたスペースに身体をねじ込んで様子を見る。
1人は……金髪の初老。もう1人は……ゼロ!?
「黒法衣から、お前の身辺を嗅ぎまわってる鼠がいると報告を受けたが?」
「……そんな奴がいれば俺が斬り捨てる。あんたの手を煩わせるまでもない」
「なら、良いのだがな。忘れるなよ……我が国が多額の援助をしているからこそ、勇者どもが生きられるということを」
「はっ。爺さん、俺についてきた理由は説教か?」
「……忠告だ。間もなく……終末を呼ぶ槍が完成する。世界の理を変えるのは、我が国だ」
──そう言うと初老の男は、豪勢な赤いマントをたなびかせ、禁書庫から出ていく。
「……おい、ガキども。出てこい」
ゼロが鋭い声で叫び、その目ははっきりと俺を捉えていた。逃げられないと判断した俺は、観念してゼロの前に立つ。
「……気づかれてた、ってわけか」
「俺を余り舐めるなよ、クソガキ。さて、お前ら……どこまで調べた?」
……凄ぇ圧だ。これが勇者隊総隊長、ゼロ・ストラトス……! 一歩でも動けばあの手に持つ剣を抜き、切り捨てられる……それほどの凄みだった。
「──答えなければ殺す。答えても内容次第では殺す」
腰に下げている2本の聖剣を抜き、俺たちに向けながら吐き捨てた──。




