Chapter 2-4 「番人」
──凄まじい速度で放たれた矢を避けられず、肩に鋭い痛みが走る! 躊躇なく攻撃を仕掛けてくるこいつを睨みつけながら、問う。
「……正気か、スコット?」
「ええ、あなたは理に近づきすぎたんですよ、フェイさん。ここで……殺します」
……本気みてぇだな。何がなんだか状況は全くわからねぇが、今はこいつを止めるしかねぇ!
──レーヴァテインを抜き、構える。その間にも、次々と矢を放ってくる! 速い……一度矢を放ってから、こんなに速く次の矢を放てるものなのか!? 聖剣を振り、何本かは撃ち落としたが太ももに矢が刺さり、俺は膝から崩れ落ちる!
「……そんな力隠してただなんて、なかなかやるじゃねぇかスコット」
「ぼくこそ驚いていますよ、フェイさん。ぼくの矢を空中で叩き落とすだなんて芸当が出来るのは、あなたくらいでしょうね」
持久戦になれば俺が不利、こっちから仕掛けるしかねぇ! 俺は廊下を走り、真っすぐにスコットへ向かう! 同時に矢を3本装填して、真っすぐ俺に向かって放ってくる!
それを見て、俺は床を思いっきり蹴って左に飛び、壁に両足で着地しながら、膝を伸ばしてスコットに飛び掛かる!
「ぐっ!? あなたの身体能力、いったいどうなっているんですか!? 魔法を使わず壁を走れる人間なんて見たことがありませんよ!」
「よく防いだな、スコット。褒めてやるぜ!」
ギリギリでレーヴァテインの攻撃を避けられたが、あいつの制服は所々発火して燃えている。素早く次の矢を構え、俺に向かって弦を引く。
「──なっ!?」
あるはずのものが無いことに気づき、スコットが慌てた様子で自分の弓を確かめている。
「……ばぁか、最初からお前のことなんか狙ってねぇよ」
「なるほど、ぼくは手加減をされていたというわけですか」
そう、スコットに飛び掛かった時、レーヴァテインで斬ったのは弓の弦。太い糸は中心で斬られ、脱力したかのように揺れていた。
「それほどの力があって、お前は何をビビってやがる? その力は天使を殺すためのもので、人に対して向けるもんじゃねぇだろ!」
「……あなたに、何がわかると言うのです」
「何もわからねぇよ。お前みたいな……力を持っているのに、全てを諦めたような顔して悲劇のヒロインぶってる奴のことなんかな!」
「ぼくが……悲劇のヒロイン? あはははは! 的外れもいいところですよ、フェイさん。ぼくは自分の運命を受け入れて、それに従うだけ!」
手を腹に当てながら、スコットが嘲笑する。バカ野郎が……そりゃお前の本心じゃねぇだろ。俺たちが初めて部屋で話したあの時、お前が……俺を見て「恐れないで自分より強い者に立ち向かうフェイさんを尊敬してる」って言ってくれたこと、ちょっとは嬉しかったんだぜ。
──左右にステップを踏みながら、スコットに近づく! レーヴァテインは高温になりすぎてもう使えねぇ。俺は右手で握り拳を作り、思いっきりスコットに殴りかかる!
ミリッという骨の軋む音が聞こえる。即座に障壁魔法を唱え、俺のパンチは見えない壁に当たり、止められた!
「おいスコット、運命を受け入れるってのは、諦めてるのと同義なんだよ」
「ぐっ……うううぅ!」
少しずつ俺の拳が障壁にめり込んでいく! 届け……届け、こいつの……魂までっ!
「……1つ教えてやる! 運命ってのはな、受け入れるもんじゃねぇ。どんなに苦しくても抗って、自分の望み通りの未来に変えられるのが……」
──鏡が割れたような高い音が鳴り、そのまま俺の拳がスコットの顔面を捉えた!
「人間の特権だろうがぁっ!!」
「──ぐああああっ!?」
スコットの華奢な身体は数メートル吹っ飛んでいき、地面に転がった。俺はゆっくりと歩き、しゃがみながらスコットの胸ぐらを掴む。
「人間は……天使に蝕まれて、蹂躙されるのが運命だって言うなら……俺は最後まで抗うぜ」
「がはっ……げほっ……フェ……イ……さん……」
スコットの襟を離すと、力なく地面に横たわった。
「──同期に手を上げるなど、感心しませんねフェイ」
「アルベールッ!? 無事だったのか!」
後ろを振り返ると、足を引きずりながらアルベールが歩いてきた。
「ええ、少々手こずりましたがね。僕を殺すなら、刺客の数が足りませんよ」
「ばぁか、なに強がってやがんだ。ボロボロじゃねぇか」
かなりの傷を負ったようだが、アルベールは無事のようだ。あの黒ローブに襲われたのか、制服は所々破けており、激しい戦闘があったことを物語っていた。
「それにシャル……なんでここにいる?」
「わたくしが連れてきましたわ。アルベールさんは重傷でしたし、戦いになるのであれば治癒師は必要かと思いまして」
「フェイさんっ! スコットさんまで……いったい、何が起こっているんですか……!?」
恐らく事情をそこまで説明されていないからか、シャルはこの状況に戸惑っているようだった。落ち着きがない様子で、周囲を見ながらスコットに治癒魔法を唱えている。 スコットは治癒魔法を断ろうとしたが、シャルは「いいからじっとしててください!」と強気に制止して治癒魔法を施したようだ。全く、本当にこいつは誰にでも優しさを見せるんだな。
「初級治癒魔法ッ!」
「……ありがとうございます、シャルロッテさん。はは……あれは効きましたよ、フェイさん」
「お前の腐った根性叩き直すために、本気でぶん殴ったからな!」
俺の拳が、あいつの魂まで届いたかはわからねぇが、それでも……スコットはどこか満足気な顔をして、小さく一度頷いた。
「ここから先はあなたたちで判断してください。ぼくはオーデンセ王国の傀儡になるつもりはない。……ついてきてください」
何を言ってるかはわからねぇが、そう言うと、スコットが立ち上がり、階段のほうへ歩いていく。1階の階段、その脇にある掃除道具やらを乱雑にどかすと、白い壁が見えた。
「開け、虹の橋」
「なっ!? なんじゃこりゃぁ!?」
白い壁は消え、苔むした石の階段が姿を現した!? しかもそれは、下へ続いているようだ。相当な深さがあるようで、先は暗く……薄気味悪さを覚える。このヴァルハラ勇者寄宿学校に地下があるってことなのか?
「ぼくの名前はスコット・ヘイムダル。代々ヘイムダル家はヴァルハラ勇者寄宿学校の地下を守る……番人を務めています」
「地下?」
「──ここの地下には、古代の文献や禁書が封印されている大図書館、禁書庫があります。そこの扉を開けました。あとは……ご自由にどうぞ」
「スコット、お前……」
「……ぼくはたまたま、誤って禁書庫への扉を開きました。では、部屋に戻ってお先に寝させてもらいますね」
スコットが背を向け、歩いていく。俺は彼を見送ったあと、もう一度この階段を見て、ここにいる全員に問う。
「ここから先、世界の理ってやつに触れる。引き返すなら今のうちだぜ」
アルベールが一瞬鼻で笑い、先導する。
「くどいですよ、フェイ。……行きましょう」
「わたくしも、フェイ様に全てを捧げると申し上げましたわ」
「わ、私は全然よくわかってないですが……フェイさんが危険なことをしようとしているなら、放ってはおけませんっ!」
全員、覚悟は出来ているようだ。アルベールの後を追い、俺たちも階段を下りる。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……。行くぜ」
寄宿学校の隠された謎、それを暴くために俺たち4人は禁書庫へ向かった──。




