Chapter 2-3 「死神」
──ヴァルハラ勇者寄宿学校の3階、大きな両開きの扉をノックする。
「第38勇者隊、フェイ・シュトラールだ!」
ゼロが扉を開き、気だるそうに俺の顔を確認すると、低い声で吐き捨てる。
「……今日は休息日だぞ、クソ赤髪」
「ちょ、ちょっと待て、なんで扉閉めようとしてんだ! 俺はあんたに話があるんだよ!」
「──断る。ただでさえクソ忙しいのにお前に割いてる時間などないからな」
全勇者をまとめる勇者のトップ……こいつは、果たして信用できる人間なのか? わからねぇ……イチかバチかの賭けに出てみるしかねぇか。ハッタリでもなんでもいい、こいつの興味を引く言葉を言え、フェイ!
「黒い死神っていうアンタの異名、かっけぇよなぁ。誰に貰ったんだ?」
「…………」
無視決め込んでやがるが、俺は見逃さなかった。こいつの動きが一瞬固まったことを。
「──神秘か?」
「……何を言っているか、見当もつかんな。休息日くらい身体を休めておけ」
そういうと扉を閉められ、カチャっという鍵のかかる音がした。あいつの反応、もしかして本当にゼロも俺と同じ力……神秘を持ってやがるのか? 力を授かる時、俺は22種類の名称を聞いていた。全部を覚えてるわけじゃねぇが、その中に確か『死神』という名前があったはずだ。第一、本当にゼロが天使どもを殺しまくった英雄なら、『死神』だなんて不吉な異名になるわけがない。初めて聞いた時から違和感を持ってたが、その答え合わせが出来たようだ。
とはいえ、あいつが俺と同じ力を持っている可能性を突き止めたところで、何も進展はしていねぇ。どうする……何か決定的な手がかりを見つけなきゃいけねぇな。
──階段を下り、1階に行くと、俺を待ってましたと言わんばかりに貴族風の礼をする女がいた。
「あら、フェイ様。ご機嫌いかがかしら?」
「敬称なんかいらねぇ、フェイでいい」
甘ったるい口調で、もじもじとしながらセリーヌが否定する。
「ふふふ……そうはいきません。フェイ様は命の恩人なのですから。聞き込みで成果が出ず、お困りなのでしょう?」
「……何で知ってやがる」
背筋がゾッとする感覚を覚え、嫌悪感を示す。
「だってわたくし、せっかくの休息日ですし、フェイ様をデートにお誘いしようと後をつけておりましたから」
……気味が悪ぃなこの女。シカトして中庭に向かおうとすると、手を掴まれ、指を絡めながら耳元でセリーヌが囁く。
「──わたくしにも手伝わせてください。人脈は広いですし、魔法の心得もありますわ。必ずや、フェイ様のお役に立ってみせます」
「……やめとけ。俺たちが踏み込んでるのは危険な領域だ」
「わたくしはフェイ様に身も心も捧げると決めておりますので」
そういうと絡めた指に力を入れ、上品に笑う。まぁ……協力者は多いほうがいいか。
「はぁ……ついてこい。アルベールと合流する」
俺は強引に手を繋がれ、2人で中庭へと歩いていく。 ……おかしい、アルベールの姿が見えねぇ。空はきつね色、夕方なはずだ。周囲を見渡してみても人影は見えず、俺たちはアルベールを探したが、日が落ちて夜になっても現れない。
「……何かあったのか? おいセリーヌ、あいつを探す魔法とか無ぇのか?」
「難しいですわね……。アルベールさんが魔法を使っていれば、その痕跡を追うことはできるのですが」
──途端、誰かが中庭の草を踏んだ音が聞こえる。アルベール……じゃねぇな。 1……2、3人か。 囲まれてるな。
「……こそこそ隠れてねぇで出てきたらどうだ?」
真っ黒のローブを身にまとった魔術師が姿を現す。手には杖や剣を掲げ、俺たちを牽制しているようだった。
「何者だお前ら?」
「忠告だ。これ以上深入りするなら、お前たちを殺す」
殺気立ってやがる……マジみてぇだな。こいつら、人を殺した経験がある。それも1人や2人じゃねぇ。間合いの取り方が普通の人間とは違うし、現にここまで近づかれないと気づけなかった。野宿をすることも多かった俺は、魔物や野盗に寝込みを襲われないよう、音や振動に敏感だ。そんな俺でも聞き逃すほど、気配を消すことに慣れてやがる。
「アルベールはどうした?」
「……今頃、我らの同志が息の根を止めている」
「へぇ、それなら……はいそうですか、って引き下がるわけにはいかねぇな」
この数……一度に相手取るのはキツいな。セリーヌを守りながら戦うってなるとなおさらだ。大規模な戦闘になれば大事になるし、なるべく音を立てず……即座に3人を処理しなきゃならねぇ。
「……助けを呼んで、アルベールを探せ。だあああぁぁっ!!」
「きゃあーっ!?」
俺はセリーヌを担ぎ、思いっきり投げ飛ばした! セリーヌは何とか受け身を取り、校舎の中へと走っていく!
「逃がすなっ!!」
「──おっと、お前らの相手は俺だろ? どこの誰だか知らねぇが……かかってこいよ」
──聖剣を抜き、構える。持ち手が段々と熱くなり、力を発揮していることがわかる。俺の聖剣、レーヴァテインは言うならば時間制限がある。 抜刀してから時間が経つにつれて高熱になり、持つことが出来なくなる。もって30秒、ってとこか。
「殺せ」
……一斉に3人が俺に飛び掛かってくる! レーヴァテインを振ると、光の粒子が剣の軌跡を追いながら3人とも吹き飛ばした!? 加えて、奴らの黒いローブは所々燃えていて、動きが止まった。
これが天使の体表を核に作った聖剣……レーヴァテイン! ありがとな、ハグ。 こいつがあれば俺はどんな生き物だって──殺せる。
「──遅いな、お前。アルベールはもっと速かったぜ」
「ぐああっ!?」
黒ローブの1人、そのみぞおちを狙って思いっきり左手でぶん殴った。悶絶しながらじたばたと地面で暴れ、気絶する。その様子を見て他の2人は転移魔法のようなものを使い、闇の中へと消えて行った──。
「さて……おいお前、生きてるか?」
「げほっ……がはっ……殺……せ……」
「いいや殺さねぇ、お前には聞きたいことがあるからな。……誰の命令で俺たちを襲おうとした?」
「言えるわけな……ごふぉぉぉ!?」
もう一度同じ場所を殴ると、がたがたと黒ローブの男が震えだす。俺はそのローブを剥いで、顔を確認する。見たことねぇな……誰だこいつは? 短い茶髪の男が、汗だくになりながら俺を睨んでいた。
「わ、わかった! 言う……俺たちはオーデンセの……い、いやだああぁぁぁ!」
「なっ!?」
突然、こいつの身体が青く発火し、そのまま燃え上がった!? 俺は離れ、警戒をする……。次第に鎮火し、黒ローブの男は灰になり……そのまま跡形も無く消え去った。口封じのため、暗殺に失敗したから殺されたってわけか?
「……オーデンセか」
アルベールが黒幕なわけないだろうし、この件はあいつの兄であるアーヴァインが絡んでるってことか? それとも……。いや、今はとにかく、アルベールを探さねぇといけねぇな。
──俺は校舎を駆け回り、全ての場所をくまなく探した。アルベールの部屋、食堂、訓練場……それでも、見つけることができなかった。時刻は深夜、校舎の明かりは消え、勇者見習いたちはもう寝ているだろう。くそっ、暗くて見づれぇな……。あいつら、いったいどこに行ったっていうんだ?
1階の廊下、階段前で見知った顔を見つけた。栗色おかっぱヘアーの、俺の同居人だ。いつもこの時間は寝てるはずだが……深夜にトイレでも行くのか?
「スコット! アルベールとセリーヌを見なかったか!?」
スコットの肩を掴み、聞いてみると……俺の手を払い、いつもより低い声で吐き捨てる。
「……大人しくしていれば、こんなことにはならなかったのに」
「こいつは……笑えねぇ冗談だな」
スコットは弓を引き、俺に向かって躊躇なく矢を放った──。




