Chapter 2-1 「ドワーフの鍛冶師」
──俺たち第38勇者隊は、聖剣制作の素材採取のため、迷宮攻略を行った。強力な魔物が出現したせいで、5人の犠牲者が出た。教官たちは彼らの死を嘆くようなそぶりを見せていたが、形式上そういう態度を取っただけだろう。力が無い奴は、死ぬ。それが当たり前な世界で生きているのはわかっているが、どこか胸糞悪さを覚えた。
たった数週間で30人いた勇者見習いは25人に減った。この調子じゃ、終末戦争にたどり着いた時、何人生き残ってるかさえわからねぇな。
まぁ、悲観的なニュースだけじゃない。俺たちは手に入れた魔物の核を使って、聖剣を打ってもらう。これで天使たちに対抗する手段を、ようやく手に入れられるってことだ。
「フェイッ!?」
「……持ってけ、お前にやる」
俺の顔ほどの大きさがある魔物の核をアルベールに投げ捨てて、アルベールが慌ててそれを受け取りながら立ち止まる。
「でもこの核……君が倒した魔物の物だろう!? 僕が受け取るわけには……」
「リーダーとかいうクソ面倒くせぇ役を引き受けた、報酬とでも思っとけばいいさ」
「……ありがとう。必ずこれで……最高の聖剣を打ってもらうっ!」
「おう」
大蜘蛛の魔物の核をアルベールに渡し、俺は鍛冶師の元へ向かう。いや、俺……昆虫が嫌いなんだよ。うねうねしてて気持ち悪ぃし、毒とか卑怯者が使う手段だろ? そんな奴の核を使って聖剣を打ってもらって、虫みたいな見た目になったら迷いなく捨てる。
それに、聖剣の素材ならもう持ってる。事前にヴィンセントへ話した時は「……とんでもないアイディアですね。打てる鍛冶師がいるかどうか探しておきますよ」と言われたが、お目当ての鍛冶師がどうやら見つかったようで、今から会いに行くところだ。
──寄宿学校の敷地内、ドワーフの鍛冶工房がある鍛冶区の奥に、小さな湖の畔にあるボロボロの小屋を見つけた。お目当ての名工とやらは、ここで鍛冶をしているようだ。それにしても汚ねぇな……廃屋と勘違いされてもおかしくないほどで、壁に使われている木板は腐りかけていて、朽ちている。
俺は入口の扉に手をかけると、ギィィィ……という木の軋む音がした。中は薄暗いが、奥の部屋から光が漏れている。恐らくあそこが作業場になっているみたいだな。
「ヴィンセントの紹介で来た、フェイ・シュトラールだ! 聖剣を打ってもらいたい!」
「……入れ」
ドスの効いた低い声で許可をもらう。カンッ……カンッという金属を打ちつける高い音が響き、作業中のようだった。頭には白いバンダナを巻き、高温からか汗が滲んで濡れている。破けた布の服を着ていて、丸まった背中は筋肉で盛り上がっていた。
「……ハグダルド・ゲ・ドゲルボグズ」
「ハグ……何だって?」
「……ハグでいい。人間にゃ発音しづれぇだろ」
訛りもあってほとんど聞き取れなかったが、どうやら自分の名前を名乗ったらしい。ドワーフって種族は初めてみたが、ヒューマンより遥かに身長が低い。だが、筋肉は大きく発達していて、力仕事でもある鍛冶に長けた人が多いという。手のコブがすげぇ……本当に長い年月、身も心も鍛冶に捧げてきたんだろう。まさに、職人ってわけだ。
ハグが手を止めて「……素材は?」と聞いてきた。俺は制服を脱ぎ、彼に尋ねてみる。
「この白化した俺の身体を素材に聖剣を打てるか? 魔力を帯びてるって点では、魔物の核と同じだと思うんだが」
「……ほう?」
──不思議そうに俺の身体を観察し、感触を確かめているようだ。 そう、俺のアイディアは過去に例がないはず。なんせ、天使は一度殺せばその死体が光の粒子に分解され、天に昇っていく。だけど、俺の脇腹は白く硬質化していて、天使たちの体表と全く同じ物がこうやって残っている。
「……試してみなきゃわからんな。じゃが、この硬度……どうやって取り出す?」
「周りの肉ごと持ってっていいぜ。安心しろ、痛みには慣れてる」
「……わかった」
──鍛冶師は竈の中に短剣をくべて、熱する。鉄が赤白く発光をしたことを確認すると、ゆっくりと俺の脇腹に近づける。
「──ンンンンゥ!!」
「……すぐ終わらせる」
制服の外套を思いっきり噛み、痛みに耐える! ひりひりとした嫌な痛みが走り、全身に汗をかく。痛みには慣れてるとはいえ、徘徊天使、そして魔物との戦闘で身体にガタが来てやがるな……。
「──終わったぞ。すぐに作業に取り掛かる。お前は外で休んでろ」
「ッガアアア! はぁ……はぁ……そうさせてもらうぜ……」
ハグなりの優しさだったのか、熱したナイフで皮膚を焼いたおかげで、傷口からほとんど出血していないのは助かった。工房からは早速、鉄を打つ音が響いている。聖剣制作を鍛冶師に任せて、俺は外へ出た──。
工房の外、壊れかけのベンチに寝そべりながら鍛冶区のほうを眺めると、他の勇者見習いたちも鍛冶師たちに聖剣制作を依頼しているようだった。すると突然、頭の中で声が響く。
(──フェイ、節制の力は使いこなせているかしら?)
「……ああ、おかげさまでな。ありがたいことに、最近は使う機会がねぇけどな」
(そう、それは良かった。私たちの願いが叶う日を待っています)
「……ああ」
──俺は勇者隊制服の胸ポケットから、1枚のカードを取り出す。暦が変わるその日、天使たちが現れる終末戦争まで……もう8ヶ月も無い。カードに描かれた薄気味悪い絵を見ながら、改めて決意する。そうだ、俺は聖剣を手に入れて……天使どもをぶっ倒さなきゃならねぇ。
──痛みからか、俺は少し眠ってしまったようだった。陽が落ちかけていて、空がオレンジ色に染まり始めた頃、ハグが工房からのそのそと歩いて出てきた。
「遅くなっちまったな……なんせ、初めて扱う素材だったからよ。ほれ、約束の聖剣だ……持っていけ」
「これが……俺の聖剣……」
小包に入った聖剣を受け取り、紐を解いて開けてみると……純白の刀身が輝く、鋭利な短剣が姿を現した。俺は試しに右手で持ってみると、思わず意識が吸い込まれそうなほど不思議な魔力を感じた。しかも、段々と柄の部分が熱を帯び、熱くなっていく……!? 俺はたまらず手を放し、地面に突き刺さる。
「……名を、レーヴァテイン。剣全体が熱を帯び、超高温になる、特殊な逸品だ。使う時以外はこの鞘におさめておけ」
ハグから革で出来た鞘を受け取り、落ちた短剣を拾ってそこに差し込んで、手に持ってみる。まるで脈動してるかのような振動を感じる……こいつはすげぇな。これならどんな相手だろうと燃やし尽くせる、そんな気がした。
「……感謝するぜ、ハグ。これで俺は……天使を殺せる」
「おう。気を付けろよ、フェイ。そいつは儂にもどんな聖剣なのか想像もつかん、異形の力だ……呑まれるなよ」
「はっ、誰に言ってやがる」
俺は立ち上がり、巨大な世界樹を見ながら宣言する。
「……俺は終末戦争を終わらせる勇者だぜ。どんな力だろうと、使いこなしてやるよ」
──俺はハグに別れを告げて、勇者寄宿学校へと歩いて戻る。
さて……聖剣も手に入れた。そろそろ問い詰めなきゃならねぇな。ヴァルハラ勇者寄宿学校、終末戦争……そして天使。 俺の知らないどこかで、このクソったれな世界を利用してるクソ野郎がいるはずだ。
──俺は聞き込みを開始するため、速足で帰路についた。




