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Chapter 1-11 「死線」

 ──大蜘蛛の突進を、股下を通り抜けて躱し、俺はできるだけ仲間から遠ざけるように誘導する。

 こいつの相手をしながら、あいつらに指示を出すのは無理だ。アルベールの手腕を信じて、子蜘蛛たちの対処は任せるしかねぇな。


 まずはこの機動力を何とかしねぇと反撃のチャンスすら無い。後ろ足4本は移動に使い、残った4本の手で変則的に攻撃を仕掛けてくるのもあって、読みづれぇ。

 ……突進のあとに、少し隙が出来るな。そこを狙って、まずは後ろ足から獲りに行く!


「キシャアア!」


 来る、あの突進が! 俺は同じ様に素早くスライディングをしながら避けて、後ろ足を狙ってダガーをその勢いのまま斬りつける!

 ガクッ、と大蜘蛛が体勢を崩す。 よし、これなら攻撃が……。


「何っ!?」


 口から糸を吐き、それに絡めとられ、身体ごと持ち上げられた!? くそっ、粘着性が高く、抜け出せない! まずい、このままじゃ無防備な状態で前足の攻撃を受けることになる! 必死にダガーで糸を切ろうとしても、粘ついた糸が切りづらい!


「がっ……は……」

 

 2本の前足は俺の胴体を貫き、身体に大きな穴が2つ出来た。そのまま俺は床に叩きつけられ、動けなくなる。手足が痺れ、段々と意識が薄くなっていく……。蜘蛛は巨大な口を開け、俺を捕食しようとしていた。


「ギシャアァ!?」

「……なんてな。悪(わり)ぃ、俺は毒とか効かない体質でね。あー、痛(いて)ぇなクソ野郎。毒は効かなくても、身体に穴開けられて死ぬほど痛(いて)ぇ」


 こいつが俺にとどめを刺す瞬間、ダガーを脳天に深く突き刺し、そのまま引き切る! ドサリ、と巨体が地面に横たわり、じたばたと暴れたあと……ひっくり返って、絶命した。


「……そうだ、あいつらは!?」


 ──子蜘蛛たちは5人を取り囲み、じりじりと詰め寄っている。アルベールはかなりやれてるほうだ。子蜘蛛たちを斬り捨てながら、瞬時に判断して的確な指示を飛ばしている。だが前衛の2人は疲弊しており、このままだと時間の問題だった。


「ぼくが……やるしかないんだっ!」


 スコットが鞄を降ろし、中から何かの瓶を取り出した!? それを子蜘蛛たちに投げつけると、たちまち燃え広がり、発火した!

 なるほど、あれだけの荷物の中身が何なのかわからなかったが、アイテムを収納してたってわけか。だが、あれでも処理が間に合ってねぇ。俺が行くしか……くそ、血を失いすぎたからか、身体がふらついて真っすぐ歩けねぇ!


「ぐぉぉ!」


 子蜘蛛の一体がドゴンの顔に張り付いた!? まずい、あのままじゃ……!


「──あちぃぃぃ!!」


 ドゴンを襲っていた蜘蛛が燃え始め、周囲の子蜘蛛たちも一斉に炎上する!


「……わたくしも、戦いますわっ!」

「セリーヌ!? お前、水魔法が適性じゃなかったのか?」


 俺はゆっくりとセリーヌのもとへ歩き、質問をしてみる。魔力壺を使ったあの魔法適性試験では、彼女の適性は水魔法だったはずだ。


「……地水火風の4属性初級魔法であれば、全ての属性を扱えますわ」

「えーっ!? エルフでもそんなこと出来る子いないよぉ! セリーヌ、やるねぇ!」

「皆様は……命を賭けて、わたくしを救ってくれた恩人です。恐怖に打ちひしがれてるだけでは、アドミラルの家名に泥を塗ることになりますわ」


 ──セリーヌの炎魔法で戦意を失っていた子蜘蛛たちを、難なく処理して……称号付きの討伐を完了する。

 彼女が俺に向かって、貴族らしい優雅な礼で、感謝を告げる。


「……貴方のおかげで、わたくしも勇気を頂きました。ありがとう、フェイ」

「お前が恐怖に負けなかっただけだ。俺のおかげじゃねぇよ」

「……ふふ。それでも、感謝いたしますわ」


 ドゴンが悲しそうな顔で、うつむきながらボソっとつぶやく。無くなってしまった髪の毛を懐かしむように、頭をさすりながら。


「……せっかく少し生えたオレの髪……また無くなった」

「こ、これは失礼を……申し訳ございません、ドゴン」


 こいつは髪を生やしちゃいけない呪いでもかかってるのか……? 申し訳なさそうに謝るセリーヌと、悲しそうなドゴンを見て思わず笑ってしまった。

 ──俺たち7人は、親蜘蛛の巨大な魔物核と、子蜘蛛の小さな魔物核を拾い集め、ヴァルハラ勇者寄宿学校へ帰還することになった。


 † † † † † † † † † † † † † † † † †


「……どういう状況だこれ」


 魔物を討伐し、勇者寄宿学校へ戻ると、俺は救護室へ連れていかれた。なんせあの魔物から受けた攻撃で、俺の腹には風穴が2つ出来てたからだ。シャルに連れられ、治癒魔法を受けて心地よさから眠ってしまったところまでは覚えている。

 ──起きたら、シャルも迷宮での戦闘で疲れ果てているからか、椅子に座ってすやすやと寝息を立てているようだった。そして、俺の隣で……あの金髪巻き髪女のセリーヌが寝ている。両手を俺の胸に置き、心臓の音を確かめるように……目を閉じていた。


「──あら、おはようございます、フェイさん」


 セリーヌはゆっくりと目を開くと、金色の瞳で真っすぐに俺の顔を見ている。 いや、近ぇって。

 

「……お、おう。えっと、このベッド俺が使ってるんだが?」

「はい、存じ上げておりますわ」


 特に悪びれる様子もなく、続きを話す。


「お慕いしております。どうぞ遠慮なく、わたくしに身を任せてくださいまし」

「え?」


 待て待て待て! チョロすぎるだろどうなってんだ!? いや確かに、俺が幼少期の頃に見た絵本にもこういう物語はあった。勇者が悪い竜から姫を救い、姫が勇者に惚れて2人は永遠の愛を誓う、みたいな話だ。セリーヌの手が俺の身体を這い、全身鳥肌が立つ。


「お、おいおい! 魔物にびびって漏らすような女なんか好きになれねぇって!」

「あら……酷い御方。でも……そんな罵倒も心地よく感じてしまいますわ」

「変態かコイツ!? お、おいシャル……助けて……」


 俺が寝ているシャルに助けを求めると、その後ろの扉が開き、誰かが入ってくる! 慌ててセリーヌをシーツの中に押し込めて、何とか隠そうとする。


「やぁやぁやぁ、まーた大怪我したんだってぇ?」

「よ……よぉヴィンセント……」

 

 長い白銀の髪をポニーテールのように結った男が、嘘くさい笑顔のまま俺に近づいてくる。


「……君は私の切り札だ。余り無茶をしてもらっては困るなぁ? ……私との契約、忘れてないよね?」

「……忘れてねぇよ」

「そ、なら良かった!」


 ──ヴィンセントが俺に釘を刺した。ああ、俺は……勇者になるため、7年前、こいつと契約をした。俺に生きる術を教える代わりに、このクソ教官の思惑に乗ってやらなきゃならねぇ。まぁ、利害が一致してる間は協力してやるつもりだ。

 奴が扉を閉めながら、一言俺に忠告する。


「──不純異性交遊は、ほどほどにするんですよ、フェイくん」

「なっ、お前……気づいて!?」

「はははは! 気配もそうですし、ベッドのシーツが不自然に膨らんでいれば誰だって気づきますよ。じゃ、まったねー!」


 ……バタン、と扉が閉まると同時にシーツの中からセリーヌが顔を出してくる。


「では、続きをいたしましょうか──」

「待っ──」


 俺は何かの視線を感じ、恐る恐る首を傾けてみると……目を大きく見開いて、笑いながら怒っている……シャルが居た。


「フェイさんっ……セリーヌさんっ……不潔ですっ! いったい何をしているんですかぁー!」


 そのあと俺とセリーヌは、シャルから神の教えだとか、純潔を保つ重要性だとか、そういう宗教染みた思想を朝まで語られることになったのだった……。

ここまで読んでくださってありがとうございます! 皆さまのブクマやコメント、評価でモチベーションが上がっております。

11話をもちまして、第一章が終わります。このあとはさらに物語の核心に迫っていくので、第38勇者隊の生き様を見届けてくださると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
ここまで一気に読ませてもらいました! テンポもよく読みやすかったですし、内容も面白かったです。 これからヒロインたちとの関係もどうなっていくのか楽しみです(^o^) ブックマークしてあるので続きが出て…
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