第六話:琥珀の檻、鉄の叛逆(前編)
「……藤田一等准尉。君に、特命がある」
特殊防衛隊本部、最深部の司令室。
勝は、ホログラム越しに映し出される最高幹部たちの冷徹な視線を受け止めていた。
「練馬の戦闘記録を精査した結果、未確認のエネルギー干渉が確認された。その源泉は、君の直属部下……山名貞子事務官にあると断定した」
勝の心臓が、鉄の槌で叩かれたように跳ねた。
「……聞き捨てなりません。彼女は非戦闘員の事務官です。あの干渉は、敵の自壊によるものかと」
「白々しいぞ、藤田。彼女の生体データには、ミネルヴァ特有の波形が混ざっている。……彼女は、かつて我々が極秘裏に研究していた『半ミネルヴァ化被検体』の生き残りだ」
司令官の言葉に、勝の拳が白くなるほど握りしめられる。
貞子が時折見せる、人間離れした熱量。琥珀色の瞳。
すべてが、最悪のパズルのピースとして繋がり始めていた。
「彼女を直ちに拘束し、検体として差し出せ。これは命令だ。拒否すれば、君も反逆罪に問われる」
「……勝さん? どうしたんですか、そんなに怖い顔をして」
ベースのテラス。夕暮れの琥珀色の光を浴びて、貞子が不思議そうに首を傾げた。
彼女の手には、勝のために用意した夜食の包みが握られている。
「山名。……お前は、自分が何者か知っているのか」
勝の声は、いつになく低く、震えていた。
貞子の笑顔が、一瞬で凍りつく。包みが地面に落ち、中からおにぎりが転がった。
「……あ、あはは。……急に、何を……」
「お前のデータは、本部に筒抜けだ。今すぐここを離れろ。俺が……俺が時間を稼ぐ」
「勝さん……?」
「行け! 命令だ!!」
勝が叫んだ瞬間、ベースの全域に赤い緊急警報が鳴り響いた。
『ターゲット、山名貞子の生体反応を確認。捕獲班、突入せよ!』
背後から、重武装した「捕獲班」の隊員たちが姿を現す。
その中には、複雑な表情を浮かべる山本と、タブレットを握りしめた田中の姿もあった。
「……勝さん」
貞子の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
その涙は、地面に触れる前に琥珀色の結晶へと変わり、周囲の空間を激しく振動させた。
「私……勝さんと、ずっと一緒に、おにぎり食べたかっただけなのに……っ!」
彼女の背後に、巨大な半透明の翼……ミネルヴァの象徴が、残酷なまでに美しく広がっていく。
「山名……逃げろと言っただろう……!」
勝は、迫りくる味方の隊員たちに向け、かつての戦友たちに向け、静かに自らの振動剣を抜いた。
上官としてではなく、ただ一人の男として、彼女を守るための「叛逆」が始まった。




