閑話ニ:鉄の胃袋と、愛の重圧弁当
「……おい、山本。あれを見ろ」
「……見えてますよ、田中さん。というか、直視できません」
特殊防衛隊の食堂。昼休憩の時間、田中幸恵と山本富樫は、遠くの席で繰り広げられる「異様な光景」を遠巻きに眺めていた。
そこには、山積みになった重箱を前に、真剣な面持ちで箸を動かす藤田勝の姿があった。
そしてその隣で、頬を赤らめながら「あーん」の待機(物理的な圧力)をかけている山名貞子。
「勝さん、次はこれです! 練馬産の食用ミネルヴァもどき(キノコ)の特製ソテー、ビタミン豊富ですよ!」
「……むぐ。……山名、これ、量が多すぎないか。昨日も3キロあったぞ」
「だって、勝さんは現場の人ですから! 筋肉の維持にはタンパク質が必要ですし、私の愛……あ、いえ、真心も詰まってますから!」
勝は無言で咀嚼を続ける。
普通なら「重い」と感じるはずの量と熱量だが、彼は「部下の熱意には応えるのが上官の務め」という斜め上の解釈で、胃袋の限界を超えて立ち向かっていた。
「……勝さん、顔が青くなってますよ。……でも完食しようとしてる。あれ、愛ですよね」
山本が感動したように呟く。
「愛っていうか、もはや我慢比べに近いわね。……でも見てなさい」
幸恵がニヤリと笑う。
その時、勝がふと、貞子の口元に付いたソースに気づいた。
「山名。……付いているぞ」
勝は無造作に指を伸ばし、彼女の口元を拭った。
「っ……!? ひゃっ、は、はいっ! ありがとうございます!!」
貞子の体温が急上昇し、周囲の空間がわずかに琥珀色に歪む。
「あ、熱い!? 勝さんの指、レーザーカッターより熱いです!!」
「(……俺の指が熱いのか? 山名の顔が熱いだけでは……?)」
勝は不思議そうに首を傾げる。
その瞬間、貞子の中の「半分」が喜びで暴走し、持っていたお箸が、彼女の握力(ミネルヴァ級)に耐えきれず『パキィッ!』と粉砕された。
「……あ、あはは。……このお箸、ちょっと脆かったみたいです」
「そうか。田中、予備の箸……いや、もっと高強度のチタン製の箸を用意してやってくれ」
「……はいはい。防衛予算で『対ミネルヴァ用箸』を開発しろってわけね。了解」
幸恵はため息をつきながら、タブレットにメモを入れた。
平和な日常の裏で、着実に「人間の常識」を壊していく貞子の力。だが、今のこの空間には、ただただ甘ったるい空気だけが流れていた。




