第七話:琥珀の檻、鉄の叛逆(後編)
「……藤田准尉! 何をしている、剣を収めろ! それは人類の敵だぞ!」
捕獲班の隊長が怒号を飛ばす。幾重にも取り囲む銃口の先には、背中から琥珀色の光翼を広げ、恐怖に震える山名貞子がいた。
「敵だと? ……笑わせるな」
勝は振動剣を抜いたまま、貞子の前に立ちはだかった。その背中は、どんな防壁よりも強固に彼女を遮っている。
「彼女はこの数ヶ月、誰よりもこの街の平和を願い、俺たちの胃袋を支え、戦場では誰よりも俺の命を救ってきた。……それが『敵』だというなら、この組織の定義が間違っている!」
「勝さん……だめ、私と一緒にいたら、勝さんまで……!」
貞子が涙ながらに彼のコートの裾を掴む。彼女の指先から漏れる高密度エネルギーが、勝の服を焼き、肌を焦がしていく。だが、勝は一歩も退かない。
「黙っていろ、山名。……これは上官としての、最後の『教育』だ」
その時、通信機から田中幸恵の声が割り込んだ。
『……全く、熱血バカも大概にしてよね。勝、あんたの言った通り、本部の極秘サーバーからデータを「拝借」したわ。山名さんの因子は、ミネルヴァを倒すための兵器じゃなく、共生するための鍵だった……。上層部は、その利権を独占したくて彼女を「検体」に仕立て上げたのよ!』
「なっ……田中、貴様!」
司令官の怒声が響くが、幸恵は止まらない。
『山本くん、準備はいい!?』
「了解です! 勝さんの背中は、僕が守ります!!」
後方に控えていた山本が、捕獲班の足元へ向けて威嚇射撃を放った。
「……藤田准尉! 僕はあなたの背中を見て育ったんです! あなたが守るものは、僕も守る!!」
戦場は、本部直轄の捕獲班 vs 勝たちの内紛状態へと突入した。
「……山名、顔を上げろ」
勝は、背後でうずくまる貞子に手を差し伸べた。
「お前が半分ミネルヴァだろうが、人間だろうが、俺には関係ない。……お前は、俺の隣で肉じゃがを作る女だ。それだけで、守る理由は十分だ」
貞子の瞳から、琥珀色の光が消え、澄んだ人間らしい光が戻ってくる。
「……はいっ、勝さん……!」
だが、その瞬間。
ベースの地下から、巨大な振動と共に「真の絶望」が這い出してきた。
上層部が貞子を捕獲するために呼び寄せた、人工的な共鳴装置。それが周囲のミネルヴァを狂乱させ、ベースそのものを食らい尽くそうとする。
「……シリアスなのは、ここからのようだな」
勝は剣を構え直し、貞子を背後に庇いながら、闇から現れた多脚型の殺戮兵器を見据えた。
組織に留まりながら、組織の闇を切り裂く。鉄の男の、真の戦いが始まった。




