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第四話:疑惑の残響、あるいは不器用な手当て

「……異常なし、か。そんなはずないんだけどね」

特殊防衛隊、技術開発局の深部。田中幸恵は、精密検査カプセルの中で眠る山名貞子の生体データを見つめ、忌々しげにこめかみを叩いた。

モニターに並ぶ数値は、極めて「正常な人間」のそれを示している。だが、練馬で観測されたあの圧倒的なエネルギー波形は、間違いなくこの少女の中心から放たれていた。

「田中。結果はどうだ」

自動ドアが開き、藤田勝が入ってくる。戦闘の汚れも落とさず、彼は真っ直ぐにカプセルへと歩み寄った。

「数値の上では『ただの貧血』よ。……でもね、勝。あの時、彼女の周囲の空間係数は、ミネルヴァの王族級(クラスⅥ)に匹敵する歪みを見せていたわ」

「……」

「あんた、薄々気づいてるんでしょ? 彼女がただの『運がいい事務官』じゃないことくらい」

勝は無言で、透明な強化ガラスの向こう側にいる貞子を見つめた。

彼女の指先には、まだ微かに、戦場で見た「琥珀色の輝き」の名残があるような気がした。

「……山名は、俺の部下だ。それ以外に、報告すべき事案はない」

「硬いこと言っちゃって。……まあいいわ、データは私が『適切に』処理しておく。あんたの頼みだしね」

幸恵は肩をすくめると、タブレットの画面をスワイプしてログを消去した。

その時、カプセルの中で貞子がゆっくりと目を開けた。

「……あ、勝、さん……?」

「気がついたか。無理に動くな」

勝が駆け寄り、カプセルのハッチを開ける。貞子はふらつく体で起き上がると、申し訳なさそうに俯いた。

「すみません……。また、ご迷惑を……」

「謝るな。お前のおかげで、練馬の損害は最小限で済んだ。……礼を言うのは、俺の方だ」

勝はそう言うと、懐からゴソゴソと何かを取り出した。

それは、少々不格好に包装された「高級栄養ゼリー」だった。

「これ……?」

「田中が、疲労回復にいいと言っていた。食え」

「(あ、私が適当に言ったやつ、本当に買ってきたのね……)」

幸恵が背後で呆れる中、貞子の顔がパッと明るくなった。

「勝さんが、私のために……! 嬉しいです、大切に食べます!」

「……大切にするな。今すぐ食え。命令だ」

不器用な勝の言葉に、貞子は「はいっ!」と元気に返事をする。

その笑顔は、どこからどう見ても恋する乙女そのもので、人類を滅ぼす化け物の片鱗など微塵も感じさせなかった。

だが、勝は気づいていた。

貞子がゼリーを受け取った瞬間、彼女の手のひらが、熱を帯びた機械のように熱かったことに。

「(山名……お前は何を隠している。……いや、何を背負わされているんだ)」

守るべき対象と、疑うべき正体。

鉄の男の心に、小さな、しかし消えない亀裂が入り始めていた。

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