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第ニ話:琥珀の鼓動、鉄の守護

「……ふぅ。今回の収穫量は、ノルマの120%か」

特殊防衛隊、東京第03ベース。

藤田勝は、強化外骨格を脱ぎ捨て、汗を拭いながらモニターを見上げていた。画面には、先ほどの戦闘で回収された「ミネルヴァ」の核が、不気味に、しかし美しく琥珀色に発光している様子が映し出されている。

これが人類の希望であり、同時に数多の命を奪ってきた絶望の塊だ。

「勝さーん! お疲れ様です! プロテイン入りの特製スポーツドリンク、作ってきました!」

重厚なベースの隔壁を、まるで近所の公園にでも行くような軽やかさで潜り抜けてきたのは、山名貞子だ。

彼女の手には、これまた不釣り合いなほど可愛らしい水玉模様のボトルが握られている。

「山名……。ここは一応、汚染除去が終わっていない区域なんだ。あまりうかつに入るなと言っただろう」

勝はわざと厳しめの声を出す。だが、差し出されたボトルを受け取る手には、彼なりの不器用な優しさがこもっていた。

「えへへ、でも勝さんが心配だったんです。あ、今日のお夕飯、勝さんの好きな肉じゃがですよ? 基地の配給、ジャガイモが多くて助かります」

貞子は無邪気に笑う。その笑顔の裏で、彼女の細胞が「ミネルヴァの核」に呼応し、熱く脈打っていることなど、勝は知る由もない。

貞子の本質は、人類が「倒すべき対象」としている存在そのものなのだから。

「……山名さん、相変わらず攻めるわねぇ」

背後から、呆れたような声が響いた。技術局の田中幸恵だ。

彼女はタブレットを片手に、勝の装備の損傷具合をチェックしながら、貞子を観察するように目を細める。

「田中。装備の修繕状況はどうだ」

「それなりよ。でも、変なのよね。勝のスーツ、一番激戦区にいたはずなのに、致命的な損傷が一つもないの。まるで……目に見えない何かに守られてるみたいに」

田中の鋭い言葉に、貞子の肩がピクリと跳ねる。

実際、先ほどの戦闘中、勝の背後に迫ったミネルヴァの触手を、貞子は「瞬き」一つで分解していた。人間には到底不可能な、意識の干渉。

「俺の腕がいいだけだ」

「はいはい、そーですね、一等准尉殿。……でも山名さん。あなた、少し顔色が悪いわよ? 医務室へ行く?」

田中の視線が貞子の手元に注がれる。貞子の指先が、わずかに震えていた。

ミネルヴァの核が近くにあると、彼女の中の「半分」が暴走しそうになるのだ。

「だ、大丈夫です! ちょっと、お夕飯の献立を考えすぎて……!」

「ならいいけど。勝、あんたもたまには女の子を労りなさいよ」

幸恵は意味深な笑みを残して去っていった。

残された二人。勝は少し迷ったあと、貞子の頭に無造作に手を置いた。

「……無理はするな。お前が倒れたら、俺の食事管理はどうなる」

「! ……はい! ずっと、ずっとお側にいます!」

貞子は顔を真っ赤にして、大きく頷いた。

その瞬間、基地のアラートがけたたましく鳴り響く。

『緊急入電! 練馬区上空にクラスⅤのミネルヴァが出現! 特殊防衛隊、直ちに出撃せよ!』

勝の目が、一瞬で「現場の人」へと切り替わる。

「山名、シェルターへ行け。……肉じゃが、楽しみにしてる」

「はい、勝さん。……ご武運を」

走り去る勝の背中を見送りながら、貞子の瞳が、冷徹な琥珀色へと染まる。

彼女の指先から、黒い粒子が静かに舞い上がった。

「勝さんを傷つけるやつは……私が、許さない」

愛する人を守るため、彼女は自分自身の「正体」を削りながら、戦場へと影を這わせるのだった。

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